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じゃくの音楽日記帳

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2018.08.06
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だいぶ日にちが立ってしまいましたが、フルシャのマーラー3番のことを是非書いておきたく思います。すでに忘れかけているところもありますが、心あたたまる、良い3番でした!

指揮 ヤクブ・フルシャ
管弦楽 バンベルク交響楽団
メゾソプラノ:ステファニー・イラーニ
女声合唱: 東京混声合唱団
児童合唱: NHK東京児童合唱団

マーラー 交響曲第3番

6月29日 サントリーホール

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フルシャのマーラーを聴くのは初めてです。バンベルク響も、ブルックナーは何回か聴いていますがマーラーは多分初めてです。どんな3番になるのか楽しみに参りました。

入場してステージの方を見ると、P席の最上部、オルガン鍵盤のすぐ右に黄金色に輝くチューブラーベルが鎮座しているのが目にとまりました!この配置には、期待が一気に高まります。

ハープは舞台上手中程に2台、その後ろ、一番上手にコントラバス8台。

ステージ奥には横一列に打楽器が置いてあります。二組のティンパニがほぼ中央に並び、そしてさらによく見ると、やたらシンバルが多いことが目につきます。1枚吊り下げてばちで叩くためのシンバルがいくつかある他に、両手で持って叩くためのシンバルが、なんと上手側に2個、下手側にも2個、合計4個置いてあるのです!これは第一楽章半ばで使われるに違いありません。期待感はますます高まります。

やがてオケが入場です。弦楽は下手側から、第1Vn、Va、Vc、第2Vn、Cb、すなわちヴァイオリン対向配置です。

第一楽章が始まりました。ホルン主題提示は、やや速めのテンポで、ギアダウンなし、頂点のシンバルは2人の奏者が左右対称の位置で叩きました。

そしてホルン主題再現の場面では、期待通り、右奥に2人、左奥に2人、左右対称に位置した4人のシンバル奏者が、ガッチリと鳴らしてくれました。楽章冒頭の提示部で2人、再現部で4人と、マーラーの指示を忠実に実行し、しかも人数だけでなく、左右対称の位置で視覚的にも最大の効果を発揮することを狙った、およそ考えられる理想的なシンバル演奏が実現していました。

ただしホルン主題再現の直前の舞台裏の小太鼓は、舞台裏ではありましたが、すぐそばから盛大に聞こえてきてしまいました。

あと夏の行進の弦半分のところは、記憶がうすれかけていますが、確かコントラバス以外は後方半分のプルト、コントラバスだけが前方半分のプルトで弾いていました。

ところでこの演奏、オケのパフォーマンスとしては、あんまりピシッとしてません。トロンボーンのソロがちょっと外すなど、ちょっとした綻びがちらほらあるし、縦の線もバラけそうになり、あれっと思うことが時々ありながら進んでいきます。今回の日本ツアーの最終日でやや疲れが出ているのでしょうか、しかもこのツアーでマーラー3番をやるのは今日1回だけなので、このような演奏になるのでしょうか。

しかしそれにもかかわらず、この演奏、聴いていてあまり不満を感じません。むしろその逆で、聴いているうちにどんどん魅力が強まっていきます。この演奏には、僕にとってとても大事な、夏が来る喜びというか、自然の美しさというか、そういうものに満ち満ちているんです。モダンではなく、ピシッと引き締まってもいない。その反対方向で、いい意味での“田舎の魅力”とでもいえるような、素朴で大らかな魅力がたっぷりと含まれた演奏です。指揮者とオケが音楽を心から楽しんで演奏している感じで、とっても素敵です。

第一楽章が終わると、P席に合唱団が入場してきました。前方3列が女声合唱、その後方2〜3列に児童合唱です。すなわち児童合唱とベルを高い位置にするという、マーラーの指示を心得て実行した好配置です。

合唱団の入場の途中で、下手側から独唱者が目立たないようにそっと入って来ました。指揮者も独唱者も、できるだけ拍手が起こらないように、明らかに気を使っている立ち居振舞いでした。それに気づかないで拍手をする人が若干名いらしたのは、ちょっと残念でした。独唱者は指揮者のすぐ左前に置かれた椅子に座りました。

第二楽章、テンポがちょっと速めに始まり、どうなるかな、と思いましたが、その後にはなかなかにやさしくチャーミングな味が出てきて、良かったです。

第三楽章も、やや速めのテンポ設定で始まりましたが、なかなか良いです。とりわけポストホルンが、色々とユニークで良かったです。まず旋律線の歌わせ方。分散和音の信号ラッパ的なところはスタカートを強調して信号ラッパ風に、歌うようなメロディーのところはゆったりレガートにと、歌い分けをかなりはっきりさせていました。それから音量というか、距離感。ポストホルンの音は左前方の、かなり遠くの方から響いて来ました。僕の席からは舞台横のドアは良く見えなかったので、後から友人に尋ねたところ、舞台左側のドアを、最初はほんの少し開け、途中から開け幅を少し大きくして、という風に細かく調整していたということです。このようなドアの開け幅調整による細かな配慮は、かつて準メルクルが国立音大オケを振ったときにやっていたくらいで、そうそう遭遇しない方法です。もっとも僕の耳では聴感上そのような微妙な音量あるいは距離感の変化を鋭敏に捉えることはできませんでした。ともかく今回のポストホルンの特徴は、徹底的に遠いということです。これだけ十分に遠いのは珍しいです。これまで僕が聴いた内では、チョンミョンフンとN響のNHKホールの時のポストホルンがかなり遠くから聞こえて来ましたが、今夜のはおそらくそれを凌ぐ、史上最長距離(^。^)だったかもしれません。はるか遠くから、とても小さい音で響いてくるポストホルンです。

