戦争映画「U-20」 評価★★ 独潜水艦のルシタニア号撃沈にまつわる秘話
2007 イギリス 監督:クリストファー・スペンサー出演者:ジョン・ハナー、ケネス・クラナム、フローリアン・パンツァーほか90分 カラー LUSITANIA: MURDER ON THE ATLANTICU-20(DVD) ◆20%OFF! DVD検索「U-20」を探す(楽天) 第一次世界大戦時にドイツ軍潜水艦「U-20」が、イギリス船籍客船ルシタニア号を撃沈した事件を描いたノンフィクション風ドラマ。イギリスのBBC放送が制作したテレビムービーで、一見「タイタニック(1997)」を彷彿とさせるサスペンスドラマ風だが、実際は撃沈事故そのものよりも、撃沈の背後にある政治的、軍事的思惑を暴くという趣旨が強い。描かれているイベント等は、史実にそれなりに忠実に作られているようだが、登場人物やそれに伴うヒューマンドラマ部分のストーリーはフィクションのようだ。 ルシタニア号は当時世界最速の豪華客船として名を馳せており、水密区画が装備された艦船として、いわばイギリスのシンボル的な船でもあった。そのルシタニア号がドイツの潜水艦によって撃沈され、約100名の子供を含む1,198名の死者を出してしまうわけだが、その撃沈劇には多くの謎が隠されている。その謎については現在もなお議論の余地が多く残されており、本作で取り上げられた内容のいくつかは賛否両論あるようだ。 まず一つ目は、当時禁じられていた民間船での武器弾薬輸送の有無である。当時はあたかもドイツ軍の民間船無差別攻撃として、ドイツは世界の非難をあびたのだが、ドイツが主張していたようにルシタニア号が173トンの弾薬類を積み込んでいたことは事実のようだ。しかも、ドイツは大使館を通じてルシタニア号の撃沈予告まで広告に出していたのであるから、その正当性は揺るぎない。事実、イギリス海軍は弾薬輸送を隠蔽するために、大爆発による撃沈(弾薬が誘爆したかどうかは依然不明)を魚雷数発によるものとして報道したが、戦後魚雷一発で沈没したことを認めている。 二つ目はイギリス海軍当局が、ルシタニア号撃沈の予測をどこまでしていたのかと言う点である。本作ではイギリス海軍がアメリカの参戦を引き出すがために、ルシタニア号の攻撃を利用したかのような描写になっている。非常に微妙な描写だが、奇しくも当時の海軍大臣は後の首相チャーチルであり、スキャンダル好きのイギリス人にとっては格好の題材だ。実際、ルシタニア号撃沈事件はアメリカの参戦に少なからず影響を与えたわけで、それが偶然の結果なのか、隠蔽工作だったのか、実に興味深い。 なかなか興味深い題材ではあるのだが、いかんせん映像等の考証がダメダメだ。映画を見始めてすぐに、はてこの映画の時代はいつだったかな?と疑問を感じるほどの違和感がある。映像が第二次世界大戦的で、服装もそうだが、背景の街並みの雰囲気が新しすぎるし、何といっても準主役級のドイツ軍潜水艦がXIIC型なのだ。ルシタニア号事件は1915年で、潜水艦U-20といえば潜水艦のひよこのようなものなのに、XIIC型は1936年製造の第二次大戦時の主要艦なのだ。たった20数年の差とはいえ、第一次大戦と第二次大戦の間には技術的にも文化的にも大きな隔たりがあるのであって、映画の時代感を大きく損ねる結果となった。やはり第一次大戦であれば、もっとゆったりとした時の流れと、稚拙な技術力の雰囲気を出して欲しかった。 なお、ドイツ潜水艦U-20の艦長はシュワイガー大尉で、1917年にドイツ最高栄誉を授与されるが、その2ヶ月後に戦死している。 内容的には事実告発的なものであり、イギリス本国のマスコミが自国の歴史を暴くというスキャンダラスさが新鮮だった。ドイツ軍の描き方についても決して残虐性を強調するばかりでなく、水兵の一人フォーゲルが民間船に対して魚雷発射を拒否するなど、人道的側面も描いている。戦時の命が、政治や軍部などの思惑によって操作されているのだ、ということを印象づけるにはインパクトがあるものであったが、反面チャーチルが劇中で語る、「(沈没で)死んだ(35名の)赤ん坊たちは、10万の兵に勝る(活躍をした)」という、アメリカの参戦を勝ち取った事実も歴史が語る一面であり、歴史の正否は結果でしか語れないのだということを強く感じる。 