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日本アニメの転換点 氷川竜介(アニメ・特撮研究家) 多くの制作者に影響を与えた「ヤマト」 日本のアニメは面白い。世界中で評判だ——と、よくいわれます。日本の人気アニメ作品の特徴とは、いったい何なのでしょうか。そんな疑問を解消したく、近著『日本アニメの革新』(角川新書)を出しました。 時代ごとに転換点となった作品を紹介しましょう。 一つ目の転換点は「宇宙戦艦ヤマト」と「機動戦士ガンダム」です。アニメは子ども向けと捉えられていたものが、青年向けへと舵を切ることになったのです。 ヤマトのあらすじは、3枚の絵で紹介できます。➀赤く焼けただれて滅亡に瀕した地球②干上がった海底にたたずむ赤錆びた戦艦大和③地下都市で宇宙戦艦に改造されかけたヤマトの船尾。 古代進や沖田艦長といった主要キャラクターはもちろんのこと、ヤマトの全貌さえ示されなくても説明できてしまうのです。つまり、この作品の主役はキャラクターではなく、ヤマトが旅していく14万8000光年という空間。つまり作品世界なのです。 観客に想像させて楽しませる。作り手側は深く考えなかったかもしれませんが、観客たちはそう受け止め、見た後で勝手に世界観を広げ始めたのがヤマトだったのです。 その応用編とも言えるのが、「機動戦士ガンダム」です。大和が空間を描いたのだとしたら、ガンダムは時間を描いていると言えるでしょう。 放送終了後40年以上経ってもなお、多くの人のガンダムについて掘り下げて楽しめるだけの要素があるのです。こうなると、視聴対象は小学生には難しい。青少年が対象になるというものもうなずけるところです。
なぜ海外でも人気なのか 世界観を広げてくれる作品が多い
細部を緻密に描き、リアルな現実感 次に取り上げるのはジブリ作品。ジブリは、女性ファンを拡大したことで有名ですが実は、そのすごさは〝信じさせる力〟にあります。 例えば、後にスタジオジブリの「アルプスの少女ハイジ」。ハイジがおじいさんの家に連れてこられる場面で、活発なハイジは黙って座っていません。部屋の中を勝手に探索し、棚を開けたり、食器を発見します。2階に上がるハシゴもハイジの目線で見つけます。観客はハイジの目線で同じように見ていくのです。 日常の何げない光景にこだわり、細かい部分を再現し、世界に潜む一つ一つの因果・つながりを描いている。それがジブリアニメに受け継がれているのです。 SFアニメの「AKIRA」「攻殻機動隊」は、さらにリアルさと緻密さを追求し、海外でも高い評価を受けています。 例えば、ビルが倒壊する場面を思い浮かべてみてください。バラバラに崩れた壁が地面に落ちていく。これでは昔のアニメと一緒。破片が落ちていくだけではなく、まずガラスにひびが入り、砕け散って地面に落下。壁にしても、全部いっぺんに崩れるのではなく、一部が崩れて鉄筋がむき出しになる。さらに、地面に落下して後は土煙が上がり、何も見えなくなる。 つまり、壊れるという記号を避け、実際の描写に近づけた。それによって、さまざまな感情や、行動への納得性をかき立てているわけです。
実写よりも美しいキラキラした映像 世界に投入させるためにリアルさを追求するなら、アニメではなく実写にすればいいのに、とよくいわれます。しかし、絵に描くことで何でも表現できるのがアニメ。そこには役者や美術セットなど物理的な制約がありません。 つまり、実写映画でやることを、日本ではアニメという手法で低コストで実現し、そこに実写の誓約を超えた実感を込めているわけです。 21世紀に入ると、技術的な見せ方だけでなく、デジタルの効果を利用して、個人に近い世界観を伝える作品も登場します。ここで取り上げるのは新海誠監督です。 「君の名は」「天気の子」「すずめの戸締り」の3部作は、これまで述べてきたような細部を個人の視線に近づけて描くことで、作品の世界観に投入させてくれます。 さらに特筆したいのは、光と色の鮮やかさ。そのキラキラした映像は、実は私たちが生きている世界観も、こんなにきれいなのかもしれない、と思わせてくれるほど。 新海監督が表現したいのは、古来、日本人が受け継いできた世界観でもある。それを見せることで、悲惨な災害も、過去と同じように乗り越えることができるんじゃないかと思わせてくれるのです。 海外の人がアニメを見て癒されるというのは、日本だ平和というだけではなく、そんな世界の見方にあるのかもしれません。=談
【文化Culture】聖教新聞2023.6.8 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
August 6, 2024 05:28:44 AM
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