戦争映画「ホステージ・オブ・エネミーライン」 評価★★★★ コロンビアゲリラの人質となった青年
2008 コロンビア 監督:ラファエル・ララ出演者:アントニオ・メルラーノ、ギレルモ・イヴァン、モニカ・ゴメス ほか109分 カラー La milagrosaホステージ・オブ・エネミーライン(DVD) ◆20%OFF! DVD検索「ホステージ・オブ・エネミーライン」を探す(楽天) 1970年代から現在まで続く、南米のコロンビア内戦を描いた社会派アクションドラマ。コロンビア製作と言うだけでなく、監督も役者も全くの無名なレア作品だが、内容、映像ともに欧米映画に負けないだけの立派な作品である。コロンビアのテロ誘拐という深い闇の部分を社会派的に告発しつつ、登場する人物たちのヒューマニズムを切々と描いている。物語の完成度も高いが、現在もなお頻発するテロ誘拐殺人の実話に基づいた作品だけに、そのリアリティはおどろおどろしいものがある。これだけの作品が日本未公開だったのはもったいないレベルだ。 コロンビア内戦は1959年のキューバ革命(「チェ 28歳の革命(2008)」「チェ 39歳別れの手紙(2008)」で映画になっている)の影響を受け、アメリカが支援する政府に対し、共産主義革命を標榜するコロンビア革命軍がゲリラ戦を開始する。1980年代には政府軍と革命軍、さらには極右準軍組織がからむテロ合戦となり、数度の和平停戦を迎えるも、政府側のテロ組織壊滅作戦に対抗し、現在も左翼革命軍はテロ活動を続けている。 この泥試合の背景には、政治的・思想的対立もあるが、麻薬や武器などの非合法商売が影を落としており、単純な構造ではないようだ。このコロンビア革命軍は、一般人の身代金目的誘拐、殺人を頻繁に実行しており、今なお3,000人余りが人質になっているそうだ。現地日本人に対しても容赦なく行われ、 2003年には矢崎総業現地法人副社長が殺害された記憶は新しいところだ。また、革命軍はジリ貧の体制を維持するため、兵隊育成のために少年少女の拉致誘拐も多発させているといわれる。 本作はもちろんコロンビア政府の支援を受けて製作されてはいるが、決して政府側に肩入れしたものでもない。テロ行為に対する糾弾の意図は見えるが、革命軍に対する理解も示しているのが特徴的だ。従って、作品としてフェアな印象が強く、ストーリー全般のまとまりが良くなっている。 ストーリーは金持ちの子息が革命軍に誘拐され、山岳地を引き回された後、開放されるまでを描いたものだが、資本主義社会にどっぷり浸かる青年と、親を殺され革命軍に身を投じざるをえなかった姉弟の対比が衝撃的だ。登場人物はさほど多くはないが、登場する一人一人にきちんとした性格付けがなされ、それぞれがストーリーに重要な味付けをしている。そのため、登場人物に対する理解度が高まっているので、決して後味の良い映画ではないが、かといって重く沈みこむばかりでもない。 同時に人質となったフランス人や気が触れかかっている若い女性などはその良い例だろう。また、ゲリラのリーダー格も独特な存在感を醸し出していたが、残念だったのは、革命軍ゲリラに対する説明がやや足りないところか。リーダー格の言っている理想が、なじみのない日本人にはやや理解しにくいことと、革命軍の全体組織像が把握しにくいため、何ゆえ人質を獲っているのかがピンと来ないかも。 役者では人質青年役を演じたアントニオ・メルラーノが焦燥していく様子を好演。ただ、いつまでたってもふくよかなのは残念だったが(笑)。ゲリラ女性兵士を演じたモニカ・ゴメスはなかなかの豊満美女で、わずかながらヌードも披露。彼女の目の奥の冷諦感と情熱のアンバランスは魅惑的だ。 