7 Deathは涙を流さない
7 Deathは涙を流さないパタパタと走り回る。いろんな灰色が崩れていくのを、もうどれだけ見たんだろう。瓦礫の森を永遠と走り回る。御伽噺の主人公みたい。逃げなきゃ悪い魔法使いに捕まっちゃう。…そんな可愛いもんじゃないか。トランプ兵に殺される。肺が痛い。脇腹も痛い。頭もぼんやりしてきた。息が上手く出来ない。まるで欠陥商品。別にボクは人工物なわけだから、あながち間違った表現じゃない。で、とりあえず三人で、もう壊されたシャンバラの方へ逃げてきた。…他のDollを頼むってジュリに言われたけど、ほっといたままだ。だって、逃げるときはバラバラの方がいい。ボクにとっても、彼等にとっても。寂しいとか不安だとかいう誘惑が、一番ボク達を死に攫うんだから。同じDollという者が“誰か必ず生き残る”ということを尊重すると、少人数行動に限る。ジュリはまぁ、ほっといた。故意に。ジュリが一人で駆け出した理由が、なんとなく分かったから。真夜中の“死天使”を、ボクは知っている。白銀のリボルバーを構える姿をボクは見ている。ただその死天使は夜にしか舞い降りない。昼間のジュリは唯のオンナノコなんだ。そうやって区切りをつけてギリギリのラインを保ってる。ボクは完全に裏都市の住人だ。でもジュリは違う。だから今の『死天使ジュリ』に、『マリア』の存在は残酷すぎる。ヤバイ。そろそろ体がヤバイ。ふわりとブレーキをかける。ボクはなるべく瓦礫がなさそうなアスファルトに、背中から身体を投げた。「あぁー、もうダメ!!」マリちゃんとカザミもほぼ同時に崩れ落ちた。みっつの荒い息遣いだけが、この空間を支配する。ホントになんだ、この空間は。生きてるものなんて、もうここにはいないのかもしれない。静かだった。しっかし、カザミは意外に根性はあるのかもしれない。運動苦手かなぁって思っていたけど、ちゃんとついて来たし。絶対、火事場の馬鹿力タイプだ。ふいにマリちゃんと眼があった。すぐにそれは逸らされる。別に彼女は何か言った訳じゃない。でも、充分ボクに『ジュリが心配だ』と訴えていた。空と眼が合った。今は黄昏だ。直に闇に食われるだろう。でもボクは黄昏のもう一つの名前を知っている。「“逢魔が時”だぁー。」それはヒトリゴト。セメントを包み込みだした闇ともう一つのモノに対しての。…ジリジリと迫ってくる、何人だろうか。前言撤回。イキモノなんていないかもしれないって言ったけど。敵とデキソコナイなら幾らでも湧いて出てくるらしい。オウマガトキ それは“魔”と逢う 禍いの起こる 時刻「カザミ、マリちゃん… ちょっとボクから離れてて。」ボクの声色で気付いたらしい。一瞬で緊張は伝わった。そして、それは姿をあらわす。まずそれはヒトの形をしていた。それは所々が金属の物もあった。配線が飛び出しているのもいた。マネキンや蝋人形のようだった。意思など元から存在しなかった。『Doll』と表現するに相応しい。ボクらとは違う、境界そのものは曖昧だが一線を違える存在。“オリジナルなDoll”がボクらだとしたら、それは“量産型のDoll”と呼ばれていた。それが数体。特徴なんて何もない。ただのコピー達なのだから。同じ影ただ並ぶだけ。右のポケットに手を滑り込ませる。いっつも持ち歩いているモノを取り出す。それは少し丸みを帯びた、ひんやりと心地よい物体。手のひらで握りこめるほどの大きさの、ボクの凶器。ちょうど香水のミニボトルのような、洒落た小瓶。それが一つ目。同じ右側のポケット。セロファンを摘み上げればキャンディが出てくる。今日はピンクだ、イチゴ味かな?放り込んだ味は予想より毒々しい甘さがした。修正ではなく、丸々加筆中デス。ちくしょう、なんでディドがまだ出てこねェんだよ。