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February 6, 2024
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カテゴリ:書評

肉食べず、木になろうとする女性

作家  村上 政彦

ハン・ガン「菜食主義者」

本を手にして想像の旅に出よう。用意するのは一枚の世界地図。そして今日は、ハン・ガンの『菜食主義者』です。

『冬のソナタ』を覚えている人は多いと思います。このドラマで一気に韓流ブームが起こりました。その後Kポップと名付けられた韓国初のポップミュージックが、日本ばかりか、欧米でも流行することに。

そして、近年はK文学が流行しています。韓国・光州生まれのハン・ガンは本作で、韓国の芥川賞といわれる「李箱(イサン)文学賞」を受賞。2016年には、アジア人で初めて英国のマン・ブッカー国際賞に輝きました。

ブッカー賞は、ノーベル文学賞を意識した賞運営をしているようで、このところよく話題に上がります。

『菜食主義者』を代表作とする書籍には『蒙古斑』『気の花火』の中編小説2作も収められています。どの作品にも登場する女性ヨンヘは、取り立て変ったところのない、平凡な主婦。『菜食主義者』の語り手「私」は、その普通さが気に入って結婚しました。

ところが、ある朝、ヨンヘが肉類を袋に詰めて捨てようとしているのを見つけた。何をしているのか尋ねると、「夢を見たの」としか言わない。

仕事があるので急いで出勤した私は帰宅後、夕飯のメニューを見て驚く。

「サンチュと味噌、牛肉もアサリも入っていないワカメのすまし汁とキムチ、それで全部だった」

冷蔵庫には、卵も牛乳もない。皆、捨てたという。ヨンヘは付き合っている頃から、肉料理が好きだった。結婚してからも、牛、豚、鶏の肉を使って、美味しい料理を作った。それが急に極度のベジタリアンになるとは、よく理解できなかった。

ヨンヘは、だんだん痩せていく。夜もあまり眠っていないようだ。決定的だったのは、私が社長に招かれた会食で、肉を食べないと宣言したことだった。専務夫人がベジタリアンになった理由を聞くと、「……夢を見たのです」と。彼女は夢を見るたび、肉を食べるからだと思い、ベジタリアンになった。私のメンツは潰されてしまった。

ヨンヘの奇行は、彼女の両親、兄弟も知るところになり、父は無理に肉を食べさせようとして、争いになる。そして、ヨンヘは、果物ナイフで手首を切ってしまう―。

ヨンヘは病院に入るが、そこで半裸になって陽を浴び、水さえあれば生きていけると言う。

彼女は、どうやら木になろうとしている。

『菜食主義者』の原案は「一人の女がマンションのベランダで植物になり、一緒に暮らしていた男が彼女を植木鉢に植えるという話」だという。

『蒙古斑』『木の花火』と物語が進むにつれ、ヨンヘは植物に近づいていく。何が彼女をそうさせるのか。読者は作品世界に没入して手探りするしかない。

【参考文献】

『菜食主義者』 きむふな訳 クオン

 

 

【ぶら~り文学の旅 海外編❿】聖教新聞2022.9.28






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Last updated  February 6, 2024 04:48:18 PM
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