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July 2, 2024
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カテゴリ:文化

鉄と人の営み

東京工業大学名誉教授  永田 和宏

 

環境負荷少ない製鉄法に期待

鉄は私たちの周りにたくさんあります。台所には包丁や鍋、フライパンなどいろいろあります。冷蔵庫や洗濯機の箱は鉄板でできています。自動車は鉄道のレールは鉄でできています。橋もビルの鉄筋も鉄です。このように鉄は現代の人類の生活を支える重要な材料です。

鉄は様々な性質を持っています。鉄—炭素合金は炭素濃度を高くすると次第に硬くなり、溶ける温度も純鉄の1536℃から炭素濃度4.2%では1154℃と400℃近く下がり銑鉄になります。これを鋳込んで鍋や釜などができます。鉄—炭素合金の鋼は室温では硬い鉄ですが真っ赤な高温では柔らかく加工が容易にできます。「鉄は熱いうちに打て」です。

また、高温から油や水に急冷して焼き入れすると非常に硬くなり刃物ができます。徐冷すると軟らかくなります。竜は磁石につく性質がありモーターや変電機などに使われます。ニッケルとクロムとの合金は錆び難いステンレスで台所の流しなどに使われています。このように合金鉄は様々な性質を持っています。

鉄は宇宙でできました。宇宙の始まりのビッグバンから様々な元素ができましたが、鉄が最も安定な元素です。そして宇宙から隕鉄が落ちてきます。地球の中心の核は鉄でできていますが、鉄は酸素や硫黄、炭酸ガスなどと化合物を作り軽くなって地表に運ばれ火山の噴火によって地上に噴出します。この中に磁石につく磁鉄鉱があり砂鉄もその一つです。大気が炭酸ガスの頃、鉄は海に溶け込み、酸素が増えると赤鉄鉱の鉱床ができました。海に溶け込んだ鉄は生物の生命の酸素代謝に使われ魚や私たちの血のヘモグロビンになっています。

金や銀、銅は自然に地表にあるので人類は青銅器時代を作りました。一方、鉄は酸化鉄として存在し金属ではありません。隕鉄は硬くて加工が難しくて希少でした。4000年ほど昔プロトヒッタイトとよばれる人たちが製銅法から製鉄法を発見し、ヒッタイト帝国が滅亡した3000年ほど昔から製鉄技術が世界に広がり鉄器時代になりました。

製鉄技術は人が伝え、材料は現地で調達するので世界には様々な製鉄炉があります。中国には紀元前800年頃、春秋戦国時代に伝わり、日本には6世紀後半に伝わりました。日本には赤鉄鉱が少ないので微粉末の砂鉄を使う世界にない独特な、たたら製鉄が開発されました。

14世紀頃西洋では溶鉱炉が開発され、18世紀になると燃料が木炭から、石炭から作るコークスになり銑鉄の生産効率が向上しました。鋼は半溶融状態の銑鉄を空気中で練り炭素を除去して錬鉄を作っていましたが、19世紀中頃に転炉が発明され、溶鋼を鋳込んで製品を安価に大量生産する方法が開発されました。

現代の鋼は錆び安く0年ほどしか持ちません。また、コークスを燃料に使うため大量の炭酸ガスを発生し環境木悪影響を与えています。一方、たたら製鉄で作った鋼は錆び難く、鉄の表面に模様を出すことができます。温故知新、昔の製鉄法を研究する中から、環境負荷が少なく品質も確保できる新しい製鉄法の誕生が期待されています。

(ながた・かずひろ)

※参考資料『人はどのように鉄を作ってきたか』永田和宏著、第7刷、ブルーバックス、講談社、2022年。

 

 

 

【文化】公明新聞2023.4.28






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Last updated  July 2, 2024 05:53:51 AM
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