深海--極限の世界 生命と地球の謎に迫る(感想)
深海は高圧の世界で、水圧は10mもぐるごとに1気圧ずつ増えていき、水深1,000mで約101気圧、水深6,500mでは約651気圧です。 また、深海は低温の世界でとても寒く、深海の水温は水深約1,000mで2~4℃となり、それより深い海でもほぼ一定です。 ”深海--極限の世界 生命と地球の謎に迫る”(2019年5月 講談社刊 藤倉克則、木村純一編著、海洋研究開発機構協力)を読みました。 人類にとって欠くことのできない海の中で海洋のほとんどを占める高圧、低温、暗黒という過酷な環境にある深海の生態系や、地球のダイナミズムを紹介しています。 深海は太陽の光が届かない暗黒の世界で、太陽の光は水深200m程度で海面の0.1%になり、水深1,000m前後では100兆分の1程度のわずかな光になり、その先は完全な暗黒の世界です。 深海の調査には、TVカメラや手の役割をするマニピュレータを搭載した無人探査機などの水中ロボットが用い られるのが一般的です。 人間が直接観察することの重要性から、有人の潜水調査船が世界各地で活躍しています。 海洋研究開発機構(JAMSTEC)には、世界トップクラスの潜航能力、最大潜航深度6,500mをもつ「しんかい6500」があり、日本近海だけではなく、インド洋、南大西洋、カリブ海、など世界中の海で調査を行っています。 日本の所有する有人深海探査船は「しんかい2000」と「しんかい6500」ですが、「しんかい2000」は 2003年に引退し、現在は「しんかい6500」だけが稼動しています。 「しんかい6500」には3名搭乗できますがうち2名はパイロットで、オブザーバーと呼ばれる深海調査を行う学者は1名だけ搭乗できます。 およそ秒速0.7mで潜水し、水深6,500mまで2時間ほどで到達します。 一度の潜航時間は9時間程度です。 JAMSTECは海洋に関する基盤的研究開発、海洋に関する学術研究に関する協力等の業務を総合的に行い、海洋科学技術の水準の向上、学術研究の発展を目指す国立開発研究法人です。 2013年、2017年に国立科学博物館において、特別展「深海」を国立科学博物館、NHKなどと共に主催し、大盛況となりました。 2013年は世紀のスクープ映像と言われた生きたダイオウイカの映像とともに、全長約5mのダイオウイカの標本展示が話題を呼びました。 2017年は「生物発光」や「巨大生物」、「超深海」などに焦点をあて、最新映像や実物が紹介され、それぞれ60万人を超える入場者を記録しました。 藤倉克則さんは海洋研究開発機構上席技術研究員で、栃木県足利市生まれ、1995年に東京水産大学、現 東京海洋大学修士課程を修了しました。 博士(水産学)で、専門は深海生物生態学です。 海洋科学技術センター、現 海洋研究開発機構に入所以来、有人潜水調査船「しんかい2000」や「しんかい6500」、無人探査機などを駆使して、上席研究員として深海生物研究に取り組んでいます。 海洋の生物多様性や海洋プラスチックにも研究対象を広げています。 木村純一さんは海洋研究開発機構上席技術研究員で、長野県上伊那郡箕輪町生まれ、1988年に大阪市立大学理学研究科博士課程を修了しました。 インドネシア共和国地質研究開発センター、福島大学、島根大学教授を歴任後、海洋研究開発機構に入所しました。 理学博士で、専門は火山学、岩石学、地球化学です。 本書は上記2氏のほか、海洋研究開発機構所属の吉田尊雄さん、渋谷岳造さん、諸野祐樹さん、富士原敏也さん、江口暢久さん、木元克典さん、野崎達生さん、山北剛久さんと、早大理工学学術院講師の高谷雄太郎さんが執筆しています。 深海とは水深200mより深い海の部分を指します。 深海は深度によって次のように区分され、この区分は漂泳区分帯と呼ばれます。 区分者により数値が異なることがあります。 また、深海層を含めない場合もあります。 中深層は200 -1,000m、漸深層は1,000-3,000m、上部漸深層は1,000-1,500m、下部漸深層は1,500-3,000m、深海層は3,000-6,000m、超深海層は6,000m以深です。 