これは4月10日の拙ブログの記事「内部被曝」について、5月25日に丸井様という方からいただいたコメントへのお返事です。長くなったのと、大切な問題を含むので、独立した記事としてこちらに書きました。
>人間は、生まれた時から内部被曝をしています。
自然界に放射性物質があるのですから当然です。人間の体内には、たとえばカリウム40があり、それによる自然放射能の内部被曝を当然しています。これは地球上に暮らす生物であれば避けられません。
問題は、人間の営み(核実験や、稼働中の原発、事故の原発など)によって、自然放射能以外の内部被曝を、余分にしてしまうことにあるのです。それらの人間の営みがなければしないですむ内部被曝を、してしまうことが問題なのです。
>赤ん坊の死亡率が減少したからです。
乳児死亡率は、衛生状態の向上、医学の進歩などにより、徐々に下がってきています。もし核実験や原発の影響がなければ、もっと死亡率が下がったという可能性が高いのです。このあたりのことは、以前拙ブログでもご紹介したアーネスト・スタンバーグ博士のグラフを見れば良くわかります。すなわち年々減少をしていたアメリカの乳児死亡率が、核実験の始まりとともに、その減少傾向に歯止めがかかっているのです!
>人体は、ヨウ素以外の放射性物質を体内に取り入れても、その大半を体外に排出してしまうのです。
もし大半が排泄されても、少しは体内に残留します。その残留分によって、健康に被害があるかどうかを論じなければ、まったく意味がありません。
たとえばロシアのマヤーク・プルトニウム生産体による放射能汚染により、付近住民のストロンチウム90は、一般地域住民の100倍以上の値が測定されていて、しかもそれが40年たってもそれほど下がっていない、というデータがあります。またセシウム137についても、たとえばチェルノブイリ近くの村に住む住民から、体重1Kgあたり1.5キロベクレルもの内部被曝が1997年に測定されています。セシウム137は、物理学的半減期は30年ですが、生物学的半減期は成人の場合約100日と短い物質です。それでも住民はこういった高い内部被曝をしているというデータがあるのです。1997年の測定ですから、事故から10年以上たっていても、これです。ヨウ素以外は気をつけなくてもいい、というのは大いなる誤解です。
>これまでプルトニウムを吸引したり摂取した人で、癌になった人はいません。
どうしてそのように断言できるのでしょうか?どの本にも、危険が書いてありますよ。プルトニウムは、物理学的半減期は2万4千年、生物学的半減期は骨では100年、肝臓では40年。プルトニウムは骨、肝臓、肺などに集積しやすく、プルトニウムによって、骨腫瘍、肝臓ガン、白血病、肺がんなどのリスクが指摘されています。やっかいなのは、被曝してから発がんして症状が出るまでの潜伏期が、一般にきわめて長い(20~30年たってから現れることもある)ので、因果関係が証明しにくいということなのです。
>これまで多くの科学者が、内部被曝の問題について多くの議論がなされ、動物実験を含め多くの研究もなされてきました。その結果、瞬間的に広島長崎の原爆以上の放射線量でないと内部被曝の影響は、ほとんどないことが判ってきているのです。
これは、アメリカの言い分そのものですね。アメリカは、広島・長崎で、実態とかけはなれた被害の過小評価をしてきました。
チェルノブイリの事故評価でも、IAEAの評価は、健康被害をきわめて小さい評価しかしていませんが、それよりももっと甚大な健康被害があったという報告がいろいろ出ています。
内部被曝を軽視するIAEAに対して、欧州放射線リスク委員会は、より慎重に、内部被曝の影響をきちんと評価しようとしています。欧州放射線リスク委員会が2003年に出した勧告は、それ自体すぐれているものでしたが、その後も新しい知見(たとえばスウェーデンにおける疫学研究で、チェルノブイリで出たセシウム137により発ガンが11%増加するなど)をとりいれて、2010年に新しい勧告を出しています。
内部被曝の詳細については、まだまだわかっていないことが沢山あるのです。「ないこととされていた」内部被曝の本当の怖さは、これからより明らかになっていくことでしょう。