box 207 ~碓氷~
終演後の楽屋、何人か同業者の友人が声をかけにきてくれる。賞賛や、気心が知れてるからこその揶揄、いつもどおり受け答えしながらも、僕の意識は、部屋の隅の2人に注がれていた。部屋の隅に置かれた簡素なテーブルセットのそばにいるのは、蒼夜。そして、もう1人。・・・オトコ。今日、蒼夜がまた観に来てくれることは聞いていた。『友達と行くね』そう聞いてたけど、それがオトコだなんて。・・・聞いてないよ~、蒼夜。ココロの中では口を尖らせつつも、なおも、表面上は、友人にそつなく受け答えしながらも考える。・・・でもな~、だからって、あからさまに蒼夜に対して、拗ねたりするのは、やっぱり年甲斐がないことだろう。ヨユウな態度でいなくては。友人が、手を上げて、帰って行った後、それまで、おとなしく待っていた蒼夜が、僕の方に飛んでくる。「碓氷くん、今日も、すっごい素敵だったよ~」嬉しそうに、楽しそうな声をあげる無邪気な蒼夜。「ありがとう」僕は、微笑んで簡単にそう答えると、今気づいたかのように、でもきっと、大根役者くらい白々しく、そのオトコの方に目をやる。蒼夜の方は、本当に、今気づいたように、彼のことを僕に紹介する。「あ、これ、大樹」簡単すぎる紹介をしてから、蒼夜は、大樹というらしいその青年に振り返り、「ね、大樹、これが碓氷くん。実物はもっと、素敵でしょ?」自慢げに口にする。男同士、今まで観ていた蒼夜から目を逸らし、互いに互いを見詰め合う。・・・やっぱりなぁ。そういうこと、か。目を見るだけで分かる。大樹も蒼夜に惹かれていることが。挑戦、というほどのものまでは感じないが、今のところ。・・・そう、今のところは。そんなこと、一瞬思ってしまい、言葉を発するのが、少し遅れる。先に大樹が言う。「はじめまして。木本大樹です。蒼夜とは、大学が同じで」そういって、蒼夜の方にさりげなく手を添える大樹。その手を目で追った僕に、少しだけ、微笑んでから、「いつも蒼夜がお世話になっているそうで」そんなことを言う。イヤミな感じは感じないけれど。それにしても。・・・これって、なんか若者の言い回しなわけ?戸惑う僕に引き換え、蒼夜はレスポンスが早い。「はあ?何いってんの?大樹にそんなこと言われる筋合いじゃないでしょ~??お父さんじゃあるまいし。わけわかんない」口を尖らせて、ぶっきらぼうにそういう蒼夜。そんな態度の蒼夜を見るのも新鮮だ。友達の前では、いや、少なくとも、大樹に対しては、こんな態度でいるってことは、蒼夜のほうは、全く興味がないらしい。・・・そもそも、蒼夜は、大樹の気持ちにすら気づいていないようだ。男としても観ていないような。もしもそうなら、肩に添えられたままの手を払いのけるだろう。そう、僕の前でなら、尚更。・・・そして。・・・蒼夜のこの態度からして、若者の言い回しってわけでもなさそうだな。だとしたら、ちょっとしたジャブをしかけられてるのか?蒼夜の反応にも、ただニコニコと、微笑んでいるだけの大樹の腹は読めないが、そんな軽い挑発に乗る必要もないだろう。僕は言う。「まあ、いいじゃないか。蒼夜。実際、お世話になられてるんだし」そういってやると、一瞬きょとんとした表情で僕を見てから、蒼夜は、「も~~っ」って口を尖らせる。その可愛い表情に、自分と同じ様に大樹が見とれるのが分かる。・・・確かに、蒼夜は魅力的だからな。「冗談だよ。俺も、碓氷さんも、ね?」僕にはばかることなく、いや、きっと蒼夜の可愛さに抑えがたく、愛しく蒼夜に話しかけたあと、僕のほうを無邪気に見上げ、「今日は、芝居楽しませてもらいました。」そういって、僕に熱っぽく今日の芝居の感想を話してくれる大樹に、茶々を入れる蒼夜、そしてそれにまた突っ込み返す大樹。そんな2人を見て、妬けないといえば、嘘になるけれど、僕と大樹とであからさまに違う蒼夜の表情や態度が僕の嫉妬心をなだめてくれる。・・・蒼夜は、僕のものだ。・・・・少なくとも、今は。そんなこと思ってしまってはっとする。・・・少なくとも、今は?僕は自分に突っ込みを入れる。・・なんだよ、そのぬるい考えは。ずっと幸せにしたい、って願ってるはずなのに。←2コクリでよろしくお願いします。いつもありがとうございます。初めての方へ・目次内に項目追加しました。今日のゆる日記の方は、こちらです。バカップルにご注意くださいふぉろみー?lovesick+も、がんばって更新中。