映像もしっかりしており、山岳地のロケーションも良い。戦闘シーンは銃撃戦がメインだが、なかなか派手目。戦争アクションとしても評価できる。ただ、ハンディカメラを多用しすぎて目がわまる。 登場する兵器にはコロンビア政府軍のものと思われるU-60ブラックホークヘリがちょっとだけ。一応政府軍の支援を受けていることがわかる。 全般にかなり完成度が高い映画だ。コロンビア製作ということで、やや色眼鏡で高評価となったが、メジャー系公開でもおかしくないレベル。内容がやや日本人に馴染み薄かなとも思うが、チェ・ゲバラの映画の延長として視聴するのも悪くないだろう。興奮度★★★沈痛度★★★★爽快度★★感涙度★★(以下 あらすじ ネタバレ注意 反転でご覧下さい) 1980年代のコロンビア。左翼組織のコロンビア革命軍や極右準軍組織のテロ行為が頻発していた。ボゴタの資産家の家では息子のエドワルド、友人のフリオが遊んでいたが、家の前で車が爆発するテロ事件を目撃する。一方、農村部では村に極右準軍が侵入し村民の殺害、レイプを行っていた。少女マイラも弟ラガルトの前で兵士に暴行され、左翼ゲリラのチノに助けられる。マイラらは父親も殺されたため、チノに連れられていく。 1999年のボゴタ。青年となったエドワルドは友人のフリオ、ボディガードのモンチョとともに旅行に出る。途中で政府軍の検問にあうが、実はそれはゲリラの偽装で、モンチョは射殺され、フリオとともに人質となってしまう。山岳にあるゲリラ拠点に向う途中で極右組織の襲撃にあい、フリオが死亡、エドワルドは恐怖の中ゲリラ基地に連行される。ゲリラリーダーのチノは共産革命を志す余り、資本家のエドワルドとその家族に冷酷だ。ビデオカメラの前で家族へ戦争税(金)の要求をさせる。また、ゲリラ部隊から逃亡しようとした同士も見せしめで射殺する。ゲリラの中には兵士となったマイラとラガルトの姿もあった。 人質にはフランス人のジャックもいた。ジャックはもう3年も捕らえられていると聞き、エドワルドは失望する。また、若い女性のカローラもやってくるが、気が触れており、体に触れると絶叫するのだった。ゲリラはアジトを転々とし、時折戦闘状態となる。エドワルドの両親は政府軍の大将に救出を求めるが、なかなかアジトが見つからずゲリラからの身代金要求を待つしか手がない。 時が経ち、エドワルドらはラガルトの妻と子のいる村に逗留することに。そこは安全でラガルトたちゲリラも酒を飲み宴に興じる。エドワルドはギターを弾かされ、次第にラガルトとも打ち解け始め、サッカーに興じる。また、マイラはチノの女だったが、エドワルドに興味を示しキスをする仲に。 そんな中、チノがやってくる。人質の交渉人が政府軍に情報を流し、夜襲を受けたというのだ。その人質を処刑すると言う。3人とも恐怖におびえる中、カローラが射殺される。エドワルドはすっかり恐怖におびえ、次第に気がおかしくなっていく。 ついに、政府軍の大将がゲリラの居所をつきとめ、政府軍はゲリラのアジトに急襲をかける。急を襲われたゲリラは奮戦するも次々に倒れていく。エドワルドも足を負傷し、倒れたところにチノがやってくる。チノはエドワルドを射殺しようとするが、ラガルトに制止される。チノはラガルトを射殺し、再びエドワルドを撃とうとするが、マイラによって射殺される。マイラはエドワルドを木陰に隠し、仲間とともに逃げていく。エドワルドは救出され、両親と再会を果たすことができるのだった。 コロンビアでは14,000人の少年少女が拉致され兵隊になっている。また多くの人が地雷で死亡し、20年間で7万人の市民が死亡している。これまでに13,000人が誘拐され、2008年現在 3,000人が誘拐されたままである。