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October 15, 2024
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カテゴリ:抜き書き

朝鮮半島の分断に日本はかかわっていた

小森●そのとおりですね。沖縄の問題は、非常に大事なことだと思います。戦後の昭和天皇裕仁がどのように生き延びたかを図っていくのか、ということについては、ジョン・ダワーの『敗北を抱きしめて』(岩波書店)を読んでいただきたい。どれだけ密室の、しかも執念深い談合がGHQ当局と天皇の側近との間で行われたか。天皇の独自録の一つの文言までお互いがチェックし合っていたことが、見えてくるはずです。それをもとに私も『天皇の玉音放送』(五月書房)という本を書きました。

大事なことは、見事に談合だと思うんだけれども、まず一九四五年の九月二七日にマッカーサーと昭和天皇が会って以後、裕仁がいちばん重視しているのは、戦争を終えたことを「皇祖皇宗」に報告することなんです。報告したい、とマッカーサーに願い出る。

姜●「皇祖皇宗」は説明した方がいいですね。

小森●「皇祖皇宗」というのは伊勢神宮の天照大神からはじまって明治天皇、大正天皇まで順番に報告するわけなんです。その最終段階で一一月に靖国神社に参拝する。今は個人的に参拝したかどうかという話になっていますが、この時点では一九四六年一月一日の「人間宣言」はまだ出していないんですよ。GHQから国家神道をやめろという「神道指令」が出たのは四五年一二月です。四五年一一月の段階ではまだ大日本帝国憲法下ですから、昭和天皇裕仁は靖国の祭祀権を持ったままの現人神なのです。現人神のまま、四五年一一月に靖国神社を個人的に参拝する、個人的といっても現人神には違いありません。

靖国神社を参拝したことによって、太平洋戦争で命を落としたすべての軍人たちは「英霊」になれた。この瞬間、靖国の妻や母たちにとって、間違った戦争で間違った死に方をしたと位置づけられてしまいそうだった自分の夫や父親、兄や弟を全部英霊にしてくれたのが裕仁だ、ということになり、戦後のカリスマ性の根拠になります。これが敗戦後の日本社会の女性たち、遺族の心をわしづかみにした。それこそ哲学者の高橋哲也さんが指摘した「魂の錬金術」(『靖国問題』ちくま新書)が見事に行われたわけです。そして、この昭和天皇裕仁の靖国参拝が終わった段階で「神道指令」がでる。

そして四五年一二月には、日本の陸海二軍が完全に解散します。神道指令が出たのはその後のことです。全部近代日本の天皇制の、国家神道の協議にのっとったスペクタルイベントがきっちと行われた段階で、四六年一月一日に「人間宣言」が出る。あの人間宣言でも、天皇は自分が人間だとは言っていないんですよね。いきなり五箇条の御誓文を出して、日本は昔から民主国家だった、私と国民とのつながりは神話よりももっと現実の歴史の中で深いのだ、と言っている。

姜●確かに天皇は「人間」だと言っていません。

小森●戦争における戦死者の魂を人質にして、自らの権力の温存、生き延びる道筋を図るというのが巧妙です。そしてアメリカもそれを占領支配に使う。冷戦構造はヨーロッパだけではなく、中国大陸で人民解放軍は国民党を追い出していく方向になります。そうなると、日本に共産主義革命が波及してしまえば、現人神でなくなってしまった自分の地位が危うくなる。そう思って昭和天皇裕仁は、1947年にアメリカが軍事を支配した、あの本土決戦の演習として多くの非戦闘員を巻き込んだ決戦をした沖縄を、自ら「アメリカさん、どうぞ使ってくださいませ」と売り渡してしまうのです。

本来沖縄の問題というのはさまざまな外交カードで使えたはずなのに、或は様々な責任問題をアメリカに対して主張できたはずなのに、天皇が自らの生き延びを図るために売り渡してしまった。アメリカが軍事要塞の島として冷戦下ずっと沖縄を支配してきた要因の出発点は、ここにあります。沖縄が冷戦下における最も過酷な軍政支配の犠牲になった。その状況をつくり出したのは、昭和天皇裕仁です。

そしてもう一つ考えておかなければいけないのは、一九四五~四六年のプロセスにおいて、日本が植民地支配をしていた韓半島を、そのまま温存したことですよね。ここが韓半島が南北に分断される大きな理由になる。そのあたりを私たちは認識しておかなければいけないと思います。

