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October 8, 2024
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カテゴリ:文化

東欧の小国の悲劇を生き生きと描出

東京外国語大学名誉教授  西永 良成

読者を解放 7月に逝去したチェコ出身の作家

ミラン・グンデラの「笑い」

チェコの功名な批評家フヴァチークが、「グンデラは自らの作品の主題を選ぶ必要はなかった。時代が彼の作品の主題を選んでくれたのだ」と述べているように、彼は1948年のチェコの共産主義革命から、68年の「プラハの春」とソ連によるその弾圧、それに続く非人間的な、「市場課」の時期、そして89年の「ビロード革命」まで、東欧の小国の悲劇を『冗談』『生は彼方に』『笑いと忘却の書』『存在の耐えられない軽さ』『無知』などの小説を生き生きと描出し、20世紀の壮大かつ過酷な社会実験というべき、共産主義的実存の記念碑的な作品群を残した。

グンデラはこのようなチェコ現代史の悲劇を描いた作品によって歴史に残る作品になるに違いないが、忘れてはならないのは彼の本領はもともと喜劇にあったことだろう。このことは『おかしな愛』「別れのワルツ」「不滅」「無意味の祝祭」のような喜劇的な作品の系列を読むことで容易に納得できる。

 

喜劇的なものが残酷に

無意味さ容赦なく暴露

 

「悲劇的なものは人間の偉大さという幻想を差し出すことによって私たちに慰めをもたらす。喜劇的なものはそれよりも残酷であって、容赦なくあらゆるものの無意味さを暴露する……喜劇的なものの真の天才とは最も人を笑わせるものたちのことではなく、喜劇的なものの未知の地帯を明らかにするものたちのことだ。〈歴史〉は常にひたすらまじめな領域だとみなされてきた。ところが〈歴史〉には未知の喜劇的なところがあるのであり、これは(受け入れるのが困難な)性に喜劇的なことがあるのと同じである」と言っているが、グンデラが「喜劇的なものの未知の地帯」を最初に取り上げたのは『可笑しな愛』であり、彼はここで例外なしに滑稽な性の形態を描いて見せた。これ以外にも『緩やかさ』や『無知』でも、『チャタレー夫人』の愛読者ならきっと憤慨するに違いないような非叙情的な性の情景を描き続けていた。

喜劇的なものが残酷にあらゆるものの無意味さを容赦なく暴露するという点で、グランデらの考えをもっとよく示しているのは最後の小説『無意味の祝祭』である。彼は時に神聖視される歴史や性愛を含むあらゆるものを笑いのめすこの小説の登場人物のひとりに、「ねえ、きみ、無意味とは人生の本質なんだよ。それはいたるところで、つねにわれわれもつきまとっている。……しかし大切なのは、それを認めることだけでなく、それを、つまり無意味を愛さなければならないということだよ」とまで言わせる。

このようにグンデラら読者に慰めや励ましを与える作家ではなく、笑いによって読者を解放する作家だった。それは「あるがままの人生は敗北である、ひとが人生と呼ぶ避けがたい敗北に直面して、私たちのこのされる唯一のことは、人生を理解しようと努めることだけだ」ということをよくよく見極めた認識だった。

(にしなが・よしなり)

 

 

 

【文化】公明新聞2023.8.25






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Last updated  October 8, 2024 04:18:02 PM
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