box257 ~蒼夜~
碓氷くんの腕の中。深呼吸を繰り返す。少しずつ、硬くなったカラダから力が抜けていく。碓氷くんも、抱き寄せていた力を抜いてく。碓氷くんの指先が、私のココロを探るように、そっと肩に添えられる。時々ためらうように動く指先。私は、もうひとつ深く息をついてから、碓氷くんの胸に頬をつけて、ゆっくり目を閉じて、考える。碓氷くんが、20年以上も、ずっとずっと、焦がれてきた相手。その人との間に、生まれていた命。・・・なぜ、碓氷くんに知らせなかったんだろう?・・・・どんな理由があったにしても。1人でコドモを生んだんだ。そして1人で育ててきたんだ。・・・碓氷くんを愛していないはずがない。碓氷くんが、ただ、目の前を去ったヒトの思い出を抱きしめ、面影を追っていた20年以上もの間も、2人の間には、見えない絆がずっと、あった。・・・私じゃ、かなわない。その思いは痛烈に私の心を突き刺す。でも。それでも私を選ぼうとしてくれてる碓氷くん。碓氷くんが私を求めてくれている。その思いを、体中に刻み込まれたから、今、私はこうして冷静になれているけれど。・・・だけど。だけど、きっとまだ直接会ってはないだろうその人に、、、ねえ、碓氷くん、その人と再会したら、、?それでも、、私を、、、?私は首を振る。・・・いいえ。会ってしまったら、碓氷くんは、もう、私の元には戻ってこない。そんなこと、思って、ちくりと胸が痛む。だけど、会わないでとは言えない。碓氷くんがその人のことをどれだけ焦がれて生きてきたかを知っている。私のために会わないということも受け入れるわけにはいかない。私のためにそんなガマンはさせられない。ましてや子供まで、、いる、、、の、、に。。。碓氷くんの娘。私と同じように、父親の顔を知らずに育ってきて、、それでも、こうして、碓氷くんにたどりついて、、。私は、今の水野君と母との暮らしを思う。にわか父親の水野くんとは意志のすれ違いもあるけれど、それでも、本当の父親として、私を愛してくれている安堵感はなにものにも変えがたい。そして、愛するヒトとの暮らしの中で、初めて見る母の、、かわいい、、笑顔。もちろん、碓氷くんのその人は、もう、とっくに、誰か他のヒトとの幸せをつかんでいるかもしれない。でも、もしも、まだ、碓氷くんを思っているなら。・・・その人だって、幸せになる権利はある。・・・きっと碓氷くんだって。顔も知らないその人を思って、その人を思い続けていた碓氷くんを思って、やっぱり、その人は、「誰か」と幸せになっている姿なんて考えられない。そう、思う。・・・だったら。私はもうひとつ息をつく。碓氷くんの腕がくれる安堵感。その中にいるからこそ、冷静になれて、出すことができた結論。・・・ちゃんと、会って、碓氷くん。そうでなければ、、、会わなければ、ずっとそばにいられるのだとしても、これから、ずっとずっとずっとずっと、、私は、その人の影が気になり続けるだろう。これまで以上に。・・・そんなのはつらいだけだ。私は心を決めて、切り出す。微笑みさえ、浮かべて。「・・・ね」「ん?」「・・・いつ、、会うの?」「会うって・・?」「って、会うんでしょ?・・・その人に」そう問いかけた私に、碓氷くんは、何故か、少し、痛そうな顔をして、「・・・会わないよ」そんなことを言う。ただ、それだけを言って、碓氷くんは目を閉じた。「会わないなんて、、」・・・ダメダヨ。そう言おうとした途中で、碓氷くんが、私を抱く力を強くした。私は、はっとして、碓氷くんの顔を見た。閉じていた目をゆっくりと開けた碓氷くんは、ぼんやりとした視線を、私に向けて、「ごめん。違うんだ。会わない、んじゃない。正確には、会えない、んだ」・・・会えない?少し眉を寄せた私に、「もう、彼女は、いないんだよ。とっくに、いなかったんだよ」震えるような声で、告げる碓氷くん。なんだか急に小さく、幼くなったみたいな気弱そうな瞳。「いないって・・・」その先にある事実。碓氷くんは、その言葉をゆっくりと告げる。「ユーコは、死んだそうだ。彼女を、楓を産んですぐに・・」ユーコ、死、産んですぐ、、?耳から入る言葉を理解することを拒否する頭。だけど、泣き笑いのような、さっきよりももっと、ひどく幼くなったみたいな碓氷くんの表情に、私は、しっかりとその事実を理解する。・・・・!!息を飲んだ私に、碓氷くんは、一気に話し出す。ユーコさんが体が弱かったこと、2週間に1回、なのに、妊娠させてしまっていたこと、産めば危なかった体、そして碓氷くんの夢、だから、碓氷くんには知らせずに産んだユーコさん、ずっと知らずにいた碓氷くん。・・・楓さんに会うまでは。「・・・とっくにいなかったんだ。・・・僕が殺したようなもんだ。何も知らずに、僕は、、いつまでも、、彼女を思って、あの場所にいたなんて・・・こっけいだよな。笑えるだろ?」自嘲が加速していく碓氷くん。止まらないように、続く言葉は。「笑っていいよ、ソヨ。笑ってくれよ、ソヨ。・・・僕は、、、僕なんて、、こんな、仕様のない人間なんだよ。僕なんかより、ソヨには、きっと、、、だから、僕は、、、ソヨにはふさわしくないと、、」・・・昨日、私を手放そうとしたのは、だから、なんだ。「・・・だけど、やっぱり、ムリだった。ソヨ、僕はソヨを手放せない。今度こそ、愛してる人を愛したままで手放すのは嫌だ。・・・こんな僕を知っても、嫌わないでくれるかい?・・・いや、そばにいてくれるかい?いや、・・・そばに、いて、、傍に居て欲しいんだ、ソヨ。ソヨがいなきゃ、僕は、、。そばにいてくれ。頼むよ。ソヨ」私をしっかりと抱きしめて、必死な言葉をとめどなく続ける碓氷くん。・・・私は。私は、そっと碓氷くんの腕から出た。言葉のまま、すがるように、私を見る碓氷くん。これまでは、私を、ただゆっくりと導いてくれていた、すごく年上の彼、だった碓氷くん。でも、いまは。私は静かに微笑んだ。碓氷くんの頭を、静かに胸に抱え込んで抱きしめた。「・・・・かわいそうに」そんな言葉が口をついて出る。私は碓氷くんを抱きしめたまま、「だいじょーぶだよ、碓氷くん。そばにいるから。だいじょーぶだよ。」何度も何度も囁きながら、髪に頬ずりしていた。今はただ静かに、傷つききった碓氷くんを、癒したかった。迷子になっていた小さい子供のように、必死で私にしがみついてくる碓氷くんを、ただ、包み込むようにして。今日のゆる日記は、ここからいくつかあげます、多分。です。バカップルにご注意ください「box」目次1~、101~、201~ふぉろみー?←リアルタイムのとぼけたつぶやきはこちらlovesick+も、12/30更新です。☆ケータイからお読みくださってる方へ☆いつからかケータイから楽天内記事リンクに飛べなくなり、ケータイから目次を利用できなくなっています。時間が出来次第、他サイトで目次を作ろうと思いますが、それまでは、こちらでアップされてる分だけご利用ください。お手数おかけしますがよろしくお願いします。ひろ。+lovesick+