box 64 ~碓氷~
「・・いや、、、ヤなら、、、、いんだよ・・?」なんて,言ってしまう僕。蒼夜は、やっと、口を開いて、「まさか、ヤなはずなんて・・」って言ってくれる。だけど、その歯切れの悪さに、僕は黙ってしまう。・・無理強いしてしまってるかなあ。。蒼夜は、言う。「・・・でも、早く帰って休みたいんじゃない?いいの?寝不足でしょ?」「そんなこと、平気だよ」僕は即座に否定する。・・疲れなんて、寝不足なんて蒼夜の顔を見れば。「そう?じゃあ、お願いしようかなっ」蒼夜は何かを吹っ切ったように明るい声を出して、「・・え~っと、碓氷くんは今どこにいるんだっけ?」と、僕に聞く。・・よかった、少なくとも会えるんだ。嬉しくなって僕は言う。「僕は、今、、スタジオFって知ってるかな?駅からそんなに離れてないとこで・・」「うんうん、分かるよ~。前にお母さんの陣中見舞いに行った事あるから」「そっか。」「ん~、、じゃあ、そんなに遠くないね。私、大通りのスーパーマーケットがある交差点のとこなんだけど・・」「じゃあ、そこでそのまま待っててっ、すぐに行く」エンジンキーに手をかけながら言う僕に、蒼夜は、「あ、、ねえ、どうせなら」「ん?」「最初に会った場所で、、、待っててもい?」「最初に会った・・?」一瞬、キモチが戸惑う僕。・・あの場所は・・。蒼夜は言う。「ほら、旅行社の前。ちょうどこことそこの中間くらいじゃない?」・・確かにそうだけど。蒼夜は続けて、「そこまで歩いて行くわ。久しぶりに行ってみたいの。あの場所に」「平気かい?歩いたら、、結構あるよ?」「平気平気」元気な声で、そういう蒼夜に、「・・分かったよ。すぐ行くから。途中ナンパに気をつけて」って僕は返事をし、電話を切った。ケータイをラックに戻し、エンジンキーからいったん手を離して、少し目を閉じ、キモチをまとめる。・・ほんというと、もうあの場所には行かないって決めたけど。蒼夜がそう言うなら行かないわけにもいかない。ソヨと、だって、出会った思い出の場所なんだから。車を走らせながら、蒼夜に出会った日を思い出す。そして、僕はその場所に、あっという間に到着する。・・蒼夜はまだ、か。・・・だよな。歩いてだし。。旅行社のそばで車を停め、歩いてその場所に行く。歩きながら、少しずつ若返っていく僕の中の僕。その場所に立ち、これまで何度も思い出してきたことがココロをよぎる。ユウコとの出会い。最初に手渡したチラシのこと。ふっと思う。そうだ、あれは、今、稽古中の芝居、時を経て再演を行う、同じ芝居の初演のチラシだったんだ。