カテゴリ:童話や絵本とファンタジー・・
昨日まで続いてきた物語の最終話です。
ここまで読んでいただいてありがとうございました! 「・・それじゃあ、君にとっての幸せな生き方っていうのはなんだい?」キースは訪ねます。。。 「え?それは。。だから。。あちこちの町に行って。。。」 「それは幸せになるための一つの手段だろ?ここにいたって、たくさんの鳥たちには会えるじゃないか。こうして話だって聞く事ができる。遠くの町の話だって聞ける。それに、美しく空を飛べなくても、君には美しい羽やくちばしがあるし、さっき君が湖に向けて流していた涙はこの世のものとは思えないくらい美しかったよ。」 「きっと君はね。今の場所から逃げ出したいだけなんだよ。ここじゃないどこか遠くに行けば幸せっていう宝石が転がっていて、それを拾えば幸せになれると思っているだけなんだよ。」 「僕はね、もうずいぶん長い間旅を続けているから、君のそういう気持ちもわかる。もしそう思うなら、旅に出てみるのもいいと思う。けれど、どんなに長い距離を飛んでも、生まれた場所からどんなに離れても、今までに見たことのない景色の前に立っても、決して幸せは転がってなんかいないんだ。今いる場所に幸せを見つけられない鳥には、決してどこか違う場所での幸せなんてない。どこまでも続く幻を追い続けるだけになるんだ。」 「でも。。」スイートは言いました。 「そんなの空を飛べる翼を持って、美しいあなただから言えるのよ。」キースはにっこりと笑って、ゆっくりとスイートの前で閉じていた翼を広げました。 月明かりにはっきりと照らされて、そこには数え切れないほどの深くて痛々しい傷跡が残っていました。しかもよく見るとキースの足は指が一本なくなっていました。 唖然とするスイートの前でさっと翼を閉じてキースは言いました。「わかるかい。旅を続けるということはそれだけで代償を払うということなんだ。僕らは身体中の痛みを抱えてみんな飛び続けているんだ。でもね、これは僕らの誇りなんだ。きっとみんなそう思ってる。この傷は僕らが今までどんなに深い傷を負ったとしても、決して生きる事を諦めなかった強さの象徴なのさ。」少し寂しそうにキースは言いました。 スイートは呆然としながらキースに訪ねます。 「どうして?どうしてこんなに身体がぼろぼろになっても生きていかなきゃいけないの?どうしてこんな痛い思いをして飛び続けなきゃいけないの?」スイートは、半泣きになりながらキースを見つめます。 「さっきも言ったけれど、この痛みは僕らの生きている証なんだよ。そして、それを乗り越えたから、こうして君にも会えた。こうやって、美しい湖のそばで月の光を浴びて、風の音を聞いて、そして、誰かと心から真剣に話が出来る。それだけで、僕は幸せだと思うな。」 「ねぇスイート。僕はね、幸せっていうのは自分の周りにまるで銀河系の星たちのように限りなく溢れていると思うんだ。けれど、見つめないとそれは見えない。感じようとしないと感じることはできない。真っ暗のままさ。何よりの幸せは、まずは君が生きる事を諦めないことだよ。君はあの銀河系の星の中の一つなんだ。あの星たちがみんな生きる事を諦めたら、この空は暗闇になってしまうだろう?」 スイートはもうただぼんやりとキースの話を聞いていました。自分が銀河系の中の星の一つ。。そう思うと少しだけ自分がいとおしいような気分になってきました。 少し光の宿ってきたスイートを見つめて、キースは微笑みながら続けました。 「スイート。君は本当に素敵だよ。だから、目の前に起こった悪い事ばかりに心を奪われないで欲しい。季節に四季があるように、物事にはたくさんの見方がある。その一面だけを眺めて、それが真実だと思うと、世の中はやがて灰色になるだろう。けれど、春が来て花が咲き、夏に緑が溢れ、秋には山が黄金色に染まり、冬にはすべてが静けさの中で白に埋まるように、すべての物事には様々な変化する真実がある。それを感じ取れたなら、君はもっと強くなれるし、人生はもっと素敵になる。必ず。」 「だから、僕が来年この湖に帰ってくるまでに、この湖のほとりで君が感じ取った様々な出来事を教えておくれ。僕はその代わりに旅の途中での出来事を話すよ。いいね。約束だよ。」 スイートはキースの微笑みにただ頷いて応えるだけだった。けれど、これから何か素敵なことが起こりそうな、そんな予感がしていたのでした。 そして次の日の朝焼けとともにキースたちは次の目的地へと旅立ちました。 スイートはそれを見送りながら、今までに見たことのない美しい朝焼けを見つめ、来年帰ってくるキースへの話の最初のページとして、しっかりと心に焼き付けたのでした。 今日から始まる、まだ見ぬ幸せを探す旅へ出るために。 おしまい。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
Dec 28, 2007 11:59:57 PM
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