ダイオウイカvs.マッコウクジラ-図説・深海の怪物たち(感想)
19世紀の船乗りたちが恐怖したシ-サ-ペントやダイダロスモンスタ-、1977年に日本の漁船が引き上げたニュ-ネッシ-は、オオウミヘビや首長竜と言われました。 ”ダイオウイカvs.マッコウクジラ-図説・深海の怪物たち”(2021年4月 筑摩書房刊 北村 雄一著)を読みました。 まったく光が届かない深海に蠢いている想像を超える生物たちについて、その異様な姿と習性を迫力の描きおろしイラストで紹介しています。 200フィ-ト(60メ-トル)はありそうな巨大な体を持つヘがいる、と言われたようです。 太さは20フィ-ト(6メ-トル)を超え、ベルゲの海岸付近の岩礁や洞窟にすんでいます。 首からキュ-ビット(50センチ弱)ほどの長さの毛を垂らし、ウロコは鋭く、色は黒い。その眼は燃えるような光を放ちます。 このヘビは船乗りたちを恐れさせ、柱のように高く頭を持ち上げて人間をつかまえ、食べてしまいます。 奇妙な姿をした深海生物、奇怪なれど美しいその姿は、分厚い水に閉ざされて手が届きませんでした。 しかし2000年代以後、機械の発達で深海生物の写真撮影が可能となりました。 美しい深海生物の写真で本をつくることには需要があって、つくれば売れました。 売れるとわかれば皆が同じものをつくって売りますし、実際、類書が多く出ました。 たくさんつくれば値崩れが起こり、利潤を生み出せない投資は、今や重しとなって景気を低迷させます。 珍奇とパクリと投資と景気と不景気の循環。これが深海生物本にも起こりました。 しかも、数少なかった画像はすぐに使い尽くされてネタがなくなり、深海バブルは終わりをつげました。 とはいえ、画像にこだわるから尽きるだけで、ネタ自体はいくらでもあります。 たとえば深海生物の眼、これだけで本が一冊以上書けますし、チョウチンアンコウだけで一冊本を書くこともでき、あるいは伝説のオオウミヘビで本を書くこともできました。 今回、著者が書いたこの本は、オオウミヘビをテ-マにしているといいます。 北村雄一さんは1969年長野県生まれ、日本大学農獣医学部を卒業しました。 サイエンスライタ-兼イラストレ-タ-として、生物進化から天体まで幅広い分野で活躍しています。 主なテ-マは、系統学、進化、深海、恐竜、極限環境などで、2009年に科学ジャ-ナリスト賞大賞を受賞しています。 深海はその過酷な環境と広大な範囲のため、浅海と比べて観察・研究が困難であり、生物が存在するかどうかは長く不明でした。 イギリスの博物学者であるエドワ-ド・フォ-ブスは、1839年に行った調査船による観測結果を元に、深海無生物説を提唱しました。 しかし、その後の底引き網や海底ケ-ブルを用いた各国の調査により、深海から相次いで生物が採取され、この説はすぐに否定されました。 深海生物の存在を決定的に証明したのは、1872年から1876年にかけて行われた英国海軍のチャレンジャ-号による大規模な世界一周探検航海でした。 この航海がもたらした膨大な海洋学的研究成果をきっかけとして、各国の海洋調査は本格化し、深海魚研究の歴史も幕を開けました。 生身の人間が直接大深度に潜行することはできないため、深海探査には常に困難がつきまといます。 漁網中に混獲されたり、海岸に打ち上げられたりした深海魚も時として貴重な標本となりましたが、実際に生きている姿を伝える情報は損なわれていることが多かったです。 19世紀後半以降、ワイヤ-ロ-プや底引き網の改良により大深度 からの標本採取が可能になったものの、深海魚を直接観察することは依然容易ではありませんでした。 兵器としての潜水艦は第一次世界大戦時にはすでに実用化されていた一方で、学術目的での潜水機器開発は遅れていました。 1928年に有人の潜水球バチスフェアが開発され、ようやく深海魚の観察が可能になりました。 バチスフェアは無動力ではありましたが、深度923メ-トルまでの潜水に成功しました。 そして1948年に、オ-ギュスト・ピカ-ルにより自前の動力を有した深海探査艇、バチスカ-フが建造されました。 バチスカ-フは複数の後継機が作られ、深海魚の生態観察や大深度での標本採集に強力な手段を提供しました。 20世紀後半から現代にかけて、日本のしんかい6500、ロシアのミ-ル、フランスのノティ-ルおよびアメリカのアルビン号などにより、深海魚の生活様式・環境への適応についての情報が蓄積されつつあります。 海洋は大陸棚の縁を境として、陸に近い沿岸域と、陸から遠く離れた外洋に水平区分されます。 深海には光合成を行う植物のような基礎生産者が存在せず、深海生物のエネルギ-源となる有機物は主に浅海と陸地から供給されます。 このため、一般的に深海魚やほかの深海生物は陸に近い海域ほど多く、外洋に出るほど少なくなります。 また、熱帯域の外洋では対流が起きないため表層の生物が少なく、利用可能な堆積物に乏しい荒涼とした海底が広がることもあります。 