|
テーマ:DVD映画鑑賞(14196)
カテゴリ:DVD雑感
”善意のネズミ講は本当に世界を変え得るか” 福岡で発生した悲惨な人身事故を契機に、我が国では飲酒運転に対する風当たりが非常に 厳しくなりましたが、その数ヶ月前に、天才子役として知られたハーレイ・ジョエル・ オスメント君が飲酒運転で逮捕されるという事件がありました。 しかも無免許、更に後にはマリファナ所持発覚というトリプルコンボで、恐らく彼が今後再び 表舞台で脚光を浴びることはないとは思いますが、天才子役という冠からほぼ完璧に先達の マコーレ・カルキンの転落人生をトレースしているのは哀れを誘います。 洋の東西を問わず、人生においてあまりに早い時期に栄光を手に入れるのは、後の運気の 全てを消費してしまっているからかも知れません。 そんな彼が出世作である「シックス・センス」の次に主演を務めたのが「ペイ・フォワード」 であります。 アル中の母、同じく出て行ったアル中の父を持つトレバー少年は、世の中に対して絶望して いた。 中学校に進学したトレバーは、担任となった社会科のシモネット先生から”自分の手で世界 を変えるためにどんなことをすればよいか?”という課題を与えられる。 トレバー少年が考えた”世界を変える方法”それが「次に渡す」(ペイ・フォワード)だ。 その方法とは、自分が他人から親切を受けたらその相手とは別の3人を助け、助けられた人 もまたそれぞれ3人を助けていく…というもの。 劇中では画期的アイデアのように言われていますが、形こそ違え、これはまさしく ”ネズミ講”のシステムそのものであります。 ネズミ講とは無限連鎖講とも呼ばれ、論理的にいずれは破綻するという性質のものであります。 取材先で車を大破されたフリーのジャーナリストが、見ず知らずの人間からジャガーの新車 を提供されたことをきっかけに、ペイ・フォワード運動の源泉を探っていくパートと、 トレバー少年のアイデアから派生した彼を取り巻く大人たちの状況の変化が物語の大きな軸 となります。 発想がいかにもアメリカ的独善思想に溢れており、そもそも親切を受けた人間が ペイ・フォワードの主旨に感銘を受けるプロセスの表現が皆無なものですから、フリーの ジャーナリストが探るエピソードの一つ一つが単純にご都合主義的な内容になってしまって いる分、説得力に欠けているのが最大の難点であります。 ネタばれになるので詳述は避けるが、トレバー少年に降りかかるあの救いようのないラストと、 いかにもなラストシーンはかなり興ざめ。 あれがなければ単純なプロットでも心に傷を負った大人たちの再生の物語にも昇華できる のだが、極めて短絡的かつ安っぽい仕上がりになってしまっている。 世界を変える方法と言うがその手段も結局のところ人間の潜在的な善意に負うところが大きく、 理想主義的と言ってしまえばあまりにヒネリがなくてその通りなのだが、それを劇中で見せ られても穢れきった魂の私のような人間にとっては、まったく心に響かないのが現実であります。 その理由を考えてみたところ、要するに”善行”の定義が曖昧な為であると考えられます。 更には、当人が思うところの”善”が他人にとってそうであるかと言えば決してそうとは 言い切れず、極端なたとえを言えばイラク戦争だってアメリカおよび支持国の概念からすれ ば”善”以外の何者でもなかったはずであり、一方で、9.11にしたってテロリストの側から すれば間違いなく”善”であったはずです。 普遍的な”善悪”の概念が存在しない以上、結局は当人の主観に頼らざるを得ないという のが一番の問題ではないでしょうか。 …ま、それ以前にあまりにも現実感がないというのが正直な感想なのですがね…。 心にも身体にも消えない傷を負ったシモネット先生役には名優ケビン・スペイシー、 彼を深く想いながらも、断ち切れぬアルコールへの葛藤に悩む母親役にはヘレン・ハント が務める。 地味ではあるがそれぞれ演技力には定評があり、全盛期のオスメント君共々見ごたえはある のだが、如何せん内容的にイマイチなので勿体無いような気もします。 ネットの世界を紐解けば、この「ペイ・フォワード運動」に感銘を受けて実践しようという 奇特な方々もいらっしゃいます。 水を差すつもりは毛頭ありませんが、同じシステムにお金を絡めちゃうと犯罪である、という 厳然とした事実は知っておいて損はないと思います。 そして最も大事なポイントは、このシステムは”必ず破綻する”という点であります。 してみれば、仮にこの運動が本来の思惑通りに拡がったとしても、いずれ破綻する運命にある ということですね。 我が国では”情けは人のためならず”という非常に深い意味を持った諺がありますが、 ”善”を文字通り表層的な意味でしか捉えられないアメリカ人には到底理解できないでしょう。 そこでミもフタもない結論。 これでは世界を変えることなどできません。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
Apr 18, 2012 05:21:25 PM
コメント(0) | コメントを書く
[DVD雑感] カテゴリの最新記事
|