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テーマ:今日のこと★☆(105821)
カテゴリ:real stories (非小説です)
店を出て、二次会に向かい歩き始めたメンバーの中から、いつのまにかカノジョがいなくなっていることに気づき、僕は、咎め絡んでくる酔っ払いへの挨拶もそこそこに、逆向きに走り出した。
高校から、カノジョの家に向かう道。何度も何度も、彼女を送るために往復した道。実際に歩くのは随分久しぶりでも、どの角を曲がっていくのか、体が覚えている。そして、 ・・・見つけた。 「・・・ミナ!」 僕の少し大きい強い呼びかけに、カノジョは、びくりと足を止めた。そしてゆっくり振り返ったカノジョは、心なしかこわばっていたような表情を少し緩める。 「先輩」 僕は、足早にカノジョに近づく。 「2次会、行くんじゃないんですか?」 首をかしげてそんなことたずねるカノジョに、 「自分こそ」 息をきらせながら、そういうと、 「・・・気が変わったんです」 ただ、簡潔にそういうカノジョ。 「・・・そ、か。・・・僕も」 そういうと、カノジョはただ微笑んで、 「でも、どーしてこっちに来るんですか?先輩のおうち、こっちじゃないでしょう?」 「・・・って、送ってくよ。いいだろ?」 なんだかすがるようにそう言う僕に、カノジョは、 「いいですよ」 にっこり笑って言う。敬語で。 あの頃と同じように、カノジョの右側に立ち、歩き始める。手を、そっと、つかみたいけれど、できないまま。言葉すら、交わせないまま。 ・・・これじゃ、なんだかあの日みたいだな。 ぼんやりと、あの日の記憶呼び出しかけた僕に、カノジョが言う。 「なんだか、最初にこうして送ってもらった日のこと思い出しちゃいました」 「・・・僕も、今同じこと思い出してたよ」 部活の帰り、それこそまだ、ただの後輩だったカノジョを初めて、こうして送った日。ちょっとした僕の失敗のとばっちりを受けて帰るのが遅くなってしまったカノジョを、送ってやれよ、と、仲間に囃し立てられて・・・。 「すっごいイヤイヤでしたよね」 カノジョが、微笑み混じりに言う。いつもと同じように。 「違うって何度も言ったろ?」 「でしたっけ?」 敬語だけどからかってるのは間違いない言い方で、そんな風にカノジョは言う。 「言ったよ」 「なんて?」 いたずら笑顔で問いかけるカノジョに、僕は付き合ってる間にも、何度も繰り返した言葉を言う。 「あれは、照れてただけだよ。かわいいな、と、思ってたミナと、急に2人きりになれたから、緊張しすぎてたし」 僕の言葉に、ミナもあの頃と同じように言う。 「私も、心臓が飛び出しそうなくらい、ドキドキしてたんですよ。先輩のこと好きでしたから」 ・・・でも、敬語、なんだ。 縮まりそうで元には戻らない距離に、僕は、歯噛みする。もう、ミナの家はすぐそこなのに。 ・・・このまま終わるつもりなのか? 葛藤する僕のココロ。 「ねえ、先輩、信じられますか?」 「ん?」 「初めて送ってもらったあの日から、もう、10年以上も経ってるなんて」 10年。そうか。たしかに、それ以上の年月が経っている。ミナは、空を見上げて、輝く星に目を細めて言う。 「10年なんて、たどりつけないくらい遥か遠くだと思ってた。だけど。・・・過ぎちゃえばあっという間でした。もっと、もっと、オトナな自分が待ってる気がしたけど、・・・・あきれるくらい、何も変わってない。・・・ねえ、先輩、私、全然変わってないです」 そんな風に、言った後、ミナは黙って足を止めた。しばらく、その場で、星空を見上げるミナの背中。抱きしめたい衝動を抑えるのに必死で、僕の思考は停止状態。 何度か深呼吸するみたいに、大きく息をついてから、ミナは、僕を振り返って、微笑んだ。 「先輩。ここでいいです。ありがとうございました」 また振り返って歩き出す背中。遠ざかっていくミナ。何を考えるよりも、僕は、ミナを呼び止めていた。 「ミナ」 ミナが足を止める。顔だけ振り返ってくれるミナ。 「・・・今、誰か、、、恋人いるのか?」 ただ、それを訊ねた僕のこと、ミナは、表情の読めない瞳でじっと見つめてから、 「・・・・それって、何か、関係あるんですか?」 そう問いかけて、僕を試すように、見つめる。 ・・・ミナに恋人がいるかどうか、が、僕に関係があるのか? 最大限の拒絶の言葉に解釈するには、ミナのその瞳は、ムジャキに微笑みすぎていて、僕は考え直す。 ・・・ミナに恋人がいるかどうか、が、僕の、『言おうとしていること』に関係があるのか? 答えは、ノーだ。 ミナに今、恋人がいようがいまいが、ここで、自分の気持ちを告げずに別れるなんてこと、まず、ありえない。 「いいや、関係ないよ」 色の変わった僕の声に、ミナが、ゆっくりと微笑を消す。僕は言う。 「なあ、やり直せないか?ずっと後悔してたんだ」 僕がどんな道を選んでも、きっとついてきてくれるだろうと、ミナがいつもそばにいることを当たり前のように思って、気遣うことすらしなかった傲慢だった自分。 ミナは、僕の言葉に、ゆっくりと目を閉じた。そして、小さく息を吸ってから、目を開け、にっこりと微笑んで、言う。 「・・・いいよ」 ミナの言葉に、今度は僕が目を閉じる。 イヤだ、でもなく、いいですよ、でもなく、 ・・・イイヨ。 もう、僕の恋人のミナに戻ってくれている。僕は、目を開け、ミナをそっと抱き寄せて口づけた。