カナダ滞在記 ~ 元夫婦 ~
ローズマリーの元旦那様ジョージは、リンダという女性と再婚して、私の滞在していたリーチ家の近くに住んでいた。娘達二人は月に一度か二度、パパの家でディナーを食べていて、私も一緒にどうか、と誘ってくれた。私はこういうシチュエーションに慣れていないので、どうしたものか、と思案したが、せっかく彼女達の父親が誘ってくれているのだから、と行く事にした。ジョージの家まではローズマリーが送ってくれた。そして、ジョージとリンダに愛想良く挨拶を交わし、サラとトレーシー、そして私を残して一人で帰って行くローズマリー。なんだか、その時の彼女の背中が寂しそうに見えたのは私の気のせいだろうか。ジョージは大学で音楽を教えているそうで、私の父がジャズをやっていると話すと、すごく興味を持ってくれ、ジャズのスタンダードナンバーをキーボードで弾いてくれた。気さくで優しい人。見た目はカーネル・サンダースにそっくりだ。リンダもとても洗練された印象で、頭が良く、気が利く感じ。こちらはイーデス・ハンソンか。(知らなかったらごめんなさい)食事も話も楽しく進み、サラとトレーシーもすごくリラックスしていた。そして、もちろん私も楽しかった。でも、どうしてもさっきのローズマリーの背中が頭から離れず、家で一人食事する彼女の側に居てあげたい、とずっと思っていた。その夜、すっかり遅くなり、ジョージの車で帰宅した時にはローズマリーはもう寝ていて会えず、次の朝、私はいつもより早く起きてローズマリーのお茶の用意をして待っていた。彼女お気に入りのクラシックのCDを小さい音量でかけ、ものすごく濃い紅茶にミルクをたっぷり。二日前にローズマリーと一緒に作ったブルーベリーマフィンも用意して。「Morning, Mayo」と後ろから声がする。ローズマリーだ。私も挨拶しながら、ダイニングテーブルの方を指差した。ローズマリーは驚いて、そして本当に嬉しそうな顔をしてくれた。いつものように、クラシック音楽を聴きながらの朝食。でも、なんだかいつもと違うのは、私の心の中の、小さな小さな後ろめたさのようなもの。ローズマリーを放っておいて、ジョージとリンダの家で、すごく楽しい時間を過ごしたことへの。別れた夫が新しい妻と一緒に住む家に、自分と暮らす子供たちが頻繁に遊びに行く。そして、自分も元夫とその妻と、良い関係を続けていく。こんなの、こっちでは当たり前の事かもしれない。でも、私は何となく、みんなどこかで無理してるんじゃないかな、と思ったりしていた。日本人とカナダ人の違い、と言われたら仕方無いけど、でも、同じ人間だもん。気分悪いとこは気分悪いんじゃないの?嫌な事は嫌なんじゃないの?二人が離婚した理由なんて知らないけれど、ジョージのローズマリーに対する態度には違和感が無いのに、ローズマリーの方が、何となく頑なな印象を受けた。すごく、無理している感じ。ちょっと一緒に暮らしただけの私になんて何も分からないけれど、でも、きっとみんな色々あるんだな。私も日本でギリギリのところまで来て、もうダメ!と思ってここに逃げてきた。そんな私を家族のように可愛がってくれるローズマリーに、何か出来る事は無いだろうか。「今日の晩ご飯、私が作ろうと思うんだけど」と私が言うと、「本当!?じゃ、巻き寿司作ってくれる?私お寿司大好きなのよ!今日マグロとサーモン買ってくるわね」ひえ~っ!!寿司飯って、どうやって作るのぉ~!(mayonnaise流巻き寿司のお話は、また今度…)