カテゴリ:かけクラ
かけクラ第38駅(2021/2/14放送)を聴きました。ゲストの加藤訓子さんのお話が、とても興味深かったです。
マリンバを「粗雑な楽器」と言う、きっぷの良さ。きっと、ご自身で、もっとこうやりたい、こういう音を出したいというイメージが次々に豊富に湧き上がり、それを現実の音にするのに苦労というか工夫をたゆまず重ねているが故のご発言なのかと思いました。一方で、「余韻の長さをコントロールできるようになった気がする」というのもすごいです。 加藤さんの好きな1曲ということで、ペルト作曲「鏡の中の鏡」がかかりました。加藤さん曰く、「究極のミニマリズムというか、本当に厳選された音、ペルトさんの行きついていった境地みたいのが見える気がして、本当に美しいなと私は思う」と。 そして番組では最初チェロとピアノのヴァージョンで流れ始めました。曲が始まって少し(2分半ほど)してから後は、この曲を流しながら上野さん市川さんとの3人でのトークになったのにはちょっと驚きました。そしてここから、加藤さん自身がマリンバ用に編曲・演奏・録音した「鏡の中の鏡」の話になったのですが、録音した番組をあとから聴いて初めてわかりましたが、加藤さん編曲ヴァージョンの話になったところで、バックに流れる「鏡の中の鏡」が、それとわかりにくいように巧みに、チェロとピアノのヴァージョンから、加藤さんヴァージョンのマリンバ演奏にパッと切り替えられていました! その後は加藤さんの演奏をBGMにしつつ、加藤さんとペルトとの交流が語られました。「鏡の中の鏡」に関しては、加藤さんはところどころの高音用にベルを自作して(アルミのバーを切ってチューンしたそうです。自作のチューブラーベルですね!)、マリンバは滅茶苦茶響く洞窟みたいなところで弾いて、というヴァージョンをどうしてもやりたかったそうです。それとあとフラトレスとカントゥスの三つの代表曲をやりたくて、それを編曲し録音し編集して、それを作曲家の許可をいただくために出版社経由でペルトさんに渡したら、それを聴いたペルトが、マリンバの響きが想像外だったみたいで、すごく驚かれて、きっちり聴きたいからCDに焼いて家に送ってくれと。それで送って、アルバムに作りたいためのオファーだったので、ミキシングや、アルバムにしていく最後の過程について意見をいただいた。ペルトが「このパートのこのところはもっと小さく!」とか、バランスとか、「余韻はもっとこう長く」とか。結構、どんどん増えてきちゃって、レコ―ディングは終わっているのでできることはなかなか限られていたが、「録音に立ちあえれば良かった」みたいな感じのやり取りを結構細かく、どんどんどんどん出てきて、だんだん、その場でやりとりしてるみたいに、「弾いてみるからこう弾いてくれ」みたいな、そういう願いがあって、どんどんのめりこんで、わけわからなくなって、終わらなくなっちゃいそうで、それでもじっとじっとこっちは待って、お返事をして、できることをその中で、私アコーステッィクで全部作っているから、(変えるのは)そう簡単じゃない。なんとかまあミキシングの空気感とか聴こえかたとか、そういうことで、何とかこれでどうですか、これでどうですか、と何度もやった。あるときどこかで、これで突然パタッと、これで終わり、いい、というのが来た。4曲で半年くらいかかったが、それでアルバムを出した。とても喜んでくださり、その後高松宮賞か何かを受賞して来日したときにパーティ会場に招待されて初めてお会いして、背の高いガタイのしっかりしたしゃっきとした方で、上からこうクニコ、クニコと、いい仕事してくれた、と言ってくれた。 加藤訓子さんのアルバム「カントゥス」は、発売された当時(2013年頃)輸入盤を買って、一時期かなりはまって繰り返し聴きました。ペルト作品は「鏡の中の鏡」を含め4曲が収録されています。CDには加藤さんご自身の日本語解説もついていました。それによると、「鏡の中の鏡」は、横浜の元倉庫の、“異常なほどの残響と余韻“があるスタジオで録音し、”針の先ほどのタッチでマリンバを奏でてゆくとその一音がまるで水琴窟のように不思議なくらい永く永く拡がった“と記されています。確かに、普通のこの曲の演奏からよりも、水滴のイメージが喚起されます。また要所要所でのチューブラーベルの強めの打音も、意思の強さが現れているようで、本当に素晴らしいです。 加藤さんご自身が書かれたCD解説の一部分を引用させていただきます。 ------------------------------------------------------ Arvo Pärtに捧ぐ― アルバムを仕上げるにあたって、エストニアに居るアルヴォとのやり取りが始まった。彼の生身の声を聞き、もっと原曲というものを深く理解しなくてはならないと痛感するとともに、その一言一言を各曲の細部に一つ一つ丁寧に反映してゆくと、見事に音楽が実味を持って変わっていったことに驚きと感動、そして感服させられた。・・・・(中略)・・・・こうして一歩でもオリジナルに近づくことができたことと、更に新たな息吹として世に出せることへ喜びと感謝の気持ちでいっぱいである。 私のアレンジを寛容に受け入れてくれ、このアルバム・プロジェクトを応援してくださったエストニアが生んだ偉大な作曲家アルヴォ・ペルトに心から感謝と敬意を表したい。 (CD「カントゥス」加藤訓子さんによる書きおろし解説より) ------------------------------------------------------ 本当に、この名曲に、またひとつ新たな息吹が吹き込まれた編曲・演奏・録音だと思います。 この解説だけでもいろいろなことが伝わってきますが、今回の放送で加藤さんご自身の語り口で具体的なやり取り、苦労の一端を知ることができ、非常に興味深かったです。 この放送を聴いて、自分も久しぶりに「鏡の中の鏡」にスイッチが入り、いくつかのヴァージョンでこの曲を聴きました。 僕がこの曲に最初に深い感銘を覚えたのは、クラリネットとピアノによるヴァージョンのCDを聴いたときでした。このことは以前ブログ記事に書きましたのでよろしければご覧ください。 そしてきらクラでは、ふかわさんと真理さんが、長く大事に大事に温めていましたね。やがて番組の終わり近くになって、ついに真理さんのチェロとふかわさんのピアノによる演奏が流れた放送(きらクラ!第366回 BGM選手権祭り)を、思いだします。このときからもうすぐ1年になるんですね。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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