9 ~ケースケ~ let me sleep beside you
「もう、添い寝は、いいや」。あまりの衝撃に、すぐに返事もできなかった。そんな俺にかまわず、「ケースケ、ベッドで寝ていいよ。わたし、おふとんで寝る」と、さっさと布団に入る美莉。俺は、言葉も出ず、もちろん、布団の方にもぐりこむわけにもいかず、ベッドに横になる。「ね、何か、修学旅行みたいじゃない?」美莉が言う。俺はそれどころじゃなかった。一体、なんだって、急に?ずっとずっと、俺の腕の中で眠っていたのに。「もう寝ちゃったの?」囁くようにいう美莉。俺は、それには答えず、「なんで?」「え?」「なんで、急に・・・?」われながら傷ついた声だが、美莉は意に介した様子もなく、「だって、いつまでも、添い寝させてちゃ悪いし。」そんなこと、、、だから、なんで、急に?やっぱり、パソコンで誰かと何か、、俺の添い寝なんて不必要になるような、誰かに・・?心の中は取り乱しきっていたけれど、俺は、ただ、「そっか」とつぶやいて、目を閉じる。ショックが大きすぎて、それ以上たずねる気力もない。「ケースケ」「ん?」「でも、、」でも、なに?「でも、、、何だよ?」「ううん。なんでもない。」俺は察して、ため息をついて、言う。「でも、いつでも、またこっちきていいよ。だから、隣に寝てるんだろ?」美莉は、嬉しそうに、「ありがとう。そういってもらえるだけで、そっちにいかなくて済みそう」という。あっという間に、寝息を立て始めた美莉。俺は、ベッドから少し顔をだして、寝顔を見つめる。あ~あ~あ~あ~、俺、また、他の誰かに美莉を取られちゃうわけ?寝顔を見ながら、思い出したくもない昔のことを思い出した。美莉とは中学の時に部活で一緒になって出会った。見た瞬間にもう、スキだった。一目ぼれ。部活は、軽音部。ギター好きな、野郎ばっかりの中、女のヴォーカルは貴重だった。何バンドも掛け持ちし、ヘタクソな演奏にもめげず、小さな体に似合わない迫力のある声で、いろんなジャンルを歌いこなす美莉に、俺はどんどんひかれた。といっても、そんな美莉に惹かれるのは、当然、俺だけじゃなかったわけで、狭い部の中、抜け駆けなんて許される状況じゃなかった。だから、俺は当然のように、自分の気持ちを隠し、バンドで自分の音と美莉の声を重ねること、そして、時々、バンド単位の少人数で誰かの家に集まり、美莉と過ごせることで満足していたんだ。もちろん、いつかは、ちゃんと気持ちを伝えたいと思っていたけれど。あんまり仲良くすると気持ちが抑えられなくなりそうで、むしろ冷たく、そっけなく接しながら、ゆっくり時期を待っていた。だから、思いも寄らなかったんだ。まさか、美莉が紘人の恋人になってしまうなんて。中学の卒業式の後、部活の中で同じ高校に合格が決まったみんなで、うちに集まろうって日に、美莉が少し早く着いた。俺は、美莉を喜ばせようと、近所で一番おいしいケーキ屋に行っていて留守だった。高校に行けば、美莉に告れるだろうって考えて俺は浮かれていた。で、そのとき、ほんの少し美莉の相手をしたのが、紘人だった。たった、それだけのことで。運命って、、なんていうか、ツラい。←1日1クリックいただけると嬉しいです。