カテゴリ:演奏会(2012年)
ブロムシュテット85歳記念と銘打った、ブルックナー4番の演奏会を聴きました。大感銘を受けました。
-------------------------------------------------- 11月6日 サントリーホール 指揮:ヘルベルト・ブロムシュテット指揮 管弦楽:バンベルク交響楽団 ピアノ:ピョートル・アンデルシェフスキ モーツァルト:ピアノ協奏曲第17番 ブルックナー:交響曲第4番 (ノーヴァク版) -------------------------------------------------- 僕は、これまでにブロムシュテットのブルックナーは、 自分の行ったコンサートの記録をつけるようになった2003年以降では、4回チケットを買いました。 2005年2月 ゲヴァントハウス管 7番 (サントリー) 2008年1月 N響 4番 (NHKホール) 2009年11月 チェコフィル 8番 (サントリー) 2010年4月 N響 5番 (サントリー) けれど2005年の7番は、楽しみにしていたのですが、ひどい風邪による体調不良で、やむなく行くことを断念しました。ですので聴いたのは3回になります。 チェコフィルとの8番は、さすがにオケの魅力もあって、それなりに良いブルックナーを楽しむことができました。そのときの自分の感想は、ブログ記事「2009年ブルックナーの演奏会を振り返って」に書いていました。見返してみたら、 ”ブロムシュテット/チェコフィルの8番は、余計なことをしないで、曲そのものに語らせるというような、匠の技を感じました。オケは、すべてのパートが必要以上に突出することなく、引っ込みすぎることもなく、すばらしいアンサンブルでした。これに凄みのようなものが加われば、さらにすごいブルックナーになったとは思いますが、それはそれとして、極上のブルックナーのひとつを聴けたと思います。” と書いてありました。 しかしこのチェコフィルとの8番を含めて、これまで僕が聴いたブロムシュテットのブルックナーは、いずれも比較的淡白なあっさりとした演奏で、そこが僕としてはいささか物足りなさを感じていました。ブルックナーは、もっと大きな、もっと超越的な音楽であってほしい、という思いを抱いていました。 今回、同じようなスタイルのブルックナー演奏を想像しつつ、ホールに臨んだのでした。 さてプログラムの前半は、アンデルシェフスキのピアノによるモーツァルトのピアノ協奏曲第17番。自由な感覚で夢のように繊細なピアノが美く、オケもそれにあった上質な響きで、とりわけ第二楽章、第三楽章が素敵で楽しめました。アンコールのバッハ(フランス組曲第5番からサラバンド)がまた繊細でロマンティックで、とても素敵なバッハでした。 そしてブルックナー。オケは両翼配置で、コントラバスは舞台下手に8台。 冒頭のホルンの主題呈示から、一気に引き込まれました。ポーーーポーーッポポーーーの動機を4回繰り返しますね。この4回目は低い音になりますが、その4回目のホルンの音量がぐっとさがり、弦の音色に埋もれるような響きとなり、すごく深みがありました。 これに始まり、弦が、木管が、金管が、ティンパニが、さまざまに呼応し、あるいは一体となり、絶妙のバランスで、音楽が進んでいきました。このパートのバランスが、必要なところに必要なものが必要なだけ出てきて、何かが突出しすぎるようなことがありません。 金管が大きく吹くところでは、充分にゆったりと力みなく鳴り、刺激的でなく、全くうるさくありません。堂々としていますが、勇ましくありません。これこそ正しきブルックナーの金管の鳴らせ方と思います。柔にして剛の響き。たとえば、もっとホルンの音量が大きいロマンティックは沢山あるでしょう。もっと勇ましいロマンティックは沢山あるでしょう。でも、これで良いのです。 ところでこういった方向性の美質は、これまできいたブロムシュテットのブルックナー演奏でも程度の差はあれ、感じてきたものです。 今回の演奏がこれまでと決定的に違ったのは、音楽の流れです。 これまでのブロムシュテットのブルックナーは、淡白というか、あっさりと流れすぎていたのですが、今回はまったくちがいました。 テンポが極端に遅いというわけではないし、大きな長い間合いをとるというわけでもありません。たまに目だったアッチェレランドなどはありますが、決して極端なテンポ変化はないし、どこかの楽節や、楽節間の移行の間合いをことさらに特に強調するようなことはまったくありません。音楽のどこかに頂点を作ろうとか、そういう作為がなく、あくまで音楽の自然な流れの中で、ちょっとしたテンポ変化や、ちょっとした間合いをとるという感じです。 それでいて、そこから立ち現れる音楽が、まったく淡白でないのです。そこから立ち現れる音楽は、信じられないほど巨大で、深く、澱まずに悠然と進む一貫性があり、そしてまったく弛緩することがありません。完璧なテンポ、完璧な間合い。これは奇跡ではないでしょうか。 ブロムシュテットの指揮ぶりを見ていると、本当にブルックナーを演奏するよろこびと幸せをいっぱいに感じているようで、心から楽しんでいるように見えました。作為が感じられません。ブロムシュテット85歳にして達した、透徹の境地。 僕はもう、そんな指揮を見ながら、巨大すぎて全部は受け取れないものを、少しでも受け止めようと、背筋をのばし、襟を正して、ただただ聴くばかりでした。短いようでもあり、長いようでもあった、至福のひとときでした。これぞブルックナーの音楽。 (音楽が終わって、ブロムシュテットの指揮棒が高くあがったままのとき、残響が消えて少ししてからですが、拍手が始まってしまいました。タクトが降りてから拍手、というマナーがもっと守られることを願いたいです。) これまでにブルックナーの4番は、いろいろ聴いてきましたし、いろいろと感動してきました。でもこれほどの大きな感銘を受けたことは、そう滅多にはありません。チェリビダッケ&ミュンヘンフィルの4番をサントリーで聴いて涙した、それ以来と言える、久しぶりの感動体験でした。ブロムシュテットさんとバンベルク交響楽団の皆様、ありがとうございました。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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