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カテゴリ:歴史その他

 タイトルをつけてから、もしやと思って調べてみたら、すでに季語として使用されているようだった。いささか残念ではあるが、もともと俳句などには無縁の人間であるからしかたがない。俳句で使うにはやや音数が多すぎるとは思ったが、次のような句が見つかった。
 

  セイタカアワダチソウ 秋草に入るや否や

                            小澤實



 この句の作者の小澤實という方は、「澤」 という句誌を主宰していて、『瞬間』 という句集で、2006年に第57回読売文学賞の詩歌俳句賞を受賞しているそうだ。

 セイタカアワダチソウは、北アメリカ原産の外来植物である。日本に入ってきたのは第二次大戦前だそうだが、全国各地に急速に広がったのは戦後のことだ。とにかく、人の背丈をはるかに越す巨大さと、放置された空き地や荒地にあっというまに広がる繁殖力の強さのために、かつては非常に嫌われたものだ。とくに閉山によって廃墟となった炭鉱跡地などにぼうぼうと咲いたことが、なんとなくこの花のイメージを悪くしていたのかもしれない。

 茎の先に小さな花を大量につけるせいだろうか、気管支喘息を引き起こすという疑いがかけられたこともあったが、現在ではこの疑いははれている。もともと日本に移入されたのは、養蜂家による蜜の採取が目的だったそうで、ハチやチョウによって受粉が行われる虫媒花であるから、風で花粉が飛ぶということはないということだ。

 冬になると花も葉も枝もかれ、ぴんと伸びた太い茎だけが残る。子供のころには、その残った茎を引っこ抜いて、槍投げの真似事だとかちゃんばらのようなことをして遊んだような記憶がある。

 最近になって気づいたのだが、かつては本当にびっくりするほど巨大だったこの花の体躯も、この頃はなにやらこじんまりとしてきたようだ。また、この花の旺盛な繁殖力のために、ススキなどの在来種が完全に駆逐されてしまうのではという危惧も、幸いにして杞憂に終わったようだ。

 なんでも、この花は根や地下茎から成長抑制物質を出しているそうで、そのため、いっときは他の植物の侵入と成長を抑えて、一気に繁殖するらしい。しかし、自分が出したこの物質のため、やがて自らの成長と繁殖も抑えられることになる。その結果、長期的には、植生の交代が自然に起こるということなのらしい。

 ススキなどの在来植物が、セイタカアワダチソウという外来種のために絶滅に追いやられるという悲劇が現実とはならなかったのには、そういう理由があったということのようだ。素人考えではあるが、結局、日本の気候風土に合わないものは、いくら繁殖力が高くても生存し得ないのだし、根付いたものはそれなりにこの国の自然にあわせて、いくらか姿かたちを変えていくのではないのだろうか。

 むろん、外来種による在来種の駆逐が、どんな場合にも起こらないとは言えない。とりわけ小さな島などのように既存の生態系が非常に不安定で、しかも貴重な種が残っているような場合には、外来種の侵入を厳しく制限する必要があることは言うまでもない。

 古事記には、豊葦原瑞穂の国という古い言葉がある。しかし、よく考えてみれば、日本の文化や歴史の象徴のように言われているこのイネも、もともとは大陸から持ち込まれた外来種なのである。

 彼岸花もイチョウも中国から持ち込まれたものだし、とくに農業で栽培されている植物などは、ほとんどが外来種である。お茶は鎌倉時代に栄西が中国から持ち帰ったものであるし、サツマイモは江戸時代に青木昆陽によって全国に広められたものだ。南米原産のトマトやジャガイモについては、言うを待たない。

 ユーラシア大陸のどんづまりにある日本の歴史が、長い時間の中で、中国や朝鮮、インド、さらには欧米の様々な文化を次々と摂取することで成り立ってきたように、この国の風土や景色も、様々な外来植物によって彩られている。いや、そもそも、われわれ現代日本人の多くが、もとをたどれば大陸から渡ってきた外来種の子孫ではないのだろうか。

 さすがに、この国の沼や池にワニなどが生息しているところはあまり想像したくない。しかし、とりあえずは、今やこの国の風土にすっかり定着した感のある、セイタカアワダチソウの長年の苦労に思いをはせて、この稿を閉じることとしよう。


追記: へぼ句を少々

  セイタカといえど こぶりのアワダチソウ

  陽を浴びて 金に輝くアワダチソウ

  先端の 細くなりゆくアワダチソウ 






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Last updated  2007.11.17 16:41:52
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