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車筆太

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2007年02月10日
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カテゴリ:書籍
 物凄く久しぶりな気がしますが、本来の読書日記を。
 
 タイトルが『魔術から数学へ』で、解説に村上陽一郎とくれば、なんとなく内容が想像できますが、大体そんな感じです。16世紀から17世紀科学革命にかけての、未だ数学者、科学者、思想家といった区分けがはっきりとしていない時代、人物などについて書かれています。
 科学史の書籍は、村上陽一郎、伊東俊太郎、広重徹だとかボチボチ読んできましたが、数学となると数学史も含めてあまり読んでなかったりします。「君の頭は営業中かね?」の『放浪の天才数学者エルデシュ』以来久々かも。
 
 前書きにもあるように、元々カッパサイエンスから『計算のいらない数学入門』として出版されていたから、数学嫌いにも安心?
 小数の誕生過程、対数を円盤の回転で説明して、log2を手作りしたり、微分による瞬間の速さをどう表現するかといった箇所は、順を追っていけば理解できるようになってます。
 微分って何のこっちゃと思っていたんだが、こう説明されると理解し易い。瞬間速度という概念がなかった時代(変化の法則という言語矛盾、「飛ぶ矢は飛ばず」のエレア派)からそれを否定する形で成立したアリストテレスの自然学、そしてこの議論は17世紀に「瞬間の速さ」が考えられることで解決する。微分の概念。
 
 数学関係の本だから数学の話があるのは当たり前。
 ところで、本書で一番感心したのは、森毅による軽妙洒脱、平易であり、整理の行き届いた文章。 特に人物評などはその人物をイキイキと的確に捉えている。高島俊男の「ネアカ李白とネクラ杜甫」のように、デカルトとパスカルを対比するところなんかは秀逸。
 また、ニュートンのライバルとしてのライプニッツの自然学を説明しつつ、たんにカントに乗り越えられるようなものではないと思うけれど、それを論じるほど学識豊かではないと断った上で、「せめてカントやヘーゲル程度には分かるように解説してほしい。みんな、ライプニッツ哲学って、わかってないのと違うの?」とか言ったりする。
 確かに、内容的にも、値段的にも、お手頃な書籍ってあの頃になかったような。因みに、ヘーゲルは長谷川宏の諸著作で分かったつもりに。
 
 数学師から始まり、最後の錬金術師たちで閉じられる本書の最後を、「創造は誤謬の解放から」と題し、19世紀以降の専門化したは科学者は「真実」を強制されているが、創造のためにはそれなりの虚偽、もっと猥雑で混沌とした喧噪があってもいいのではないかと結んでいる。
 村上も解説で「大胆で新鮮で生き生きとした発想」について、いくつかの具体的な例を挙げつつ説明している。以上のようなことが如何に困難かを含めて、首肯はできる。

 





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最終更新日  2007年02月10日 23時07分39秒
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