そしてこのポストホルンの楽節で何より素晴らしかったのは、舞台上のオケの紡ぎ出す音楽が、立体的なことでした。たとえば弦楽の静かなトレモロ。第1ヴァイオリンが密やかにやさしく奏でられたと思えば、続いて対向配置の第2ヴァイオリンがやや強めに入ってくるという感じで、あたかも森や野原にそよぐ風が微妙に方向と強さが揺らぐようなニュアンスが感じられました。また、時折入ってくる木管のひと吹きが、森の鳥たちがポストホルンをうっとり聴きながら囀りあうような、生き生きとした息吹が感じられました。舞台上のホルン群も、遠くから響いてくるポストホルンに呼応するかのように、伸びやかな歌を歌います。

楽章の終わりが近づくと、ポストホルンの音は遠く、ますます小さくなっていき、そうしてホルン他の舞台上の楽器の奏でる歌に埋もれて、よく聴き取れないくらいになりました。僕は今まで、この楽節はポストホルンが主役で舞台上のオケが伴奏だと思っていたのですが、この演奏は違いました。ポストホルンを伴奏にして、舞台上のオケが主役?いやそう言うよりも、どちらも主役と言うべきでしょうか。ポストホルンとオケの色々な楽器が対等に響き合い、多層的な音楽になっていました。

スコアでは、ポストホルンは遠くから始まり、少し近づき、そしてだんだんと遠くなり、さらに遠くなって終わるように指示されています。とすればマーラーは、ポストホルンの終わりの方に関しては、まさにこのように、オケの音にほとんど埋もれるようにかすかに聞こえるようにイメージしていたのかもしれないな、と思いました。この辺りのフルシャの感性、素晴らしいです。

第三楽章が終わり、少しの間合いが置かれ、そしておもむろに独唱者が立ち上がりました。合唱団は座ったままです。そして第四楽章が始まったとたんに、場の雰囲気が一変しました。ゆっくりとしたテンポで、ハープとコントラバスの弱音が、静かに、深々と響き、ホールが夜の帳に覆われます。ハープのすぐ後ろにコントラバスという配置は、コントラバスがハープに合わせやすいでしょうから、この部分の演奏に適した配置、と思いました。そして歌い出した独唱が素晴らしい!詩の意味を噛みしめるように歌われ、じわじわと胸に沁みて来ます。

今夜の独唱のイラーニさんは、元々の予定の方の代役(1か月前に発表)でしたので、ちょっと心配していました。しかもこの方、入場してから指揮者のすぐ横に座ったまま、出番までずっと苦虫を噛み潰したような表情をしていたので、もしかしてこの方、代役で呼ばれたことを苦々しく思っているのだろうかと言う疑念がよぎるほどでしたが、浅はかでした。あの苦い表情は、ご自分のこれから歌う内容に集中し、没入していたためだったと思われます。聴き応えのある、素晴らしい歌唱でした。
第四楽章が終わると、すぐに指揮者の合図で全合唱団が一斉にザッと音を立てて起立しスタンバイし、すかさず第五楽章が始まりました。僕の便宜的な呼び方でいえば、B方式になります。(アタッカの○○方式については、「​関西グスタフ・マーラー響のマーラー3番を聴く、その3​」の記事をご参照ください。)

第五楽章の鐘はやや控えめでした。一方で児童合唱は小さい子が多く、とても元気な歌声で歌ってくれました。年齢の長じた子供の多い合唱で洗練された歌を聴かせてくれるのもいいですが、このような小さい子供たちによる歌の素朴で力強い歌は、技術的なことを別にして魅力的で、今回の演奏全体の方向とも良くマッチしていました。人数も、もはや記憶が定かでありませんが、女声合唱50人に対し54人と大勢だったのも良かったと思います。独唱者は、第五楽章の自分の出番が終わると、少しして頃合いを見てから楽章の途中で着席しました。

第五楽章から第六楽章へは、申し分ない完璧なA方式のアタッカでした。そして合唱団は曲がしばらく進んでから静かに着席しました。オーソドックスな方法でした。結局今回の3番のアタッカは、BA方式ということになります。しかし最初Bとはいっても、気合のはいった緊張感の保たれたアタッカで、あとのAにほぼ劣らない充実さがありました。

そして第六楽章も、第一楽章と同様に、素朴で大らかな歌が素直にうたわれた、とてもいい演奏でした。最後の練習番号29からはややテンポを速めるスタイルでした。

最後の和音の余韻が消えていってから、フルシャが手を降ろすまできっちりとホール内に静寂が保たれたのも、うれしいことでした。

主催音楽事務所カジモトの記事によると、マーラー3番はフルシャの熱望で実現したプログラムということです。そういうフルシャの気持ちが十分に伝わってきて、聴いていて幸福な気持ちになる3番でした。演奏された皆々様、ありがとうございました!



独唱のイラーニさんです。





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Last updated  2018.08.06 01:27:27
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