今年の桜
昨日、街に出た。落語の小さなライブを聞いた後、家路をたどった。土曜日のためか、バスの中はすいていた。左側の席に座って窓の外をぼんやりと眺めていた。城址公園が茜色に染まっていた。「ああ、穏やかな光景だな。いいよな、春真っ盛りだ」お堀端の桜の下で、大勢の人たちが花見をしていた。紫色の煙があちらこちらで昇っていた。「みんな元気で春を迎えられた。良かったね」私は素直に頷いて幸せそのものの風景を見つめていた。帰ってから、急に具合が悪くなった。具合が悪い、そう心配する必要はない。食欲はあるし、熱もないし、抗ガン剤の影響か、ただだるいだけだ。「早めに寝る」風呂にも入らず、酒も呑まずに、七時にベッドに潜り込んだ。深夜に目を覚ました。午前一時だ。おお、雨が降っている。日中あんなに良い天気だったのにな。ベッド傍の小さな窓から外を眺めた。一本の桜の木が雨に濡れていた。夕陽を浴びてきれいに咲いていた花が濡れている。あの桜の木の今年の春は終わったのだろうか。一本の街灯に照らされて、心細げに花を縮めている。「今年も桜の花を見ることができた。 来年の春も桜を見ることができるのだろうか。 うん、来年はもっと元気になって桜の木の下で乾杯だ」そう思うと、雨に濡れている桜が愛おしくなった。とにもかくにも、私の春が過ぎてゆく。私はいつまでも桜の木を見続けていた。人気blogランキングへ←良かったらランクアップのためにクリックして下さいな!