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October 9, 2024
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幸福な社会を築く力は心の財を積む生き方に24
本当の豊かさとは 

東洋大学名誉教授  八巻 節夫さん

GDPが示すもの

幸福な社会とは、どうすれば実現できるのでしょうか。

経済学の分野で長らく、国の経済の大きさを表すGDP(国内総生産)が伸びれば、人々の暮らしは豊かになり、幸福度をも上がると考えられてきました。しかし、現実は違うようです。

日本ではGDPで世界3位ですが、2023年3月に発表された国連「世界幸福度報告書」によれば、日本の幸福度は137か国中47位。この報告書では、日本だけでなく、経済大国と呼ばれる国々も上位に入っていません。

実は、経済的な豊かさが、直接的に幸福度と結びつくとは限らないことは1970年代から言われ始め、さまざまなことが明らかになりました。

例えば、GDPを人口で割った「1人当たりGDP」は、国民の平均的な豊かさを表しますが、「世界価値観調査」を見ると、1人当たりGDPが1万ドルを超えると、幸福度と相関関係が見られなくなることが分かります。

つまり、収入などが増えても、幸福になるとは限らないということです。ちなみに、日本の1人当たりのGDPが増えても幸福度は現在、約40万ドルです。

なぜ経済成長し、DGPが増えても幸福度は上がり続けないのでしょうか。

それもそのはずで、例えば環境破壊が進んでも、交通事故が起きても、GDPは増えるのです。

GDPとは、一定期間内に国の中でモノやサービスによる付加価値、つまり製品やサービスの販売額から途中の仕入れ額や流通経費などを差し引いた、いわゆる〝もうけ〟がどのくらい出たのかを示すものです。

例えば、ある期間内に、製品がたくさん生産されたり、個人が多く生じしたりすれば、GDPは増えます。

交通事故の話でいえば、事故に遭った当事者は、肉体的・精神的に打撃を受け、幸福度は落ち込みます。にもかかわらず、GDPは保険の適用や自動車修理、病院での治療やお見舞いの花束の購入などで、たちまち増加するのです。

逆に、主婦(夫)の家事や家庭での暖かな団らん、ボランティア活動を通じた人々の交流などは、商品やサービスの売買が伴わない限り、GDPに含まれません。

つまり、GDPは「物の豊かさ」には寄与したとしても、幸福度とは必ずしも結び付くものではないということです。

 

経済の仕組み

では、人々の幸福に結びつく経済の在り方とは、どのようなものが考えられるのでしょうか。

それについて今、世界の研究者たちが模索しているところです。

例えば、フランスの経済学者ジャック・アタリ氏は、「命の経済」というものを提唱しました。

これはコロナ禍による死者が増える中、経済的に豊かな国々が、人々の命や健康に十分な予算が割いていなかったことから、保健、教育、物流、再生可能エネルギーなど、健康に役立つ分野で働く人や企業を優先的に支援すべきだと主張したものです。

環境分野では、すでに二酸化炭素の排出量に価格をつける「カーボンプライシング(炭素の価格付け)」が推進されています。これは、気候変動対策に積極的に取り組む企業が評価される企業が評価される経済の仕組みです。

もちろん、アタリ氏の言うように命の安全や健康は、人々が幸福を感じる上での土台になるもので、私は賛同を寄せる一人です。ただ、それだけでは十分ではありません。

というのも、経済的に豊かで体が健康であっても、不運な出来事に遭遇し、心が落ち込んでいれば、幸福とはいえないからです。

そうして意味で、希望や生きがいと言って「心の豊かさ」を育む経済の師国を模索することが大切だと思うのです。その仕組みは、心の豊かさを含めた生命にとっての価値を増進するという意味から、私は「生命価値経済」と名付けています。

例えば、前述した家事やボランティア活動など、人間の心や社会を豊かにする分野を正当に評価に、カーボンプライシングのように、経済活動の中に組み入れていくことが考えられます。育児休暇やリモートワークの拡充の流れなども、その一例といえるでしょう。

 

仏法の視点

「心の豊かさ」を育む経済を目指す前提として、「心の豊かさ」とは、どのような条件のもとで高まっていくのかについて考えたいと思います。その要素はいくつかあるでしょうが、特に私は「態度価値」「社会関係資本((ソーシャル・キャピタル))のが要になると捉えています。

一つ目の「態度価値」は、オーストラリアの精神医学者、VE・フランクルが名付けたもので、逃れられない運命に対し、どのような態度で受け止めるかによって生まれる価値のことです。

フランクルは第2次世界大戦時、ナチスの強制収容所に入れられました。自由を奪われ、死と隣り合わせの環境で、〝この苦しみはどんな意味があるのか〟を問い続けました。

その経験を経て、避けられない出来事をどう解釈し、そこにどんな意味を見出すかという態度によって、人生の捉え方や生き方が変わることを痛感したのでしょう。

実際、フランクルはどの状況に置かれることはなくても、人それぞれ、さまざまな出来事に遭います。

その時、前向きにとらえて挑戦するか、「もう駄目だ」と諦めて歩みをやめてしまうのか。その受け止め方は、後の心の在り方にも影響を与えていくものです。

ここで強調したいのは、逆境や試練に対し、自分自身を向上させる糧として移行する前向きな態度が大切ということです。そうした捉え方ができれば、どんな状況でも「心の豊かさ」を育んでいけるからです。

