69
「その知り合いって、謙吾のこと?」好司の言葉に、俺はびっくりしながら、「なんで?お前、なんか知ってるの?」好司は、まじめな顔で、「いや~、何も知らないんだけど、ただ、前に楓って名前の人のことで、謙吾と宗太郎さんが何かもめてたのを聞いたことがあったんだ」「もめてた?」「うん。で、この間、悠斗から楓って名前聞いて、後からそのこと思い出してさ。悠斗の楓ちゃんも、宗太郎さんのとこで知り合ったってて言ってたし。」「ああ、おんなじ楓だよ。」「やっぱり、そうだったんだ。この間から、言おうかなって思ってたんだけど、悠斗が何も知らないなら、言わないほうがいいかな?って思ったりして」「聞かせてくれよ。」好司は、首をかしげながら、「僕も、イマイチよくわかんない話なんだけど。。あれは、いつだっけな~、、確か、今から2年くらい前じゃないかな。うん。そうだ、謙吾と一緒にドラマやってた時だから。その頃よく謙吾の家に飲みに行ってたんだけど、その日は、僕、なんかソファでうとうとしちゃったんだよね。そうしたら、玄関のベルがなって、僕はその音で目が覚めたんだけど、なんか2人が揉めながら入ってきたから、寝たふりをしていたわけ」好司の寝たふりなら、、完璧だっただろうな、と思う。「宗太郎さんとは、その前に謙吾の家で、何度か会ってたから、声ですぐに分かったんだけど、いつもと違って、怖い声でさ。『謙吾、お前、自分が何してるか分かってるのか』って」好司は、抜群の演技力で再現してくれるので、まるで目の当たりにしたかのような気分で聞いた。宗太郎が、謙吾の後から追いかけるように入ってきて、怒った声で言う。「謙吾、お前、自分が何してるか分かってるのか?」「分かってるよ」眠ってる好司に一瞬目をやって、小声で応える謙吾。宗太郎も好司を気にしたが、よく眠っているのを見て、幾分声のトーンを下げ、続ける。「いいや、分かってないよ。楓をなんでもっと大事にしてやらないんだ?そんなつもりで、お前に頼んだんじゃない。悟がどれだけ、楓を大切にしてきたか知ってるだろう?お前だって、楓のこと、ずっと好きだっただろ?今だって好きなんじゃないのか?こんなこと望んでるはずないだろ?こんなことから、何が始まるっていうんだ?」謙吾は、聞き取れないほどの声でつぶやくように反論した。「じゃあ、どうしろっていうんだよ?」「え?」今度は少し大きな声で、「どうすればいいんだよ。悟があんなことになって、楓は骨の髄まで渇いてるんだよ。その楓が望んだことなんだよ。俺以外の誰にできるっていうんだ?お前には彩がいるし、フジシマじゃあダメなんだよ。フジシマにそんな役目させたら、楓は、、陶芸まで失うことになってしまうかもしれないだろ?知りもしない不特定多数の人間に楓を任せろっていうのか?できるかよ、そんなこと。それにゆっくり時間をかけるには、仕事が忙しすぎて、俺には、その時間がないんだ。」「謙吾、お前」宗太郎が、つぶやく。「それに俺は、何かを始めようなんて思ってるわけじゃないさ。今だけだよ。楓だってよく分かってるはずだよ」「それじゃ、、、これまでずっと、、楓を想ってきたお前の気持ちはどうなるんだよ。」謙吾はため息をついて、「どこにも行けずに終わるだけさ。どうせ悟が生きてたら同じように終わってた気持ちだよ。。楓が立ち直るならそれでいいんだ。こうなったことで、犠牲になるのは、俺の気持ちだけだ。俺は、今の地獄から楓を救い出せるなら、それでいいと思ったんだ。」宗太郎は、搾り出すような声で、「謙吾、お前、そこまで。。。」と言ってから少し黙り、しばらくたってから、「悪かった」と頭を下げた。謙吾は少し笑って、「何も謝ってもらうことなんてない。ただ、全てが終わったら、、、後のことはお前と彩に頼む。フジシマと一緒に、楓をちゃんと、、せめて陶芸の道にだけは引きずり戻してやってくれよ」「分かった」「あと、、まあ、余力があれば、俺のフォローもして。俺もきっとボロボロになるから。」と、笑っていう謙吾。「当たり前だろ。任せとけよ。つーか、お前、もうすでにひどい顔してるよ。」「・・・という感じ、だったんだ」好司が演技の目から戻って、ビールを飲んでいう。俺も、ハッと我に返った。「一体、楓と謙吾の間に何があったんだろう。。?」ついつぶやいてしまう。「僕も、、いつもなら勘が働くんだけど、、、このことは、イマイチよく分からないんだよね。悠斗もまだ知らないんだ?」「ああ。」 ← 1日1クリックいただけると嬉しいです。