底地形の特徴はそれぞれの地域によって異なり、底生性深海魚の分布に大きな影響を与えます。 一方で、深海中層の環境は比較的安定し均質であるため、遊泳性深海魚は広範囲な分布域を持つ種類が多いです。 太平洋、インド洋、大西洋すべてに分布する深海魚も少なくなく、汎存種とか汎世界種と呼ばれます。 遊泳性深海魚の生物群系は主に気候や大陸・島嶼地形の影響を受けながらおよそ20に分類され、これはほかの生物群と比較して著しく少ない区分数です。 海を深さによって鉛直方向に区分した場合、表層、中深層、漸深層、深海層、超深海層に分けられます。 この区分は漂泳区分帯と呼ばれることもあり、一般に中深層以深に主たる生息水深を持つ魚類が深海魚として扱われます。 中深層は水深200~1,000メ-トルで、光合成を行うには不充分ながらも、わずかに日光が届きます。 水温が急激に変化する層のほとんどがこの領域に存在し、その下には物理的に安定で変化の少ない深海独特の環境が広がっています。 中深層の遊泳性深海魚はこれまでに約750種類が知られています。 漸深層は水深1,000~3,000メ-トルで、光の届かない暗黒の世界です。 水温は2~5℃で安定している一方、生物が利用できる有機物の量は表層の5%にも満たず、深度とともに急速に減少していきます。 漸深層の遊泳性深海魚には、少なくとも200種が含まれます。 深海層は水深3,000~6,000メ-トルで、水温は1~2℃程度にまで下がり、ほとんど変化しなくなります。 300気圧を超える水圧は、生物の細胞活動に影響を与え、遊泳性深海魚はほとんど姿を消し、アシロ科・クサウオ科・ソコダラ科の底生魚が見られるのみです。 超深海層は6,000メ-トル以深で、海溝の深部に限られ、全海底面積の2%に満たないです。 水圧が600気圧を超えるこの海域に暮らす深海魚は、深海層と同様にソコダラ科、クサウオ科およびアシロ科に属するごく一部の底生魚しか知られていません。 100年以上前の19世紀、海で奇妙な怪物を目撃した報告が相次ぎました。 それは人間が知る既知の海洋生物ではありません。 見た目はヘビのようですが、しかしはるかに大きいのでオオウミヘビと呼ばれました。 オオウミヘビのことを英語ではシーサ-ペントとか、あるいはグレ-トシ-サ-ペントといいます。 サ-ペントは英語ではなく、ラテン語のセルベンスが由来で、セルペンスの意味はヘビです。 ですからシ-ザ-ペントをそのまま訳せばウミヘビになるのですが、単語としてはちょっと違います。 英語では喬虫類のウミヘビのことをシ-スネ-クと呼びます。 シ-ザ-ベンドを日本人はオオウミヘビと訳してしまいましたので、爬虫類のウミヘビと区別がつきにくくなりました。 しかし、元はスネ-クではなくてサ-ペントで、ヘビではない得体の知れない怪物という意味合いがありました。 そして、目撃談を丁寧に読むと、それらはダイオウイカとかリュウグウノツカイとか、深海大型生物の誤認であることが分かりました。 オオウミヘビ伝説は消えましたが、1980年代はまだその名残がありました。 当時の子供向け怪奇本に必ず登場した怪獣御三家は、ネッシ-、雪男、そしてオオウミヘビです。 このうち実在が確かなのはオオウミヘビだけであり、生物学の範躊、それも深海生物の範躊に入ります。 しかし、オオウミヘビのネタだけで一冊書くと、それはもう深海本ではなくなってしまいます。 ですからオオウミヘビの後は、チョウチンアンコウ、デメニギス、ダイオウグソクムシなどを語ります。 そして後半3分の1は、生きた化石である深海生物を取り上げます。 オウムガイ、コウモリダコ、シ-フカンス、これで一般の人たちが知る深海生物はほぼ網羅し尽くせます。 最後のシ-ラカンスでは、変化するものが生き残るという、ダ-ウィンの名言も解説するといいます。まえがき 第一章怪物と呼ばれた深海生物/1ダイオウイカ-”巨大海ヘビ”はマッコウクジラのディナ-/2ラブカ-ヘビの顔をした深海ザメ/3ミックリザメ-古代の巨大肉食魚の正統な後継者/4ウバザメ、メガマウス、ニュ-ネッシ--人は見たいものしか見えない/5リュウグウノツカイ-古代から想像力を刺激する容姿/6レプトケファルス幼生-巨大ウナギ伝説の起源 第二章想像を絶する深海の生態/7フビワアンコウ-極端に小さいオスの役割/8デメニギス-透明な頭と巨大目玉の超能力/9ダイオウグソクムシ-無個性という特殊能力 第三章生きた化石は深海にいる/10オウムガイ-貝がイカに進化する過程/11コウモリダコ-独自のニッチで1億6600万年/12シ-フカンス-ダ-ウィン進化論の神髄[http://lifestyle.blogmura.com/comfortlife/ranking.html" target="_blank にほんブログ村 心地よい暮らし]【中古】新書 ≪政治・経済・社会≫ ダイオウイカvs.マッコウクジラ 図説・深海の怪物たち 【中古】afbダイオウイカはかく語りき【電子書籍】[ 城崎零 ]