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きらめき星の世界

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2009.04.28
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カテゴリ:歴史

 

(152回目というのは単に記事の通し番号です。)

 

 アイヌの言葉に昔から少なからず興味があります。

 

(アイヌ文様について以前にちょっと書きました)
http://plaza.rakuten.co.jp/kirameita/diary/200610080000/

(北海道にも行きました)
http://plaza.rakuten.co.jp/kirameita/diary/200708310000/

 

北海道の地名のほとんど、東北地方の地名の一部がアイヌ語を元にしていることは知っていましたが、どんな意味なのか知りたいと思いつつきちんと勉強したことがなかったのです。そしたらちょうどいい本があったのでいま読んでいます。

 

「アイヌ語地名で旅する北海道」
北道邦彦著 朝日新書

 

img234,,,.JPG

 

 

アイヌ語は日本語とは当然発音が異なるため、本州からやってきた日本人が聞き間違えてそのままになっていたり、音に漢字を当てはめたものの漢字の本来の読み方に引きずられて読み方が変わってしまったり、言葉の指す場所が時とともに移動したりと、本来の音と場所を特定するのはなかなかに困難です。

アイヌの生活文化が事実上ほとんど消えてしまった今となっては、新たな手がかりが得られる可能性はほとんどなく、残念ながら今ある文化資産を大切に遺していくしかありません。

 

山と川

アイヌの人々は川を重視します。川に沿って生活を営み、そこから道が生まれました。川下から川上に遡っていくのがアイヌの人々の発想です。山はその先にある象徴であり、川と同じ名前であることが多いです。聖域である山に登山するようなことをアイヌの人々はしませんでした。ただ峠を越えて山の向こうの世界との行き来は頻繁に行っていました。

生活に関わりのある親しい山には多くの名がつけられましたが、あまりに険しく遠い山にはいちいち名前をつけていないこともあります。有名な大雪山系は威容を誇る20以上の火山からなっていますが、ほとんどの山が日本語名・個人名でアイヌ語起源の名前は4つしかありません(由来も諸説あって不明)。これは日本の登山の歴史に関係があると思われます。

 

山を表すアイヌ語はいくつもあります。

 

イワ iwa

比較的低く独立した山で、祭礼などを行う神聖な場所だったようです。

藻岩山(札幌市) mo-iwa(モ-イワ) 「小さい-山」
札幌市街の南にある小高い山。ロープウェイで登ると札幌を含めた石狩平野を一望できます。この山の北西に小さな円山があり、実はこっちが本当のモイワ。やってきた日本人が間違えたのです。藻岩山の方はインカルシペと言いました。
inkar-us-pe(インカル-ウシ-ペ)「眺める-いつもする-場所」

ポロイワ山(浦河町)、幌岩山(サロマ湖畔(佐呂間町)) poro-iwa(ポロ-イワ) 「大きい-山」
モイワに対して、大きな山をいいます。幌岩山の上からはサロマ湖を見渡すことができます。

 

タプコプ tapkop

イワと同じような意味ですが、ぽこんと盛り上がった円山です。

達布山(たっぷさん、三笠市)
原名の後略形。

達古武沼(たっこぶぬま、釧路市)
釧路川の東にある丘がタプコプと呼ばれていたのが、付近の名になり、沼の名前にもなったのでしょう。釧路湿原国立公園の中にあります。湿原の東側には達古武沼と塘路湖(to-oro 「湖の-所」)、シラルトロ湖(由来不明)があります。

 

 ここで、ちょっと難しいですがアイヌ語の発音について。tapkopのタプコプのプの音は日本語の「プ」とは異なりはっきり発音されません。閉音節と言うそうです。ローマ字で書くと明らかなのですがpで終わっており、puではありません。正式には小文字で表記するそうですが、htmlでうまく表せなかったのでそのまま書きます。ただ、では英語のcup(カップ)のプは小文字で書くかというと書かないですし、規則が完全には理解できていません。以下の文章でローマ字が子音で終わっているものは閉音節です。ただアイヌ語に精通していない日本人が発音する場合結局のところ日本語で「タプコプ」と発音せざるを得ないですね・・。

そのほかにも、アイヌ語では清音と濁音を区別しません。洞爺湖の洞爺は「とうや」と読んでも「どうや」と読んでも同じです。また、母音のウの発音がオに近く、日本人が聞き間違える原因の1つになりました。全体としてみると日本で奈良時代の頃に使われていた発音が残っていたりして古い日本語と共通点がいくつかあります。

 

 

