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車筆太

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2007年02月14日
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カテゴリ:映画与太話
 1948年、プリンストン大の大学院への推薦状に、カーネギー工科大学の恩師R・J・ダフィンは、一言だけこう書いた。
 
 「彼は天才です」(This man is a genius)
 
 ジョン・ナッシュは、弱冠二十一歳にして戦略的非協力型ゲームにおける「ナッシュ均衡」を述べ、同じ頃、代数幾何学、偏微分方程式などでも業績を上げ、今日の経済、数学、生物学などに与えた影響は、計り知れないものがある。
 しかし、マサチューセッツ工科大学(MIT)の終身職を得、妻アリシアの妊娠と、本来幸せの絶頂で、精神を患う。
 診断は偏執狂型精神分裂症。

 この天才数学者の数奇な人生を描いた映像作品が二つある。
 今回はそのうちの一つ、『ビューティフル・マインド』の感想を。

 事実に基づきながら、娯楽作品としても観ることができ、アカデミー賞の作品賞をとったのもなんとなく肯けるかなと。世評もいいみたいですしね。
 ただ、娯楽作品にしたのが最大の問題でね。
 
 監督のロン・ハワードは『コクーン』『バックドラフト』『アポロ13』などで知られ、近年も『シンデレラマン』『ダ・ヴィンチ・コード』(どちらも未見)なんかで、ハリウッドでは巨匠の類に入るそうだ。
 ハリウッド的ヒロイズムやヒューマニズムに彩られた作風には好悪がはっきりと分かれるところだろう。それでも大作に関わるようになればハリウッド本筋と迎合するのは致し方ないかなとも。確かにオスカー狙いの思惑も見え隠れするけれど。 
 この辺は、何人もの例があるし、バートン・フィンクがプロレス映画の脚本を書かされそうになるようなもんだ。
 
 デビュー作『殺人魚フライングキラー』の話題をインタビューでふってきた記者をブン殴ったジェームズ・キャメロンのように、ロン・ハワードも俳優から監督への転身をきめた『バニシングIN TURBO』で我等がロジャー・コーマンに発掘されている。
 デビュー作を含めて、初期作品は面白いものが多い。
 『ラブ IN ニューヨーク』『スプラッシュ』『ガン・ホー』とか。それと『ザ・ペーパー』『エドtv』も良かった。やっぱりハリウッド志向で感性が鈍ったか。そつなくまとめる手腕は未だ健在だが。
 まぁ、監督の話はほどほどに。
 
 本作、数学者の話なのに数学の話は登場しない。
 『魔術から数学へ』の前書きで森毅は、いくらなんでも『数式のいらない数学入門』は無理だろうといっていたが、娯楽作品ならそれもありだろう。ただし、そのせいで数学者としてのナッシュの功績が欠落していて、予めその人物像を知っていないと偉大さが伝わらない。
 それも含め、娯楽性を高めた脚本は、ナッシュの内面、精神分裂病の発症の経過はいいとしても、特に後半の病との葛藤へ深い切込みを許さない。それを覆い隠すために「夫婦愛」がテーマに設定されているが、これも中途半端だ。ノーベル賞授賞式での演説はとってつけたようだし、妻の夫に対する想いも描き方が甘い。
 さらに細かい設定にもハリウッドらしさがチラついていて、軽いのがなんとも。
 不条理な人間の、それ故の「強さ」こそ描くべきではないのか。

 というあたりで、つづく・・・。

 
 





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最終更新日  2007年02月15日 00時33分46秒
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