引き続き2012年コンサートです。
ブリテン オペラ「ピーター・グライムズ」
2012年10月5日 新国立劇場
指揮:リチャード・アームストロング
演出:ウィリー・デッカー
合唱;新国立劇場合唱団
管弦楽:東京フィル
ピーター・グライムズ:スチュアート・スケルトン(テノール)
エレン・オーフォード:スーザン・グリットン(ソプラノ)
バルストロード船長:ジョナサン・サマーズ(バリトン)
ブリテンのオペラを見たのは初めてです。とても楽しみにしていました。その期待どおり、非常に良かったです!
ブリテンの音楽は、北の海べを舞台とする陰鬱で重々しい物語をたんたんと語っていきます。その重苦しさがちょっとしんどいなと思いながら見続けていると、ときにあらわれるアリアの澄み切った美しさにうたれます。たとえば第一幕、少年をひきとるために村の酒場に現れたグライムズが歌うアリア「大熊座とスバルは」。粗暴な言動が目立ち村人たちと気持ちの通わないグライムズですが、彼が北の空の星座を見上げる詩的な心情を歌ったこの孤独なアリアの透徹した美しさは、圧巻でした。アリアの歌いだしの一節をあげておきます。
大熊座とスバル星は、
地とともに動き
人間の悲しみは
空に雲を生み出し
深い夜に神々しい空気を息づかせる
・・・こういう音楽の深さは、ブリテンの真骨頂が発揮されるひとつですね。
衣装以外にはモノトーンでシンプルな舞台美術、最小限に切り詰められた舞台装置も、音楽内容に実にふさわしいものでした。夜空に薄明かりをあびてほのかに光る雲の切れ切れの背景が、心象風景として絶妙な美しさをはなっていました。これらを含んだ演出が、過度に自己主張せず、ブリテンの音楽の効果を非常に高めていたのだと思います。見事な演出でした。
グライムズが慕う女教師エレン役を歌ったソプラノのスーザン・グリットンさんは、たまたまその少し前に買ったCD(フィンジの「ディエス・ナターリス」、ブリテンの「イリュミナシオン」「4つのフランスの歌」、ディーリアスの「去りいくひばり」を収録)で歌っていた方でした。このCDでも、イリュミナシオンで素敵な歌を聞かせてくれていました。ブリテンの音楽に相性が良いように思いました。
ロビーにはブリテンが住んでいたオールドバラの家の写真や、ブリテンとピーター・ピアーズなどの興味深い写真がいろいろと展示されていて、幕間にそれらを見れたのもとても有意義なひとときでした。
今年(2013年)はブリテンの生誕100周年ということです。ブリテン作品の、今回のようなすぐれた上演(演奏)に接する機会が、またあればいいなと思っています。