『太陽』
扉のところで紹介している新作DVD『太陽』をようやく観賞しました。日本の三大タブーの筆頭として、DVDの発売はおろか国内での上映も危ぶまれていた本作ですが、実際に観賞して見て、右向きの方々が目くじら立てるほどの内容ではなかったと言うのが、まずは正直な感想であります。尤も、ソッチ方面の方々に言わせれば、商業映画の題材に採り上げること自体が不敬である、ぐらいの認識であろうから、作品の芸術性云々といった観点で説明したところで、到底理解するはずもないからこれはこれでいいのだと思う。シベリアを越えて本国にまで街宣車を廻せるぐらいの根性があれば、今の領土問題ももうちっと何とかなったのではないか、と思われるが、ファンタジー世界の話はこれくらいにして、肝心の内容についてもう少し突っ込んでお話します。舞台となる時代は、太平洋戦争敗戦の直前直後。米軍による空襲は苛烈を極め、大本営も地下の退避壕に移っている。この作品にはいわゆるストーリー的なものは存在しない。どころか、外的な描写は悉く省かれており、イッセー尾形扮する昭和天皇の、”現人神”から”人間”に至る狭間での苦悩であるとか、想像し得るその胸中を、シンプルな映像で淡々と追究している。あまりにも淡々とし過ぎており、時間の経過部分の説明が足りないような気もするが、そもそも太平洋戦争終結までの時系列すら理解していない人間は、この作品を観ることもないだろうと推測する。私は以前からイッセー尾形のファンなのですが、彼が演じた”昭和天皇”の演技の素晴らしさは、筆舌に尽くしがたいです。あの口をもごもごとさせる独特の癖も、当時もそうだったかは別として、演技やモノマネなんて下らないレベルでなくって、何かが降りてきたのではないかと思えるくらいに真に迫っていましたし、「あ、そう」の口癖も通り一遍の調子でなく、場面によって異なるのは本当にスゴいです。近年、宮内庁関連の人物の手になる昭和天皇に関する手記などが発見されたりしましたが、マッカーサーとの会談の内容の真実性はともかく、そのやりとりは非常に興味深いものでした。天皇の人間性という、我が国のタブー中のタブーに対して、外国人がどうアプローチしていくのかにも興味はあったのですが、少なくとも某国の勘違いニッポン映画なんかとは比べ物になりません。天皇の地位を低たらしめる、などという近視眼的な発想から脱却して、この映画を日本人の手によって撮れなかった事実こそを恥と思わねばなりません。すごい映画なんですけど、そもそもこのテーマに関心がない方にとっては退屈極まりない内容であるのも事実なので、観賞にあたっては注意が必要かと思われます。私、本作はAmazonで予約して手に入れたのですが、店頭では見かけた記憶がないですね・・・。