カテゴリ:マーラー演奏会(2018年)
沼尻さんと神奈川フィルによるマーラー9番を聴きました。
指揮 沼尻竜典 管弦楽 神奈川フィル マーラー 交響曲第9番 5月19日 みなとみらいホール 沼尻さんの音楽は、これまであまり沢山聴いたことはありませんが、どれも皆、とても充実した体験でした。沼尻さんのマーラーは、2012年に群響との3番を聴きました。素晴らしい3番でした。 それ以来となる沼尻さんのマーラー、今度は9番です。 弦は通常配置で、14-12-10-8-7。ハープは下手に2台、打楽器群の一番下手側に板の鐘。 3番がそうであったように、この9番も、中庸のテンポで進められて行きます。それから、ダイナミクスの変化幅も中庸です。テンポが中庸、音量変化も中庸ですが、しかし聴こえて来る音楽は、内容のすこぶる充実した、非凡な響きなのです。 大きな音量のところでは、盛大に鳴らすのではなく、各楽器の音量バランスにかなり気を使って響かせていました。とりわけティンパニーは、徹底してかなり抑え気味としていました。その結果、強音のところでも全体の響きが、全くうるさくないです。これ相当凄いことだと思います。一方音量の小さいところでは、音の小ささにはあまりこだわらず、しっかりした発音を優先させる方向でした。例えば、ハープ。実に冴え渡った音をポツン、ポツンと随所で響かせていて、大変な存在感がありました。マーラーで、特に9番では、このようにハープを意味深く響かせることは個人的にはかなりの重要ポイントの一つです。それから木管。各楽器の音色の違い、性質の違いがしっかりに描き分けられ、バスクラはバスクラらしく、エスクラはエスクラらしく、しかもそれが節度を心得ていてやりすぎず、あざとくありません。 そして特筆すべきは1番ホルンでした。女性奏者で、優しく、美音で、その清冽な音色が心に染みることと言ったらありません。驚くべき名演奏でした。そしてアシストと2,3,4番ホルンはやや渋めの音色で、1番との音色の対比が鮮やかでした。このホルン隊、全員がほぼノーミスで、完成度が極めて高かったです。 僕が以前金聖響さんの一連のマーラーを聴いたときには、ホルンに関してこういう印象は全くありませんでした。そこで後日調べたら、今回1番ホルンを吹いたのは豊田さんという首席奏者で、2013年11月に正式に神奈川フィルの首席奏者に就任されたそうです。なるほど、自分の聴いた金さんと神奈川フィルのマーラーチクルスは、2010年4月~2011年5月の3番、2番、4番、5番、9番と、あとは2014年3月の6番再演(1回目は2011年3月の震災時でした)なので、6番を除くと、豊田さんの就任以前ということになります。 さて演奏全体に話を戻すと、第4楽章の途中まで、同じスタイルで中身の濃い演奏が進んでいきました。このままで終わったとしても、相当充実度の高い9番となったはずでした。 しかし沼尻さんの音楽は、これだけでは終わりませんでした。中庸で進んで来たテンポが、第4楽章後半で、ぐっと落とされたのです。極端に遅いということはないのですが、それまでとの変化幅が比較的大きいので、音楽の様相は格段に深みと凄みをを増しました。いよいよ曲の終結に向かうべくして向かっていく、その音楽の佇まいに、ある種の高貴さを感じます。おそるべし沼尻マーラー。 やがて最後の弦の音を伸ばしながら、沼尻さんはゆっくりと両手を下げていき、垂らし切ったところで音が止みました。両手を下げ切ったまましばし不動の沼尻さんを、満場の静寂が包みます。やがておもむろに沼尻さんが体を小さく動かし、それを合図に拍手が少しずつ始まって、大きくなっていきました。 記憶がすでに曖昧ですが、個人を最初に立たせたのはティンパニー奏者だったと思います。9番でティンパニー奏者を最初に立たせるというのはかなり異例です。沼尻さんがティンパニーの扱いに相当なこだわりを持ち入念に指示し、それを奏者がしっかり実践した演奏だったのだと思います。続いていろいろな奏者が立たされ、やがて1番ホルンが立つと、盛大なブラボーが飛び交いました。 感動で、ある種の放心状態のままにホールを出ると、ロビーに団員の方々がパラパラと並び、帰るお客さんに挨拶したり知り合いの方とお話していました。こういうのはいいですね。以前大フィルでも良く経験しました。通路の最後、出口辺りに1番ホルンを吹かれた豊田さんがいらしたので、熱い賞賛と感謝の言葉をかけさせていただき、幸せな余韻を感じながら帰路に着きました。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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