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カテゴリ:危機の時代を生きる
第14回 呼吸器の持つ可能性 徳島大学大学院医歯薬学研究部教授 近藤 和也さん
空気に含まれるウイルスや細菌― 病原体の侵入防ぐ前線基地
医学では、体内の各機関が互いに連携し、支え合いながら私たちの健康を守っている仕組みが明らかになってきている。まさに調和の世界であり、仏法の〝人体は小宇宙〟との思想が共鳴する。コロナ禍の中、身体の調和を保つために、医学的にどのような心掛けが大切で、仏法ではどう説いているのか。「危機の時代を生きる―創価学会ドクター部編」の第14回は、呼吸器下界で徳島大学大学院医歯薬学研究部教授を務める近藤和也さんの「呼吸器の持つ可能性」と題する寄稿を紹介する。
呼吸器の役割が、いかに大切か―コロナ禍の中、多くの人が、そのことを字関しているのではないでしょうか。新型コロナウイルスが流行した当初、このウイルスは肺で広がりやすいという特性を持っていました。 例えば、重症患者には「ECMO(エクモ)」という医療機器が使用されましたが、これは「体外式膜型人工肺」おことで、肺の役割を代替するものです。それだけ、コロナが肺の機能にダメージを与えていたかということです。 その上で、これまでオミクロン株は、それ以前に流行してデルタ株などに比べ、肺などの下気道ではなく、口から誓い上気道で感染が広がるため、肺炎による重症化は起きにくいと言われていました。しかし、変異が進むなか、最近のオミクロン株は、肺で増えやすい特性を獲得していると指摘されています。 今後、重症肺炎が増える可能性もありますので、引き続き、換気や手洗いなど、感染対策には万全を期していただきたいと思います。
肺胞でガス交換 私たちは日々、食事を通して栄養を取り入れますが、それだけでは、体内の活動を支えるエネルギーとはなりません。私たちが食べた栄養は、鼻や口から取り込んだ酸素と結び付くことで、初めてエネルギーとして使えるのです。だから、呼吸をしなければ、私たちは生きていけません。 呼吸の数は、1日に2万回以上。それは、私たちが起きていることも寝ているときも続けられ、その中で、およそ1万4400㍑という膨大な空気を取り込んでいます。そして肺に届いた空気に含まれる酸素と、体内から回収した二酸化炭素を交換しています。 呼吸器系は、鼻と口から始まり、のどや機関、気管支を経て肺へと続く部分で、その一番の役割は、肺胞が担っている酸素と二酸化炭素の「ガス交換」です。 しかし、取り込んだ空気には、ウイルスや細菌などの病原体、ホコリや大気汚染物質、花粉、カビの胞子など、さまざまな遺物が含まれているので、呼吸器系は病気になりやすく、そこから様々な疾患につながっていくことが知られています。「風邪は万病のもと」と言われるゆえんです。その上、ガス交換を担う肺胞という組織は、とても繊細で壊れやすいのです。 一方、そうした異物に対して、呼吸系は何もしていないわけではありません。特に私たちが生きていくために欠かせない肺胞を守るため、さまざまな働きがあります。今回は、その中の「喉」の役割を中心に見ていきましょう。
誤嚥性肺炎の原因 まず喉には、食べ物が気道に入らないようにブロックする蓋(喉頭蓋)があります。この蓋は、空気が来た時には開いて機関に流しますが、食べ物が来た時には閉じ、食堂に送り出しています。 これが正確にできていればいいのですが、加齢とともにうまく機能しなくなると、食べ物が来た時に蓋が閉じられず、雑菌などが気道に入ってしまうことがあるのです。そうして雑菌などが肺で繁殖して起こる誤嚥性肺炎は、高齢者の死因の一つです。 そもそも、肺炎は近年、日本人の死因の3位と高い割合を占めていますが、入院した高齢者の肺炎の種類を調べた調査では、80代の肺炎患者の約8割が誤嚥性肺炎であったと報告されており、見過ごすことができない状況です。 一方、喉で食べ物と空気を正しく分別できたとしても、まだリスクがあります。空気には、さまざまな異物が含まれているからです。そうしてものを取り込めば、肺に異常をきたす恐れがあることから、喉には、遺物の侵入を防ぐ仕組みもあります。 