カテゴリ:歴史
(152回目というのは単に記事の通し番号です。)
アイヌの言葉に昔から少なからず興味があります。
(アイヌ文様について以前にちょっと書きました) (北海道にも行きました)
北海道の地名のほとんど、東北地方の地名の一部がアイヌ語を元にしていることは知っていましたが、どんな意味なのか知りたいと思いつつきちんと勉強したことがなかったのです。そしたらちょうどいい本があったのでいま読んでいます。
「アイヌ語地名で旅する北海道」
アイヌ語は日本語とは当然発音が異なるため、本州からやってきた日本人が聞き間違えてそのままになっていたり、音に漢字を当てはめたものの漢字の本来の読み方に引きずられて読み方が変わってしまったり、言葉の指す場所が時とともに移動したりと、本来の音と場所を特定するのはなかなかに困難です。 アイヌの生活文化が事実上ほとんど消えてしまった今となっては、新たな手がかりが得られる可能性はほとんどなく、残念ながら今ある文化資産を大切に遺していくしかありません。
山と川 アイヌの人々は川を重視します。川に沿って生活を営み、そこから道が生まれました。川下から川上に遡っていくのがアイヌの人々の発想です。山はその先にある象徴であり、川と同じ名前であることが多いです。聖域である山に登山するようなことをアイヌの人々はしませんでした。ただ峠を越えて山の向こうの世界との行き来は頻繁に行っていました。 生活に関わりのある親しい山には多くの名がつけられましたが、あまりに険しく遠い山にはいちいち名前をつけていないこともあります。有名な大雪山系は威容を誇る20以上の火山からなっていますが、ほとんどの山が日本語名・個人名でアイヌ語起源の名前は4つしかありません(由来も諸説あって不明)。これは日本の登山の歴史に関係があると思われます。
山を表すアイヌ語はいくつもあります。
イワ iwa 比較的低く独立した山で、祭礼などを行う神聖な場所だったようです。 藻岩山(札幌市) mo-iwa(モ-イワ) 「小さい-山」 ポロイワ山(浦河町)、幌岩山(サロマ湖畔(佐呂間町)) poro-iwa(ポロ-イワ) 「大きい-山」
タプコプ tapkop イワと同じような意味ですが、ぽこんと盛り上がった円山です。 達布山(たっぷさん、三笠市) 達古武沼(たっこぶぬま、釧路市)
ここで、ちょっと難しいですがアイヌ語の発音について。tapkopのタプコプのプの音は日本語の「プ」とは異なりはっきり発音されません。閉音節と言うそうです。ローマ字で書くと明らかなのですがpで終わっており、puではありません。正式には小文字で表記するそうですが、htmlでうまく表せなかったのでそのまま書きます。ただ、では英語のcup(カップ)のプは小文字で書くかというと書かないですし、規則が完全には理解できていません。以下の文章でローマ字が子音で終わっているものは閉音節です。ただアイヌ語に精通していない日本人が発音する場合結局のところ日本語で「タプコプ」と発音せざるを得ないですね・・。 そのほかにも、アイヌ語では清音と濁音を区別しません。洞爺湖の洞爺は「とうや」と読んでも「どうや」と読んでも同じです。また、母音のウの発音がオに近く、日本人が聞き間違える原因の1つになりました。全体としてみると日本で奈良時代の頃に使われていた発音が残っていたりして古い日本語と共通点がいくつかあります。
ヌプリ nupuri イワやタプコプと比べて、高く大きく聳える山です。 カムイヌプリ(摩周湖畔(弟子屈町)) kamuy-nupuri(カムイ-ヌプリ) 「神の-山」 余談ですが、摩周湖は透明度の高さで有名です。1931年の調査で測定された41.6mの記録は現在でも世界1位です。ただその後透明度は下がりつづけており、1970年の調査では35.7m、2004年の調査では19.0mだそうです。世界2位はロシアのバイカル湖の40.5mですが、これも測定は1911年でその後調査されていないらしく、いずれの湖も汚染が進んでいると推測されます。それでもとってもきれいで、このままであってほしいです。
アトサヌプリ(川湯温泉(弟子屈町)) atusa-nupuri(アトゥサ-ヌプリ) 「裸の山」 爺爺岳(ちゃちゃだけ、国後島) caca-nupuri(チャチャ-ヌプリ) 「爺さん-山」
シリ sir シリは多義語です。「山」以外にも「大地」、「島」、「容貌」、「あたりの様子」といった意味があります。 敏音知岳(ピンネシリダケ) pin-ne-sir (ピン-ネ-シリ) 「男の-ような-山」 チセネシリ(またはチセヌプリ、ニセコ町) cise-ne-sir(チセ-ネ-シリ) 「家の-ような-山」
キム kim 生活に密着した山を指します。ヌプリのように聳えたりしません。 喜茂別岳(きもべつだけ、喜茂別町) kim-o-pet(キム-オ-ペト) 「山-にある-川」
川の名前がついたもの ペンケヌーシ岳(日高町) ペケレベツ岳(日高町) peker-pet(ペケレ-ペト) 「明るい/清い-川」 石狩岳(いしかりだけ、川上町・上士幌町) iskar(イシカラ) 意味不明 遠音別岳(おんねべつだけ、羅臼町) onne-pet(オンネ-ペト) 「大きな-川」
本には、このほか知床半島や、各地の岬、札幌の話が出ています。もし興味をもたれた方はお読みになってみてください。
アイヌ語の地名の大きな特徴は、その土地の地形や、そこに何があり、何をするところか、といった生活の様子が思い浮かぶような名前がついていて、それがアイヌ語の地名を読むことの面白さの1つかもしれません。
今回は山を中心に書きましたが、また機会があれば他の様々な言葉についても書いてみたいと思います。
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Last updated
2009.04.29 18:04:52
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