ヌプリ nupuri

イワやタプコプと比べて、高く大きく聳える山です。

カムイヌプリ(摩周湖畔(弟子屈町)) kamuy-nupuri(カムイ-ヌプリ) 「神の-山」
名前が示すとおり、摩周湖と一体となったその姿は神秘そのものです。マシュウ(摩周)の由来は確定していないようですが、ma-shu 「泳ぐ-鍋」(川口がなく丸い鍋のようで、岸辺の山が夕日を受けて湖面に影を落とすと人が泳いでいるように見えるから)という話が本には載っていました。また、本にはありませんがネットで見てみるとキンタン-カムイ-トー(山の神の湖)という言葉で呼ばれていたと出ています。

余談ですが、摩周湖は透明度の高さで有名です。1931年の調査で測定された41.6mの記録は現在でも世界1位です。ただその後透明度は下がりつづけており、1970年の調査では35.7m、2004年の調査では19.0mだそうです。世界2位はロシアのバイカル湖の40.5mですが、これも測定は1911年でその後調査されていないらしく、いずれの湖も汚染が進んでいると推測されます。それでもとってもきれいで、このままであってほしいです。

 

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アトサヌプリ(川湯温泉(弟子屈町)) atusa-nupuri(アトゥサ-ヌプリ) 「裸の山」
硫黄が産出し、そのため樹木が育たずこのように呼ばれます。

爺爺岳(ちゃちゃだけ、国後島) caca-nupuri(チャチャ-ヌプリ) 「爺さん-山」
国後島の北東端に聳える1822mの山で、根室から知床までどこからでも見えます(私も見ました)。 ちょうど頭のてっぺんが禿げた爺さんに見立てられるのでこう呼んだのでしょう。チャチャは親愛をこめた「爺さん」の意味です。

 

シリ sir

シリは多義語です。「山」以外にも「大地」、「島」、「容貌」、「あたりの様子」といった意味があります。

敏音知岳(ピンネシリダケ) pin-ne-sir (ピン-ネ-シリ) 「男の-ような-山」
松音知岳(マツネシリダケ) mat-ne-sir (マト-ネ-シリ) 「女の-ような-山」
(ともに枝幸郡中頓別町)
日本でいうところの雄山、雌山です。シリには知や尻の字が当てられたりしています。

チセネシリ(またはチセヌプリ、ニセコ町) cise-ne-sir(チセ-ネ-シリ) 「家の-ような-山」
チセはアイヌ語で「家」です。家の形に似ていることによります。ただし、この場合の家は今のアイヌの家ではなく、古い時代の竪穴形式のものをさします。

 

キム kim

生活に密着した山を指します。ヌプリのように聳えたりしません。

喜茂別岳(きもべつだけ、喜茂別町) kim-o-pet(キム-オ-ペト) 「山-にある-川」
喜茂別川の源流として、川と同じ名前がつけられています。

 

川の名前がついたもの

ペンケヌーシ岳(日高町)
pen-ke-nu-us-i (ペンケ-ヌ-ウシ-イ) 「上の-豊漁-がある-所(川)」
pan-ke-nu-us-i (パンケ-ヌ-ウシ-イ) 「下の-豊漁-がある-所(川)」
パンケヌーシ川の上手にペンケヌーシ川があり、その源がペンケヌーシ岳です。パンケ、ペンケという言葉は他にも使われています。阿寒湖のそばにパンケトー・ペンケトーという湖があります。
panke-to 「川下の-湖」
penke-to 「川上の-湖」
アイヌの人々はどの湖も単にto(トー)とよぶことが多いです。

ペケレベツ岳(日高町) peker-pet(ペケレ-ペト) 「明るい/清い-川」
ペケレベツ川の源流があります。この川が流れる「清水町」の由来でもあります。

石狩岳(いしかりだけ、川上町・上士幌町) iskar(イシカラ) 意味不明
石狩川の源流シノマンイシカリの先にあります。
sino-oman-iskar (シノ-オマン-イシカラ) 「本流の-山の方に行く-石狩川」
イシカラ(石狩川)の原義はアイヌがいた時代に既にわからなくなっており、不明です。

遠音別岳(おんねべつだけ、羅臼町) onne-pet(オンネ-ペト) 「大きな-川」
オンネベツ川の源流があります。遠音別岳には全国に5箇所しかない「原生自然環境保全地域」に指定されていて、シラネアオイやシレトコスミレの群生が見られます。

 

本には、このほか知床半島や、各地の岬、札幌の話が出ています。もし興味をもたれた方はお読みになってみてください。

 

 アイヌ語の地名の大きな特徴は、その土地の地形や、そこに何があり、何をするところか、といった生活の様子が思い浮かぶような名前がついていて、それがアイヌ語の地名を読むことの面白さの1つかもしれません。

 

今回は山を中心に書きましたが、また機会があれば他の様々な言葉についても書いてみたいと思います。

 

 






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Last updated  2009.04.29 18:04:52
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