水深4,000-6,000mには地球の表面積のほぼ半分を占める広大な深海底が存在し、ここまでを深海帯としています。 これより深い超深海帯は海溝の深部のみが該当し、海全体に占める割合は2%に満たないです。 世界最深地点は、西太平洋に位置するマリアナ海溝のチャレンジャー海淵で、海面下10,920±10mです。 水深200mというのは特に生物に基づいての判断であり、この深さまでは太陽光によってプランクトンが光合成可能であることをその大きな理由としています。 この深さでは可視光線はほぼ遮断され、暗黒の世界となります。 ただし厳密な測定ではより深くまで通る光はあり、その深さは1,000mに達します。 そのため200-1,000mを弱光層、それ以深を無光層と呼ぶ例もあります。 高水圧・低水温・暗黒・低酸素状態などの過酷な環境条件に適応するため、生物は独自の進化を遂げており、表層の生物からは想像できないほど特異な形態・生態を持つものも存在します。 また、性質の相異から表層と深海の海水は混合せず、ほぼ独立した海水循環システムが存在します。 海面面積は地球の表面積の7割を占めており、地球の海の平均水深は 3,729mで、深海は海面面積の約80%を占めます。 21世紀の現在でも大水圧に阻まれて深海探査は容易でなく、大深度潜水が可能な有人や無人の潜水艇や探査船を保有する国は数少なく、深海のほとんどは未踏の領域です。 新たな水産資源や鉱物資源を深海に求める機運もあり、1970年ごろから各国が深海探査に乗り出すようになりました。 これまでに新種の生物やメタンハイドレート、マンガン団塊、コバルトクラスト、熱水鉱床などが次々と見つかっていますが、まだまだ深海は未知の世界といえます。 また、世界中で問題になっている海洋汚染が、1万m超の深海にまで拡大していることが分かりました。 アメリカ人の海底探検家のヴィクター・ヴェスコヴォさんが、太平洋のマリアナ海溝で1日水深1万1000m近くまでの潜水に世界で初めて成功しました。 深海の水圧に耐えられるよう設計された潜水艇を使い、4時間かけてマリアナ海溝の底を探査したところ、海洋生物のほかにビニール袋やお菓子の包み紙を発見したといいます。 深海は最後のフロンティアともよばれ、世界最深の水深約1,9000mまで到達した人類は、これまでに3人しかいませんし、人類がこれまで直接目にした深海は、海底や水中を含めても、全体の1%にも満たないかもしれません。 しかし、わずかな場所しか調査していないにもかかわらず、私たちの深海の知識は着実に増加し、その重要性がますます明らかになってきました。 深海をもっと調べることで、これまでわからなかった、そして気づかなかった自然の姿やしくみを見いだせるでしょう。 深海の調査研究は、日本のみならず世界が一丸となって、これからも進められるはずです。 深海は最後のフロンティアではなく、最前線の知見を得るフロンティアに進化しています。 第1章では、光も届かずエネルギー源も少ない深海の生物について、「しんかい6500」がたどった水深6300mでの調査の様子をまじえて紹介しています。 深海の生物だけでなく、さらに厳しい環境の海底下2.5キロの生物研究までにも迫っています。 第2章では、巨大地震の発生メカニズムに迫る深海研究を紹介しています。 調査船で水深7000mの海底から海底下1000mを掘削し、地震を起こした断層からサンプルを得た様子を交え、巨大地震で何が起きたのかなどについて解説しています。 第3章では、水産資源、鉱物資源と温暖化などを軸に、人類が深海からどのような影響を受け、また今後受けつつあるのかを解説しています。序章 深海の入り口第1章 深海と生命/潜水調査船で深海生態系を観る/化学合成生態系とは/共生がもたらす進化いろいろ!/生命の起源と地球外生命/海底下生命圏第2章 深海と地震/プレートテクトニクスは深海から/巨大地震は深海で起こる/東北地方太平洋沖地震はこうして起きた/地震・津波発生のメカニズムに地震断層を掘り抜いてせまる/南海トラフはどうなる第3章 人類と深海/海洋酸性化と深層循環/鉱物・エネルギー資源/地球の危機と生物多様性とのかかわり/地震・津波が深海に運んだもの/海のプラスチック問題