二つ目の「社会関係資本」は、社会や地域での信頼関係や、人との結びつきなどを資本ととらえる概念です。以前から、こうした〝他者との関係性〟が心を豊かにし、幸福な人生に不可欠な要因となることは指摘されてきました。

例えば、経済協力開発機構(OECD)の「より良い暮らし指標」では、「社会的つながり」が幸福度の指標の一つになっています。

また、アメリカの研究では、社会的に孤立している人は、社会的なネットワークを多く持つ人よりも男性で2.3倍、女性で2.8倍も死亡率が高いとの結果が出ており、他者とのつながりは健康にも影響を与えることが分かっています。

先ほど挙げた「態度価値」も、人々暖かな言葉や励ましといった「関わり」によって生まれる部分もあります。そうした中で「心の豊かさ」が育まれることを考えると、人と人のつながりを築いていく大切さも分るでしょう。

そのうえで、私は仏法の思想・生き方こそ、この「態度価値」や「社会関係資本」を育む力になると考えています。

例えば、仏法の「願兼於業」という法理は、民衆を救済するために、あえて願って宿業を背負い、悪世に生まれてきたという意味であり、悲しみの原因である「宿命」を、自身の生きる意味である「使命」と捉えていく生き方を教えています。これは、まさに「態度価値」のことで、人々の生きる力を増進していく前向きな態度でしょう。

また、仏法には「縁起」という考え方があります。あらゆるものは「縁りて起こる」という関係性にあり、いかなる物事も単独では成立せず、互いに依存し、影響しあう中に存在しうると考えます。

人間も、自分一人だけで存在しているのではなく、実は互いに支えあっている。こうした視点に立てば、他者を排斥するのではなく、むしろ、他者と共生するための知恵が生まれるのではないでしょうか。その意味で、ここには「社会関係資本」を育む力があります。

 

宿命を使命に

これまで、人々の幸福に結びつく経済の在り方について考える中、「物の豊かさ」よりも「心の豊かさ」が必要であり、「態度価値」や「社会関係資本」が要となることを述べてきました。

この「態度価値」や「社会関係資本」は、GDPには含まれていませんが、こうした「心」を重視する経済へと軸足を移してこそ、一人一人の幸福感も増していくと考えます。

しかし、私は「物の豊かさ」が幸福に結びつかないといって、経済成長それ自体を否定しているのではありません。また「態度価値」によって「心の豊かさ」が生まれるのなら、貧困などの経済格差が固定化されたままで構わないと言っているわけではありません。

アメリカの心理学者マズローも、飢えや渇きを満たしたいという「生理的欲求」や、恐怖や不安から逃れ、安心した暮らしがしたいという「安全の欲求」が満たされてから、「精神的な欲求」が生まれると述べられています。

その意味からも、貧困対策や福祉政策はないがしろにしてはならないですし、そのために国の経済が豊かになっていくということも大切なことです。

私は仏法のまなざしも同じであると感じています。日蓮大聖人は「蔵の財よりも身の財すぐれたり、身の財より心の財第一なり」(新1596・全1173)と仰せです。

ここで重要なのは、蔵の財(物の豊かさ)や、身の財(健康や身に付けた技術・地位など)を否定しているわけではないということです。

ただ、それを追い求めるだけでは、本当の幸福をつかめない。だからこそ、心の財(心の豊かさ)を積む生き方が大事であるということです。

創価学会員は仏法の希望の哲学を心に刻みながら、宿命を使命に変える生き方を貫いています。そして、孤立や孤独が深まる現代にあって、周囲に励ましを送り、積極的に人々とのつながりを育んできました。

こうした互いの「心の豊かさ」を増していく運動は、今の社会にますます求められているのではないでしょうか。

また、仏法の哲学を語り広げることは、まさに私が述べた「心の豊かさ」を育む経済をはじめ、人々が幸福感を感じられる社会を築く力になっていくと確信します。

私自身、学術部のモットーの一つにある「正義・勝利の連帯」を広げながら、「本当の豊かさ」を施行する経済学の発展を目指し、さらなる探求に励んでまいります。

 

やまき・せつお 1943年生まれ。経済学博士(財政学)。国士舘大学大学院博士課程修了。東洋大学経済学部教授などを経て、現在、東洋大学名誉教授。著作に『改訂新財政学』(文眞堂)、「地球環境時代と生命系経済学」(『地球環境と仏教』所収、東洋哲学研究所)など。創価学会学術部参与。総神奈川・相模総緑区主事(総区太陽会議長兼任)。

 

 

 【危機の時代を生きる 希望の哲学■創価学会学術部編■】聖教新聞2023.8.26






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Last updated  October 9, 2024 06:26:36 AM
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