(この記事は、ひとつ前の記事を詳しく書き直したものです。前の記事にコメントをいただきましたので、それも残しておき、新しい記事としました。)
きらクラ!今回のBGM選手権のお題は、山村暮鳥の童話集「ちるちる・みちる」から「蚊」でした。お題の文章は番組ホームページの「お題はこちら」に載っています。
最初はこのお題に、ちょっとコミカルなバルトークの音楽をあてようとしました。
バルトーク作曲 狂詩曲第1番 BB 94b(ヴァイオリンと管弦楽版)第二楽章Frissの途中です。
動画サイトだと、
https://www.youtube.com/watch?v=DhDKd7BkTgk
がいいです。ツィンバロンも写っていますね。これの1分18秒あたりから朗読開始としてみてください。最初はややユーモラスな蚊の描写で、後半の黄金虫のところで音楽の雰囲気が変わって、わりといい感じです。これに決めかけました。
でも、この「ちるちる・みちる」という童話集の自序を読んでみたところ、聖ルカ病院に病気で入院していて天に召されたというK先生のお嬢様のことが書いてありました。童話集の序文というにはあまりにも重く悲しいできごとです。この文章の中にはお嬢様を悼む詩があり、続いて子供たちへの暮鳥のメッセージが真摯に語られていました。そして童話集の話の多くは小さな命に関するもので、そこに一貫して、命を慈しみいとおしむ暮鳥の眼差しを感じました。
虫も人も、およそ命は短くて、ちっぽけで、運命には抗えない。命の営みは、はたから見たら無意味かもしれないし、滑稽かもしれない。けれど、それでも懸命に生きる命たちのひとつひとつを、暮鳥はやさしく見守っているようです。
そこで今回は、ややコミカルなこの狂詩曲第1番はやめることにしました。代わりに選んだのは、やはりバルトーク作曲「15のハンガリー農民の歌」BB 79の、第4曲アンダンテです。原曲はピアノ曲で、ごく短い淡々とした曲です。これをバルトークの弟子のアルマという人が、フルートとピアノのために編曲しています。この編曲版が素晴らしいです。フルートが悲しくも美しく歌い、暮鳥の眼差しを、しみじみと伝えてくれるように感じ、この音楽に決めました。
この曲のフルートとピアノの版は、ピアノ曲よりは少し長いのですが、それでも普通のテンポの演奏だと1分前後なので、お題よりも先に音楽が終わってしまいます。そんな中でひとつ、Hungarotonレーベルの、Garzulyのフルート、Keilhackのピアノによる、「Flute Visions of 20th Century」というCDに入っている演奏が、ゆっくりとしたテンポで、演奏時間が約1分半で、お題にちょうど合います。この演奏は、ほどよく湿った音色のフルートの歌がほんとうに深々として美しく、とても胸に沁みます。
CDジャケットです。土俗的な笛のイメージが素敵です。
この演奏は残念ながら動画サイトにはアップされてなくて聴けません。
でもナクソスミュージックライブラリーには入っていますので、聴くことができます。トップ画面から、詳細検索の画面に進み、「演奏/指揮/合唱」の欄にGarzulyと入力して検索すると、すぐにバルトークの「15のハンガリー農民の歌」がヒットします。その中の4番目の曲
No. 4. 4 Old Tunes: Andante
です。ご興味あるかた、聴いてみてくだされば幸いです。全部聴くには有料会員登録が必要ですが、冒頭の30秒だけは、会員登録なしで、どなたでも無料で聴くことができます。
この曲の他の演奏は、動画サイトに沢山アップされていますが、いずれもテンポが速くて、お題の長さに足りる演奏はありませんでした。比較的遅めの演奏としては、
https://www.youtube.com/watch?v=2583Iw0EWyo
で、これの3分44秒からになります。しかしこれでも演奏時間は1分13秒ほどで、お題より先に終わってしまいます。演奏の雰囲気としても、Garzulyさんのやさしさを湛えた歌の深さには、遠く及ばないように思います。