姜●国際政治学者の新藤栄一さんも、天皇メッセージによって沖縄を租借地みたいな形で売り渡した、と言っています。近衛文麿は、天皇に対して、早く戦争終結を出すべきだと進言してきました。

ジョン・ダワーは『敗北を抱きしめて』より以前に、『吉田茂とその時代』(中公文庫)という本を出しています。それを読むと分かることですが、天皇の側近や重臣の間には、軍首脳の中で東条英機をはじめとする統制派(陸軍内の派閥。クーデターによらず合法的に政府を操作しようとした)が覇権を握って、彼らがそのまま行くと天皇制自体を破棄するのではないかという危惧が広がっていきました。岸信介をはじめとするいわゆる革新官僚(戦時統制経済、総動員計画を作成した官僚層)は、北一輝的な国家社会主義的思考を持っているわけです。

天皇というのはあくまで国家の上に乗っかっている。悪く言うと国家があっての天皇であって、天皇あっての国家ではない。多くの人々は天皇あっての国家だと、現人神的に考えているわけだけど、天皇の側近や重臣たちの考えはそうではない。軍首脳の考え方がもっともっと極端な方向に走っていくと、国家社会主義が完成し、天皇制自体が廃棄されるのではないか、という危惧は敗戦問題から、保守派を中心に非常に高くなっていくわけです。

ですから天皇制の温存のために終戦工作もやり、反共的な勢力を結集させようとしたりもする。いわば敗戦から内乱へ、革命へと向かっていくことを恐れた予防革命的な動きがあったわけです。ポツダム宣言の受諾をめぐる逡巡も、そうしたことと関連しています。これは岡本喜八監督の「日本のいちばん長い日」のなかにもよく表れています。

結局ポツダム宣言の受諾が遅れたことが、南北分断にとっては決定的な意味を持ってきます。

小森●そこは詳しく話してください。

姜●朝鮮戦争がなぜ起きたのか? なぜ朝鮮半島が分断されたのか? とよく聞かれます。ひどい偏見ですが、同じ民族で殺しあうのは、やはり民族性に起因する問題があるのではないか、と思っている人もいるようです。

たとえば、吉田茂はかつて「韓国人が二人集まると三つの党派ができる」とひどく揶揄しています。彼は韓国人に対して、「韓国人に民主主義を教えるよりは、春に種を植えればちゃんと秋には稲穂が伸びるんだ、ということを教えてあげるんだ」などと、非常に蔑視的なことを平気で言っています。要するに韓国・朝鮮人はまとまりがない、諍いの好きな民族だというわけです。

もちろん、三八度線はだいたい軍管区から言うと朝鮮軍と関東軍(満州に駐屯した陸軍部隊)との仕切り線だと一般的には言われています。それから米ソの事実上の占領政策における境界線にもなりました。しかしなぜそうだったのか?

アメリカ側は、朝鮮半島については全く知識は持っていませんでした。中国と日本に挟まれたあの半島について、日本の占領政策に比べると一人のルース・ベネデュクトもいなかったのです。それほど無知でした。

無知だったんですが、やがて西側で、ヨーロッパ冷戦が米ソの主戦場となります。そして、東側では朝鮮半島の分捕り合戦が非常に大きな意味を持ってくる。とはいえ、ヨーロッパにおける境界線をどこに引くかがスターリンにとっては最大のテーマでしたから、東側、つまり朝鮮半島では譲歩していい、と思っていた。

アメリカは、朝鮮半島は当初完全にソビエトの勢力圏に入るのではないかと考えていた。しかし冷戦とともに、彼らから見れば中国に不穏な動きが起きて栗。中国共産党が国民党を駆逐していく動きが出てくると、朝鮮半島は地政学的に重要だと判断したのです。

そして一九四五年八月一〇日ごろに当時の国務省にいたディーン・ラスクらが、三〇分からそこらで境界線を引きました。「これぐらいが適当だろう」というわけです。これが分断線です。

もし日本が半年早く降伏していたら、私は朝鮮半島分断はなかったということもあながち否定できないと思います。あと半年幸福が遅れていたら朝鮮半島分断はなかったのではないかという人もいます。

小森●私もそう思います。分断された三八度線は、日本占領時代の軍隊の管轄の分割線だったのですから。

 

 

 

【戦後日本は戦争をしてきた】姜尚中(政治学者)・小森陽一(文学者)共著/角川書店






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Last updated  October 15, 2024 06:37:50 AM
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