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カテゴリ:医学
取り出した免疫細胞(T細胞)固形がん治療 遺伝子入れて体に戻す
抗原を見つけて標的に この治療法では、人工的に作った遺伝子をT細胞に入れて、がん細胞の表面に現れている抗原を見つけて攻撃する働きを強化します。日本では「CART〈カーティ〉細胞療法」と呼ばれる手法を使った5製品が、一分の血液がんを対象に承認されています。 米ペンシルベニア大学チームは今年2月、CART細胞療法を施した難治性の慢性リンパ性白血病の患者さん2で10年間、症状が安定したと発表しました。 研究者らが次にねらうのは、患者数が多い固形がん。しかし、いくつかの課題があります。 一つは、標的と異なる抗原の現れ方が細胞ごとに差があり、全てのがん細胞をまんべんなく攻撃するのが難しい点。正常な細胞にも多く存在する抗原を標的にすると謝って攻撃してしまうため、標的の運び方に注意が必要です。また、固形がんは免疫の働きを抑える傾向にあり、投与したT細胞が弱体化しやすく、長持ちしにくいのです。 各国の研究者や企業は、標的を複数にしたり、弱体化を防ぐ改良を加えたりと工夫を重ねています。信州大学の中沢洋三教授らは、がんの増殖に関わる「HER2」という抗原を標的にしたCART細胞を開発。HER2を多く持つ骨・南部肉腫や卵巣がん、子宮がんの患者最大12人を対象に、今年5月から、主に安産性を確かめる治療を始めました。
脳や膵臓でも治療が奏功 従来のCART細胞はウイルスを運び役として遺伝子を導入しますが、中沢教授らは酵素を使う手法を採用。細胞を作るコストを10分の1以下にできると見込んでいます。 肉腫のあるマウスの実験では、細胞が短期間で弱体化せず、効果が持続することを確認しました。5年間ほどかけて、薬事承認に必要なデータを集めます。 中沢教授は「分子標的薬や免疫チェックポイント阻害剤とうまく組み合わせたら、無理なく患者の生存期間を延ばせるかもしれない」と話します。 米国では、神経膠腫という脳腫瘍を対象とした治験で、患者4人中3人で腫瘍が縮小するなど有望なデータが出ました。中国では、胃がんや膵臓癌の患者37人が参加した治験で奏功率が49%だったとの報告があります。 中沢教授は「今後2,3年で勝ち組となる手法が出てくるだろう」と予想します。
薬のない滑膜肉腫にも光 別の手法で実用化が近い試みもあります。タカラバイオなどは「TCRT細胞療法」と呼ばれる技術を研究。がん細胞を探し出す能力をT細胞ががん細胞を探し出す能力をT細胞が強化する点はCARTと同様ですが、強化する部位が異なります。患者の免疫の型を考慮する必要があるため投与対称が限られ、攻撃力が十分高くない点が課題とされます。一方、CARTでは難しい、がん細胞の内部に多く現れる抗原を狙えます。 同社は多くのがんで現れる「NY-ESO-1」という抗原を狙って攻撃能力を高めたT細胞を開発しました。角膜肉腫の患者を対象に2017年から治験を実施し、「安全性と効果は確認できた」(担当者)といいます。国に承認申請する予定です。1回の投与で半年はT細胞が効果を発揮し続けると考えられ、同社の担当者は「滑膜肉種は治療薬がない。実用化したら効きの良い初めての治療薬になる」と話しています。
今日のポイント▶▶▶ 高い攻撃力の持続が課題 患者の血液から取り出した免疫細胞の一種「T細胞」に遺伝子を導入して改変し、がん攻撃能力を高めて体に戻す治療法を、固形がんにも応用する試みが進んでいます。一部の血液がんでは高い効果を発揮していますが、固形がんに対しては攻撃を持続させるのが難しいとされてきました。壁を突破すべく、独自の技術を生かした臨床試験(治験)が世界中で進み、有効性を示唆するデータも出始めました。
【医療Medical Treatment】聖教新聞2022.12.5 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
March 20, 2024 05:18:54 AM
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