テーマ:詩&物語の或る風景(1049)
カテゴリ:童話や絵本とファンタジー・・
すっかりブログのページを開くこと自体ご無沙汰だったのですが、なんだか突然、こうして再開することができました。
書いていなかった時に心の中に溜まっていたたくさんの思いは星の数ほどあるのですが、今日はせっかくの再開なので、花火師の少年のお話を書いてみようと思います。(今突然の思いつきですが。。) 少年のレイは、花火師の息子でした。 花火師たちの集まる集落の中でもレイの家の花火はいつも格別に大きくて、周囲の花火師たちから賞賛を受けていました。 レイは毎日昼間の間は一生懸命に火薬を作る手伝いをしていました。 いつも火薬で真っ黒になりながらお父さんの仕事を手伝いました。レイにはお母さんがいなかったのですが、お父さんは一度もその話をレイにしたことはありませんでした。 レイのお父さんはとても厳しくて、手伝いをしていても一度もレイを褒めたことはありません。 やり方を教えるでもなく、ただ黙々と火薬と土を練り、たくさんの薬を混ぜ合わせて色を作っていました。レイは背中越しに、そのやり方を見よう見真似で覚えたのです。 お父さんは決してレイに手伝えとは言いませんでしたが、レイが隣に来ると黙って火薬や土を分け与えるのでした。 レイは一生懸命土をこね、そしてそれをお父さんが大きな丸い玉に仕上げていきます。 夏の間は毎日のように花火が上がるのでお父さんや集落の人たちは大忙しです。お陰で、昼間はその集落には土をこねる音だけが聞こえ、人っ子一人歩いていません。そして夕方になると、皆自分の花火玉を持って、それぞれの会場に向かうのです。 レイたち親子は夏の間は太陽を見ることがありません。そんな暇がないのです。それと、太陽を見ると、美しい花火は作れないんだ、とレイのお父さんは言います。俺たちがこうやって昼間の間も暗い中で花火と向き合うから、花火は夜の空に美しい太陽のかけらを振りまいてくれる。昼間の太陽の下でちゃらちゃらしてるやつらには絶対この花火は作れない。それがお父さんの口癖でした。 そんなレイが15歳のときに、お父さんの親友の花火師が花火の作業中に死にました。 それを聞いたお父さんは昼間の家の中で、自分の花火を前に、いつもの大きな背中を丸くして静かに泣いていました。けれど、その日の夜も、何事もなかったようにお父さんはレイをつれて、花火を打ち上げにいきました。 「今日くらい休めばいいのに。」レイがそう言った瞬間でした。 「バカやろう!」すごい声でお父さんの怒る声がレイの頭の上から聞こえました。今まで決して怒鳴りつけることなどなかったお父さんの声にレイはうろたえて見上げました。 お父さんは目に涙を浮かべながら、レイをしっかりと見てこう言いました。 「レイ。いいか、よく聞け。俺にとってはこの花火は生きていることのすべてなんだ。生きる証なんだ。お前のお母さんが亡くなった日の夜も花火を打ち上げたよ。。だってそうだろ。亡くなったお母さんを生き返らせることはできないんだ。死んだお母さんが、俺が肩を落として部屋の隅に小さくなっている姿を喜ぶと思うか?」 「俺には花火を上げることしかできない。その時の思いのすべてを込めて。だから俺はあの日は天国のお母さんに向かって思いっきり大きな花火を上げたのさ。天国で幸せになれ。幸せになれ。そう願いを込めて。きっと母さんだって、あの夜空から花火を見て喜んでくれたさ。俺たちの花火はただの火の玉じゃないんだ。俺のいや、みんなの思いを届けるメッセージなんだ。その生き様なんだ。お前にもきっとわかる時がくる。」 「ごらん。夜空に星がきらめいているだろう。あの空を見上げて人たちはいろんな事を考える。夢を語り、愛を語り、人生の哲学を語る。夜空は暗いからこそたくさんの可能性に満ちているんだ。そんな中に大きな太陽を描くのが俺たちの仕事なんだ。そしてそれが生きるということなんだよ。わかるかい?」 レイはお父さんの潤んだ目を見つめて、小さくうなずきました。そして少しだけ大きくなった気がしました。小さな手にしっかりと花火玉を握り締めてレイは会場へと向かいました。 今日も素敵な思いが夜空に広がりますように。。 (おしまい) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
[童話や絵本とファンタジー・・] カテゴリの最新記事
|
|