柔らかい、懐かしい、その感触に、誘い込まれるように、何度も何度も繰り返す。 近づいてくる車の気配に、少し唇を離すと、ミナは、僕の胸に頬をくっつけた。僕は言う。 「・・・このまま連れて帰りたい」 僕の言葉に、ミナは、腕の中で、小さく笑う。僕を見上げる目はすでに、いたずらな微笑が宿ってて。 「ていうか、コウちゃん」 ・・・コウチャン。アマク懐かしいその響き。 「コウチャンてば、いつから、そんなに手が早くなったの?」 「え?」 「私と初めて付き合ったときは、なかなかキスもしてくれなかったのに。今は、告ったその日に、キスして、お持ち帰り?信じられない・・・。どれだけ遊んでたの?ワルイヒトっ」 どこまで本気だか、そんなこと言うカノジョ。 「は?ちょ、、何言ってんだよ、、んなわけないだろ?ミナと別れてから、勉強して勉強して勉強して挫折して、わがまま放題な先生にこき使われるだけの日々だったよ」 僕の答えに、 「へ~~~~」 って半信半疑?というよりは、あきれたような目で僕を見て、 「そう。時間が、なかったから、遊べなかったんだ?」 「ちが、、違うって、、ミナのこと、忘れられなかったんだよ。全然。ずっと。ほんとに、ずっと」 「ふ~~~~ん」 全然信じてない顔で、そんなこというミナ。 「なあ、分かるだろ?僕、そんなに器用じゃないよ」 すがるように言う僕の腕をとって、 「いこっか。その話、ゆっくり聞いたげるから」 ミナは、愛おしく、微笑んだ。 * タクシーに乗り込んで、行き先を告げる。走り出してしばらくしてから、ミナは、訊ねる。 「まだ、あそこに住んでるの?」 「そうだよ。なんだか離れられなかったんだ」 ミナは小さく肯いてくれた。 部屋の中に入るとミナは、懐かしそうに、あたりを見回した。 「・・・全然、変わってない」 「かも知れない」 「ていうか」 「ん?」 サイドボードの上の、写真立てに手を伸ばし、ミナは、あきれたように、笑う。幸せに微笑んで並ぶ2人の写真。 「普通、片付けるでしょ?」 「そうかな?」 「そうだよ。他の女の人みたら、気を悪くするじゃない?」 「他の女の人なんて、呼ぶことないし」 「それでも、やっぱり片付けるでしょ?」 「そうでもないよ。未練たっぷりだったら」 僕の言葉に、くすっと笑うミナ。 「未練たっぷりだったら、なんで、もっと早く連絡してこないの?」 「できないよ。僕からなんて。・・・だいたい」 「なに?」 「もう、とっくに結婚してるんじゃないかって思ってた」 早くコドモが欲しいから、早く結婚したいから、適齢期に仕事をやめて、資格の勉強なんて始める僕のことは待てないって、言ってたミナ。だから、きっと。って。思ってたんだ。 ミナは、少しトーンを落とした微笑を見せる。 「・・・ミナには、誰か、いた?」 僕の言葉に、ミナは、少し微笑のトーンを上げて、言う。 「ん~。デートくらいはしたよ。何人かと」 自分で聞いておいて、胸がいたくなる僕。ミナは僕の表情を読んで、なぐさめるように続ける。 「でも、ほんとに、食事とか、映画とか、ただそれだけ。同じヒトとは、1回か2回だけ。すごく素敵なヒトもいたけど、でも、全然、好きになれなかった。好きになるどころか、デートに集中すらできなかったの」 「集中できなかった?」 「うん。誰と何してても、比べちゃうの。コウちゃんと。コウチャンだったら、きっと、こう言ってくれたのに。コウチャンだったらきっと同じとこで笑ってくれるのに。コウチャンだったら、きっと。・・・ううん。本当は、コウチャンが何してくれるとか何言ってくれるとか、そんなことじゃなくて、ただ、コウチャンだったら、隣にいてくれるだけで、幸せなのに。って、なんで、コウチャンじゃないんだろうって、いつもいつも思っちゃって。全然、楽しいデートできなかったの。相手のヒトにも悪いことしちゃった」 そういってミナは、その頃のこと思い出すように俯いた。僕は、そのミナの心を思って、言葉が口をついて出る。 「ミナ、ごめん。ほんとに、ごめんな」 ミナは、ぼんやりと顔を上げ、首を振る。 「謝るのはこっちだよ。コウチャン。コウチャンがきっと一番、私にそばにいて欲しかったときに、あんな風に。。。結婚結婚って、、、何で、あんなに、焦ってたんだろう。コウチャンが大好きだから結婚したかったのに、結婚したいからって、コウチャンと別れて他の人探そうとするなんて、まったく逆だよね。・・・コウチャン、私、結婚なんてできなくていい。コウチャンがそばにいてくれたら、それでいい。だから、もう、1人にしないで。私、ずっとずっと、すっごく寂しかったの。」 僕は今にも泣き出しそうに興奮したミナを抱き寄せて、 「約束するよ。もう二度と離さないから」 そう耳元で囁くと、ミナは小さく息をついて、僕を見上げる。 「いーーっぱい、慰めてよね」 ムジャキなその瞳。 『ねえ、先輩、私、全然変わってないです』 さっきのミナの言葉が僕の中に戻ってくる。 ミナが10年前と変わらないのと同じように、僕だって変わってないよ、ミナを思う気持ちは。 静かに口づけ、始まりを知らせながら、ゆっくりと抱く腕に力をこめていく。 ほんとうに。 もう二度と、離さないから。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2011.09.02 22:43:15
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