指揮:大植英次
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
ソプラノ:アンナ・ガブラー
アルト:スザンネ・シェファー
テノール:ヨセフ・カン
バリトン:アンドレアス・バウアー
合唱:東京オペラシンガーズ
ベートーヴェン 交響曲第9番
12月22日 サントリーホール
12月23日 オーチャードホール
大植さんが東フィルを指揮する第九は、チャリティコンサートなどを含めると、この年末に数回行われたようです。オケの主催公演としては21、22、23日の3回で、その二日目と三日目を聴きました。
まず22日サントリーホール。P席で聴きました。
昨年末の大植&大フィルの第9は、とてもユニークな楽器配置ということでしたので(大フィルのブログに大フィルの第九の歴史を紹介する興味深い記事があり、その中に昨年末の楽器配置の写真があります)、今回がどういう配置かが、気になるところでした。 普通の対抗配置でした。すなわち弦は下手から第一Vn、Vc、Va、第二Vnで、Cbは一番下手側。管も普通の配置でした。
コンマスは、2011年のブラームス1番、そして今年の大フィルとのマーラー9番でもコンマスを務めた三浦章宏さん。暗譜で、指揮棒を持たず、各パートにさかんに忙しくキューを出す激しい指揮ぶりで、大植さんはとても元気そうです。
第三楽章は、大植さんならではの味わい深い歌が歌われました。そして第三楽章が終わると、普通に一息ついただけで、声楽陣が入場せず、そのまま第四楽章が始まりました。これは一体?と思っていると、大きな仕掛けがありました。
歓喜の主題が低弦で静かに奏でられ始めるとまもなく、舞台上手からバリトンが、ゆっくりと静かに入場してきました。そして低弦の主題提示が終わる頃に、オケ の後ろの、ほぼセンターの位置にバリトン歌手は到着して、まっすぐ前をむいて立ちました。続いてヴィオラによる歓喜の主題提示が始まると、今度は舞台下手 からアルト、上手からテノールが、やはりゆっくり静々と入場してきて、主題提示が終わるころに、バリトンの隣にまっすぐ立ちました。続いてヴァイオリンに よる歓喜主題の提示になると、今度はソプラノが下手からしずしずと入場し、主題提示の終わるころにセンターに到着し、4人ならんで正面をむいて立ちまし た。続いてフルオケで歓喜主題を確保するところで、男声合唱ついで女声合唱が舞台両側から続々と入場し、センター寄りに男声、外側に女声で合唱団がずらり と並びました。並び終わると、独唱者4人がそろって着席して、オケの経過句が終わると、バリトンがすくっと立ち上がって歌い始める、という趣向でした。
この入場方式、ベートーヴェンのコアなファンは嫌がるのではないでしょうか。僕は、コアなファンではないですが、最初はびっくりして、結構な違和感がありま した。特にヴィオラの主題提示にファゴットが対旋律でからむところは、この曲で僕がもっとも好きなところですので、あえてここで入場させなくともいいのではないか、と感 じたりしました。しかし、合唱が入ってくるあたりになると、人が大勢集まってくるさまが、音楽が盛り上がっていく曲想に非常にあっていて、これもありかな、と思いました。そして始まったバリトンの歌唱が圧倒的にすばらしかったです。そのあとの合唱も力強くすばらしく、大植さんらしいテンポの大きな揺れとためが、実に心地よいです。古典的な形式美を至上とする向きからは嫌われるベートーヴェンかもしれません。僕は大好きでした。
曲の最後の最後にアッチェレランドするところで、さっと胸から短い指揮棒を取り出して、颯爽と指揮棒を振って、曲を締めくくりました。それまでの長い長い間をずっと指揮棒なしで振って、なんと最後の10秒だけ指揮棒を出して振ったのでした。これも音楽的にどこまで意味があるのかはわかりませんが(^^)、大植流というところでしょう。終演後、ブラボーの歓声は結構あがりましたが、心なしか拍手があまり大きな感じがしなかったのは、気のせいなのか、それとも伝統的な演奏を愛する人たちに嫌われたのか。。。でも僕はこのロマン的な第九、非常に好きです。
翌日はオーチャードホール。これは1階平土間のセンターで聴けました。
席の関係が大きいと思いますが、きょうは弦楽の音の熱さが、昨日よりずっとダイレクトに伝わってきます。第一楽章からチェロの気合が半端でなかったし、弦の各奏者が楽しそうに、生き生きと弾いていました。きょうも、後半のふたつの楽章が絶品。第三楽章が始まった瞬間の弦のアンサンブルが、とても美しかったです。すばらしい第三楽章でした。
そして今日の入場方式も、昨日と同じでした。歓喜の主題提示のところで、まずバリトン、ついでアルトとテノール、そしてソプラノがゆっくりとはいってきて、そして音楽の盛り上がりに合わせて合唱団が一気に入場。こちらも2回目で心構えができていたせいか、きのうよ り違和感なく受け止められ、音楽に合わせて最初は一人ずつゆっくり、その後は大勢がざざっと参集してくるさまに、演出といえば演出ですけど、なにかとても 感動をさそわれました。ここ、言葉はなくても、音楽はまさにこういう内容の音楽ですから。(もちろん演奏自体が充実しているからこそ演出効果があがったのだと思います。)
こういう入場方式って、誰か他にやったことがあるのでしょうか。もしなければ、今後「大植方式」と呼ぼうと思います。マーラー3番はシャイー方式、ベートーヴェン9番は大植方式(^^)。
バリトンは昨日と同じく絶好調。昨日は少し弱めに感じたほかの独唱者も立派な歌いぶりで、そして合唱の力強さは昨日に増してすばらしいものでした。終演後の拍手も、昨日より一段と大きく熱い拍手でした。
これまでに僕が聴いた第九(、といっても数えるほどですが)、その中で一番の、圧倒的な感動体験でした。あらためて、第九のすばらしさをしみじみと実感しました。そのあとしばらく、歓喜の主題が頭から離れませんでした。この23日が、僕の今年のコンサート納めの演奏会でした。一年の締めにふさわしい充実のコンサートで、パワーをたっぷりといただきました。
大植さん、今年も沢山のかけがえのない感動を、ありがとうございました。