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EUタクソノミーと原発 松久保 肇 持続可能な経済活動の指標 欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会(EC)は2022年2月2日、「環境に配慮した経済活動(グリーン)」かどうかを判断するための基準として作成してきたEUタクソノミーの正式案を公表した(タクソノミーとは「分類」の意)。 その中でECは原子力と天然ガスを一定の条件で含める案を示しており、大きな問題となっている。ここでは、EUタクソノミーに原子力が含まれた意味とその問題点を考えたい。 EUは域内の温室効果ガス排出量を2030年までに1990年比55%削減、2050年まで実質ゼロにする目標を掲げている。そこでEUタクソノミーによってグリーンな経済活動を認定し、民間資金をそこへ誘導しようとしている。 2020年7月に発効したEUタクソノミー規則は、持続可能な啓勢活動と認定するための六つの目標(気候変動の緩和、気候変動への適応、水・海洋資源の持続可能な利用・保全、循環経済への移行、汚染の防止・管理、生物多様性と生態系の保全・回復)を示し、少なくとも一つを満たす必要があるとした。 さらに、いずれの目標に足しても「著しく害しないこと(DNSH:Do No Significant Haram)」や、基本的人権や労働基準等の尊重を求めている。 EUタクソノミー規則が示すのは原則のみで、具体的には、ECが技術専門家グループ(TEG)のこと提言に基づき作成する「技術スクリーニング基準」が認定される経済活動リストになる。 すでに21年6月、TEGは第1弾のリストを示し、電力分野は、石炭火力をタクソノミー対象外とした。ただ加盟国間のへだたりの大きい原発と自然ガス火力については判断が先送りにされてきた。しかし今回発表された案では、原子力・天然ガスについて一定の条件のもと(表参照)、タクソノミーに組み込んだ。
欧州委員会が原子力を含める案を 専門家らは深刻なリスクと指摘
加盟国からは批判の声が 20年3月にTEGが発表した技術報告書では、原子力は高レベル放射性廃棄物などがDNSH原則に抵触するとして、タクソノミーから除外されていた。また、天然ガスも「CO₂の排出量が1㌔ワット時辺り100㌘未満のもの」に限りとし、その後、5年ごとに見直し、50年には排出ゼロにするという方針が示されていた。したがって今回の決定は、環境配慮を装った「グリーン・ウォッシュ(緑化洗浄)」との批判は避けられない。 この決定に対しては大きな批判が巻き起こっている。例えば、EUの持続可能な金融政策に関する独立専門家委員会である「サステナブル・ファイナンス・プラットフォーム(SFP)」は、「タクソノミーのフレームワークを弱める深刻なリスクを引き起こす」とする報告書を発表。EUの政策金融機関である欧州投資銀行(EIB)は「投資家の信頼を損ねる」としてタクソノミーに従わない可能性を示している。 また、米英仏独の元原子力規制当局らが連名で原子力をタクソノミーに加えることに疑念を呈している。EU加盟国からも批判が上がっており、オーストラリアとルクセンブルクは訴訟も辞さないとしている。 今回発表されたリストは4カ月(6ヶ月まで延長可能)の間にEU加盟の27カ国中20カ国か、欧州議会の過半数(353票)からの異議申し立てがなければ、発行する。報道によれば、この決定に反対するEU議会議員はキャンペーンを開始しており、約250票を確保したという。
ウクライナ危機では依存の危うさも
速やかな脱原発こそ 迫りくる気候危機の中で、私たちは、ロシアのウクライナ侵攻という危機的な局面を迎えている。ロシアからのエネルギー供給が止まることも考えなければならない状況だ。そうしたなかで、やはり原発が必要だという主張が巻き起こっている。だが、本当にそうだろうか。 例えば、原発の建設には計画から数えてもおよそ20年が必要だ。今対策する必要がある気候危機やエネルギーには全く間に合わない。 一方、風力は陸上風量で5ン年程度、洋上風力でも10年未満、太陽光は1年前後で設置できる。さらにコスト問題もある。 図に米国の投資銀行Lazardが試算した電源別の発電コストを示した。2009年から21年にかけて、原発の発電コストは36%上昇しているのに対して、風力は3分の1、太陽光は10分の1になっていることが分かる。 また、ロシア軍がウクライナのザポジエ原発を攻撃、支配下に置いたことは、原発が持つ安全保障上のリスクを再認識させた。原発は大惨事に至るリスクを抱えているので、戦時かでは停止しておくべきだ。 しかしウクライナは占領下にあるザポジエ原発でさえ、稼働させている。ウクライナの電力は半分以上を原発が供給しており、停止することができないのだ。原発に依存することの危うさと、原発が戦力的ターゲットになりうるという事実を世界は見せつけられている。 もはや原発は選択肢ではないことは明らかだ。速やかな脱原発が求められている。 (原子力資料情報室事務局長)
今回発表された案に示された条件 原子力 ・2045年までに建設許可を受けた新規原発であること ・2040年までに延長認可を受けた季節原発であること ・放射性廃棄物の管理等の資金を確保すること ・2050年までに高レベル放射性廃棄物の処分施設が運用開始できるよう詳細な計画があること、等
天然ガス ・CO₂の排出量が1㌔ワット時当たりで100㌘未満のもの ・2030年までに建設許可を得たもので、CO₂の排出量が1㌔ワット時あたりで270㌘未満のものまたはCO₂の年間排出量が20年にわたって出力1㌔ワットあたり550㌔㌘以下であるもの
【社会・文化】聖教新聞2022.3.15 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
July 5, 2023 05:32:10 AM
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