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カテゴリ:書籍
前回分。
http://plaza.rakuten.co.jp/kawazu12kerokero/diary/200704190000/ <徹頭徹尾> 章タイトルどおり生涯をかけて何かに固執した奇人が揃っている。 こういう偏屈な人間は嫌いじゃないんで迷いますが、ここでは英国ジョージ2世の武官を務めた父親をもつ、人間嫌いの世捨て人マシュー・ロビンソンを。 港町で海を眺めながら隠遁生活を送るロクビー卿は海が気に入り、日がな一日海水にぷかぷかと浮かんで、無理やり引きあげなければ決して陸に上がろうとはしなかった。 ところが冬の訪れとともに海水が冷たくなり、さすがのロクビー卿も海水に浸ることができなくなった。 そこで考案したのが野外用の風呂。 庭に大きな浴槽を運び出し、そこで寝食をこなす徹底さ。食事は浴槽からアゴだけを突き出し、そこに食べ物を放り込んでもらっていたという。その隠遁ぶりは容姿にも表れていて、伸ばし放題の髭は地面にも届かんばかりだった。 挙句の果てには、ローストビーフが老人と一緒にぷかぷかと浮かんでいたというから脱帽である。 <奇奇怪怪> ここでは奇人というよりは有名な謎の人物B・トレイヴン。 本書にも名を連ねる『マルタの鷹』『許されざる者』『アフリカの女王』などのジョン・ヒューストンが監督、ハンフリー・ボガート主演で映画化された『黄金』の原作者。 その作風の類似から、自身も短編に冴えをみせる芥川龍之介が短編小説の技巧を賞賛し、「ニガヨモギと酸をインク代わりにしている」と評された毒と風刺の効いた筆致のA・ビアスがその正体ではないかとも囁かれた人物。 本書では代理人と称したハル・クローヴスを中心にその謎に触れている。ネタばらしになるようだが、最後に置かれたトレイヴンが経歴の問い合わせに対した返事、 「私の人となりは、すべて私の作品を見れば分かります」 に集約されているようには思える。 <荒唐無稽> 世の中には陳情マニアというのがいて、信じられないような些細なことにあれこれとクレームをつけたがる。高橋秀実は『からくり民主主義』の序章「国民の声-クレームの愉しみ」で、ぼやき系クレームや配慮探しクレーム、そしてクレーム文法の究極形「子供に与える影響」まで、いくつかの馬鹿げた、それでいて当人にとってはいたって真剣で真っ当なクレームを紹介している。 それの意味や位置付けはおいておくとして、これらのクレームの愉しみはは何も今に始まったことではない。1861年、ニューヨークに生まれたハルバード・L・ホードは、大の共産主義、労働組合嫌いで、包茎手術に猛反対、禁酒法に異を唱え、所得税に牙を剥く、熱烈な投書マニアの新聞編集者だった。 また、女性用下着、ことにコルセットにいたく憤慨した。 1920年代初頭、胸を扁平にみせるフラッパーと呼ばれるブラジャーの大流行に際して、 「今、流行しているブラジャーなるものは体を締め付け不快である上に、医学的に見ても乳ガンノもとになる」 と新聞誌上で一喝。 彼は数年間にわたり反ブラジャー・キャンペーンを繰り広げた。 こうした思想はやがて、「脊椎機能促進器」と命名された奇妙な器具の発明に結実した。 身体の老化が早いと考えたホードは、次のような結論に至る。心臓にもっと「養分」を送り込む必要があり、そのためには脊椎に刺激を与えるのが一番と。 かくして、適度の分泌物が滲み出るまで脊椎をマッサージする機械は完成した。効用は、心臓、胃、腸、肝臓の疾患、さらに、腰痛、リューマチ、便秘に効果覿面。 そんな万能医療器具は、ぶら下がり健康器ほどに売れることもなく、現在ではホード博物館に一台を残すのみとなっているという。 本人は1933年の臨終の日までこの器具を手放そうとはしなかったそうだが、その効用の程はどうだったのだろうか。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2007年05月08日 22時59分59秒
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