それにしても邦題が良くないね。やっぱりルシタニア号の名前を出すべきじゃないかと思う。興奮度★★沈痛度★★★★爽快度★感涙度★★ (以下 あらすじ ネタバレ注意 反転でご覧下さい) 1915年、イギリスはドイツに対し経済封鎖を行い、それに対してドイツは民間船の無差別攻撃も辞さないとの通告を出していた。 1915年5月1日、アメリカニューヨークの船着き場にイギリス船籍の豪華客船ルシタニア号があった。ニューヨークの新聞にはドイツ大使館の名でルシタニア号など民間船撃沈の警告広告が載せられ、乗客は不安に駆られる。船長のウイリアム・ターナーは、ルシタニア号が25ノットという高速を誇り、14ノット以上の船は潜水艦に撃沈されないと話し、安心させる。だが、積荷に弾薬173トンを積んでいることは隠していた。Uボート攻撃の危険性については、イギリス本国の海軍ホッブズ大佐にも知らされるが、その報告を無視する。船には、スコットランド人のホーバン教授や大金持ちのヴァンダービルト氏、歌手で愛人のドロシー、両親を失ってイギリスに渡る少女エイヴィス、幼い子供連れの夫婦など、2,000名あまりの乗客がいた。うちアメリカ人は 200人余り、子供も129名乗っていた。 ドイツ軍潜水艦U-20のワルター・シュワイガー大尉の艦はイギリス戦を撃沈するために、アイリッシュ海峡へ向かう。この行動はイギリスの情報部によって察知されていたが、イギリス海軍は暗号が解読出来ている事実を悟られたくないために、民間船への連絡をしなかった。 ルシタニア号とU-20の距離が徐々に詰まってきたが、海軍はUボートが近くにいるという警報を出すだけに留まっていた。何も知らないターナー船長は濃霧のために速度を15ノットに落とし、位置観測のために海峡中央から岸に寄せる。直前に海軍からコニング湾で漁船が撃沈されたことを知らされるが、詳細はわからない。 そんな矢先にU-20がルシタニア号を発見する。シュワイガー艦長は魚雷発射を命じるが、新兵のフォーゲルは民間船攻撃をためらう。しかし、艦長はそれを制して発射し、ルシタニア号に魚雷1本が突き刺さる。 ルシタニア号はすぐに傾斜を始め、機関に浸水したために速度を止められず、浸水が著しくなっていく。ホーバン教授は仲良くなった少女エイヴィスを連れて甲板に出るが、甲板上では救命胴衣の奪い合い、救命ボートに群がる人々で混乱していた。ヴァンダービルト氏は甲板で混乱する人々を誘導し、女子供を優先させようとする。そして歌手のドロシーを捜すが、ドロシーはエレベーターの途中に閉じこめられ、水没していく。傾斜がひどくなり、救命ボートがうまく降ろせない。女子供を優先させるも落下する人々が続出する。先に降ろしたエイヴィスも海に投げ出され、ホーバン教授は海に飛び込む。船は18分で沈没し、結局 94名の子供と35名の赤ん坊を含む1,198名が死亡する。運よくエイヴィスとホーバン教授は助け出され、ターナー船長は船と運命を共にしようとしたが、意識不明のまま救出された。 海軍のホッブズ大佐は積荷に弾薬を積んでいたことを隠蔽しようと画策を始める。ターナー船長が命令を無視したことや、無能であったことを証明しようと審問委員会の委員に根回しを図る。また、ドイツはルシタニア号が弾薬を積んでいたことを表明したため、ルシタニア号が魚雷1本でなく数本による撃沈であったと事実を捏造する。審問委員会ではホーバン教授が真実を知ろうと傍聴する中、裁判長の良識で2本の魚雷による撃沈としてターナー船長の責任は回避された。 だが、事実は隠されたままであり、アメリカを参戦させるためにルシタニア号が利用されたのだった。海軍大臣チャーチルは「死んだ赤ん坊は10万に兵に勝る」と語る。政府が守るのは政府自身なのだ。 U-20のシュワイガー艦長は1917年にドイツ最高栄誉を授与されるが、2ヶ月後に戦死。フォーゲルは反乱罪で投獄され、終戦まで投獄された。