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車筆太

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2006年05月25日
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 マーベル・コミックス、DCコミックスなどのアメリカンコミックスのヒーローを、新旧のイラストレーターや原作者、果てはその周辺の人物たちが語るドキュメンタリーがこの『アメリカンコミックス スーパーヒーロークロニクル』である。
 
 近年はアメコミのヒーローが映画化されることが多く、原作は知らなくても目にする機会も多くなっている。
 このようなアメコミの受容は今も昔も変わりない。
 例えばスパイダーマンにしても、東映のそれや、アニメ版の歌とかの方がはるかに馴染み深い。
 アメコミの実物を手にしたことがないので、原作本がどんなものか知らないのだ。
 私たちにとっては、周辺の方が馴染み深く、原作はアメリカという国のものなのかもしれない。

 そんなあまり馴染みのないアメコミの歴史ではあるが、なかなかに興味深い。
 政治とマンガの関係はどこも同じようで、戦争時は日本やドイツを悪人にして、反帝国主義を掲げ、その後は共産主義への脅威から敵が替わっていく。
 ここで『暗闇の悪魔』だとか『世紀の謎 空飛ぶ円盤地球を襲撃す』などの映像とともに、50年代SFホラーにも同様の現象があったとする。
 見所はラリー・ブキャナンの目玉にピンポン玉をつけた出目金半魚人がチラッと登場するところだろうか。
 
 しかし、ここで犯罪やホラーを扱ったコミックスへの批判が高まることとなる。日本でもお馴染の「有害コミック」批判である。
 日本でも有害コミックの名の下にバカな声が度々上がるが、事情はこの頃から変わらないらしい。
 エロ本の裁判なので偏りはあるが、松文館裁判を扱った『「わいせつコミック」裁判』を参照。
 
 暴力性とコミックスが与える影響を心理学者フレディリック・ワーサムは、バットマンとロビンはホモだとか、タランティーノが『トップガン』はホモ映画だとネタにしたのと同レベルで批判したりしている。
 
 さて、この世論を巻き込んだ圧力にアサッリと出版社は屈服して、自主規制コードを作り、コミックス・コード局の承認印が販売に必要となる最悪の事態を招いた。
 当然、多様性は失われ、健全なヒーローだけが残ることとなった。
 
 その後、『フラッシュ』『グリーンランタン』の登場でヒーロー復活の兆しが見え始める。
 こうした旧作の復活と新作の創造が同時に行なわれ、転換作品ともいえる『ファンタスティック・フォー』が登場する。
 『超人ハルク』『デアデビル』『キャプテンアメリカ』などのMarvel社の誕生だ。
 洒落た絵に軽妙な会話、そして、今までのヒーローとは決定的に違う異形のヒーローが登場した。
 モンスターの姿をした彼らは、『スパイダーマン』『X-メン』などのように、アイデンティティークライシスや社会との融合に苦悩するヒーローでもある。
 
 新しいヒーロー像は新しい悪役を欲する。
 ヒーロー同様の「能力」を持った魅力ある悪役が、必然的に誕生する。「悪い」けれども憎みきれない魅力あるキャラは、物語を盛り上げるためにも重要である。
 
 この辺りの流れはアメリカン・ニューシネマのように社会を反映した作風になっていったといえるようだ。
 善悪の価値観の揺らぎが物語を深刻にし、アンチヒーローの台頭や世界の状況を反映したより暴力的な描写と、この流れは加速して、現在まで続いている様だ。
 しかし、アメリカンニューシネマの時もそうだったが、シリアス一辺倒にはいくらなんでも飽きる。
 それが現在の状況であるようだ。
 一見、多様性を回復したように見えるアメコミであるが、まだまだ苦悩は続くようだ。
 
 ところで、題名からして、ここで扱っているのは、全てアメコミの中のスーパーヒーローである。
 アメコミと言えば、ヒーローものを思い浮かべるので、違和感はない。
 しかし、実際は他のジャンルの作品もあるのだろう。
 アメコミには疎いので、そういった周辺ジャンルがどのようなものなのか知らない。
 ただ、それがあるとして、それとの関係を含めたアメコミの全体像も描いてもらいたかった。
 
 出版の方法や書き手を変えながら作品が延々と続くとか、日本とは異質のマンガ業界を知る意味でも、異質性を支えるものだけでなく、同質性も描き出して欲しい。
 ただ、こういう視点は日本人だけのものなのだろうなとも思う。
 
 明日は、気になるアメコミのハナシを少し。

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最終更新日  2006年05月26日 01時35分23秒
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