淡々と
今日いちばんうれしかったこと。静かな心で、淡々と仕事ができたこと。つまらないと思っていたことも、ほんとうはかみさまが用意してくれたものかもしれない。仕事熱心な編集者のとなりで、ぼくにはどうでもいいような民宿の料理を、なるべくていねいに淡々と撮った。つまらない、という思いが、一度も浮かばなかった。ただそれだけが、ほんとうにうれしかった。ぼくの人生は決してつまらないものじゃないのだし。けれど、ぼくは祈った。宿の前に広がる能登の海に向かって、心を込めて祈った。「かみさま。もうつまらない、なんてことは言いません。でも、もっと違ったぼくを過ごそうと思います。どうぞ、今の仕事、これで終わりにしてください」。海はとても穏やかだった。灰色の空が海に映り、水面はわずかに揺れながら豊かなグラデーションを作り出していた。きれいだなぁ。誰も気づかない、海や山のこのさりげない美しさをながめながら残りの人生を呼吸していたいのだと、そんなことをまじめに夢見ていた。 Naganuma,Hokkaido 明日からこの夏山シーズンはじめての白山登拝。頂きの女神が呼んでいる。ぼくがこの星に下りたときの、ふるさとにも似た山だ。そんな夢が広がる霊峰をゆっくりと、一歩一歩と、歩いてこよう。