例えば喉の咽頭やその手前の鼻や口には、ウイルスや細菌などの病原体と戦うための琳派装置が張り巡らされ、病原体を排除する前線基地になっています。発熱、咽頭痛、鼻汁、咳、たんといった風邪の症状は、そうした病原体とリンパ装置を流れる免疫細胞が戦っている状態です。 また喉を含む気道の表面には、繊毛という小さな毛がびっしりと生えています。繊毛の毛先は粘液で覆われ、この粘液に異物が付着すると、繊毛の働きによって、エスカレーターのように異物を口の方へと運んでくれます。それとともに、この繊毛の動きと連動して咳が出ることで、一気に体外へ吐き出すのです。 余談ですが、咳止めの薬は、咳や痰で排出されたはずの異物を体内に残してしまうことにつながります。咳が出て眠れないといった症状のある場合は別にして、咳にはそうした役割があるのだと理解した上で、使い過ぎには注意していただきたいと思います。 また、異物排除のしくみは鼻にもあり、鼻では鼻毛が異物をキャッチし、くしゃみと一緒に体外に出しています。こうした役割をふまえれば、口呼吸ではなく、鼻呼吸をすることが、病気のリスクを低減する上で重要となります。 このほか、喉を含む気道の役割として、温度や湿度にも敏感な肺胞を守るため、外気がたとえマイナスの温度でも、鼻から喉、そして肺胞に届くまでの間で人肌にまで温め、適度に保湿をして肺胞に送る役目もあります。 そして、喉の役割で重要なのは、肺から排出される空気を使って喉の声帯を振動させることで、私たちに声をもたらしたことでしょう。
異物排除と密接な「喉」の筋肉 声を出す習慣が鍛えに
学会活動は効果的 このように、喉は肺を守るために欠かせない役割を果たしていますが、その機能を支える喉の筋肉は、年齢とともに衰えてきます。先ほど述べた咽頭蓋も、筋肉が衰えると、うまく機能しなくなり、むせることが多くなります。また咳の力も弱まり、異物を体外に排出しにくくなることが知られています。 では、私たちが心掛けるべき点は何でしょうか。それは「喉の筋肉を鍛える」という点と、「喉を傷めない」という点を意識することです。 喉を着て流転では、声を出すことが一番の方法です。話す行為は喉の筋肉を使うだけでなく、脳とも深く結びついているので、認知機能低下を防ぐことにもつながります。話す機会が少ないかたは、新聞を音読するなど、声を出す習慣を身につけるといいでしょう。そうした意味からも、創価ふぁっ会員が行う勤行・唱題や活動を通して行う座談会での発言、御書や書物の朗読などは、効果的な手段です。 一方、喉を傷めないという観点で、最も避けたいのは喫煙です。たばこは、喉はもちろん、肺胞にもダメージを与える有害物質が約20種類も含まれています。特に肺胞は一度壊れると再生されませんので、禁煙をお勧めします。 また、喉の感想も傷める原因です。小まめに水を飲み、のどを潤すことを心掛けてください。喉に潤いがなくなると、喉の繊毛の働きも弱まってしまうことが分かっています。加えて、そのうるおいは唾液も関係することから、食事の際には、唾液がしっかり出るよう、よくかんで食べることも大切です。
仏典が記す肺の病 さて、ここまで喉を中心に呼吸器の役割を述べてきましたが、呼吸は私たちが生きていくことと密接に結びついているということもあり、その生涯は、さまざまな症状となって表れます。 それは仏法でも着目されてきました。 例えば天台大師の「魔訶止観」には、肺が病気になることで「顔いるが黒ずむ」という記述があります。現代医学からみれば、これは血液中の酸素が不足することで生じる症状と考えられます。 またインドでは古来、人間の身体は「地」「水」「火」「風」という四つの要素が和合することで形づくられている、と捉えられてきました。「地」は骨や筋肉など、「水」は血液や体液、「火」は体温や生か左様、「風」は呼吸や新陳代謝を指しますが、天台大師は、その中の「風」が乱れることでも人体に影響が出ると指摘しています。 それは「痛み」「咳」「身体の虚脱感」などです。さまざまな原因が想定されますが、「痛み」は気胸や肺梗塞、「咳」は肺疾患、「身体の虚脱感」は低酸素などの状態と考えられます。 こうした仏典での症状の記述は、現代医学に照らしても説得力があります。
地域の同志と呼吸を合わせ 周囲に励ましの言葉を!
「御義口伝」の仰せ その上、「御義口伝」では、私たちの五体を「妙法蓮華経」の五字に配し、「喉は法なり」(新997・全716)と仰せです。 私は「喉」が「法」となるのは、「喉」から生み出された声によって、「法」は広まっていくからだと考えます。まさに「超え、仏事をなす」(新1512・全1110等)です。 また、「法」とは〝宇宙に遍満する永遠の真理〟とも捉えられていますが、それを踏まえて「喉」の機能を見ると、そこにも「法」のような広がりがあると思えてなりません。 それは、喉の状態や使い方によって、その影響は私たちの身体はもちろん、周囲の人にも広がっていくという可能性を秘めているからです。 喉は、私たちのエネルギーの源となる食べ物と空気が通る場所ですが、そこで正確に仕分けをしているから私たちは生きることができ、喉を含む気道が異物を排除しているから、私たちの健康は守られています。そもそも、大気中の酸素が体内の二酸化炭素を交換する呼吸は、地球の環境とのつながりの中で利益を得ることであり、そこにも広がりを感じます。 それだけではありません。 実は、喉仏の真下にある甲状腺が出す「甲状腺ホルモン」には、血液の流れに乗って全身の細胞に働きかけ、新陳代謝を活発にする役割があります。このホルモンは、脳の活性化や精神状態にも関係しており、こうした〝喉の働き〟によって、私たちは心身ともに健康で生きていけるのです。 喉から生まれる「声」という要素も欠かせません。私たちは声を通して、周囲と円滑なコミュニケーションを取れるようになりました。 ましてや、日蓮大聖人は、「題目を唱え奉る音(こえ)は、十方世界にとずかずという処なし」(新1121・全808)と仰せであり、私たちの喉は、まさに宇宙に遍満する妙法の力と結び付いているのです。
仏法に生命潤す力が 甲状腺ホルモンは、バランスが重要で、多すぎても、少なすぎても、身体に異常が現れます。そして、バランスが乱れる大きな要因と考えられているのが、ストレスです。 ストレスをためないためには、十分な睡眠や適度な運動など、リズム正しい生活が大切ですが、最も大きなストレスとなるのは、人間関係でしょう。この人間関係を良好に保っていく鍵も、「喉」の使い方にあると思います。 大聖人が「言(ことば)と云うは、心の思いを響かして声を顕すを云うなり」(新713・全563)と述べられたとおり、良き人間関係を保つには、喉を使って心を込めた言葉を発することではないでしょうか。 友の幸せを願い、真心から紡ぎ出された励ましの言葉は、友の心を穏やかにし、心身ともに健やかに生きる力を与えます。そもそも、友と語らうことは、互いの喉を鍛え、これも健康になっていくことにつながります。 地域の安穏を祈り、悩んでいるともに声を掛け、積極的に人々と友情を結ぼうとする学会の同志が、健康で生き生きと人生を歩んでリル姿そのものが、「喉の力」の持つ可能性を証明しているように思えてなりません。 法華経薬王品には「清涼の池の能く一切の諸の渇乏の者を満たすが如く」(法華経597㌻)と説かれています。法華経を「清く冷たい水をたたえた池」に譬え、池の水が〝人々の乾いたのどを潤す〟ように、法華経は人々の生命を潤し、ぼんのうの苦しみの熱を取り去る力がある、ということを伝える一節です。 人々の孤立化が懸念される今こそ、この偉大な仏法に巡り合えた喜びを胸に、地域の同志と呼吸を合わせ、周囲に社会に真心の声を届けてまいります。
こんどう・かずや 1959年生まれ。徳島大学医学部位学科を卒業。医学博士。同大学大学院医歯薬学研究部臨床腫瘍医療学分野教授。呼吸器毛会として肺がん、胸腺腫などの胸部の悪性腫瘍の治療および研究に従事。日本呼吸器外科学会評議員、日本肺癌学会評議員、日本呼吸器内視鏡学会評議員、日本胸部外科学会評議員。創価学会四国総合ドクター部長。副圏長(本部長兼任)。
【危機の時代を生きる■創価学会ドクター部編■】聖教新聞2022.9.10 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
January 29, 2024 07:52:26 PM
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