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遠方からの手紙

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カテゴリ:歴史その他

 久しぶりに仕事がすべて片付いたので、今日は運動をかねて、午後から暑い中を自転車で外へ出た。わが家には車もバイクもないので、外出するときは徒歩か自転車か、でなければ公共の交通機関を使う。

 とりあえず、歩いて10分ぐらいの範囲にスーパーも食堂も書店もあるので、日常の用はそれですべて足りる。ようするに、半径1kmか2kmという、ごく狭い圏内で一年のほとんどを生活しているのだ。

 家を出たときから、空には映画 「ゴーストバスターズ」 に登場した、巨大なマシュマロマンのような雲が聳え立っていたので、ちょっとやばいかなと思っていたら、案の定、帰宅途中のあと2-300mというところで、いきなり猛烈な驟雨に見舞われた。

 自宅に辿り着いてテレビをつけると、神戸の都賀川での水難事故に、富山や石川、京都の水害、さらには琵琶湖であった 「鳥人間コンテスト」 や福井のイベント会場の風による事故など、さまざまな事故の報道があいついだ。

 神戸はもともと平野がなく、市街のすぐ背後に高さ1,000 m近い六甲山地が迫っていて、そこから流れる川はどれも長さが数キロしかない。上流で大量に雨が降ると、川の水量は一気にまし、そのまま海まで猛スピードで流れ下る。地元の人らは、その危険性について普段から認識してはいたのだろうが、なんとも痛ましい事故だ。

 先日、近くのスーパーの前で古書が並んでいたので覘いてみたら、集英社発行の古い 「昭和戦争文学全集」 というのが何冊か出ていた。その中から 「海ゆかば」 と題された5巻を購入した。奥付を見ると昭和39年の刊行となっており、全集の編集委員は、阿川弘之、大岡昇平、奥野健男、橋川文三、村上兵衛が務めている。

 5巻に収録されているのは、ソロモン海戦を描いた丹羽文雄の 「海戦」 や中山義秀の 「テニヤンの末日」、撃墜王と呼ばれた坂井三郎の 「ガダルカナル空戦記録」、吉田嘉七の 「ガダルカナル戦詩集」、吉川英治の 「南方紀行」、サイパン玉砕の生存者である菅野静子という人の「サイパン島の最期」などで、全体の解説は鶴見俊輔が書いている。

 この巻の題名の 「海ゆかば」 とは、言うまでもなく戦争中に、戦地での 「玉砕」 を伝えるときに流されたという、有名な曲の題名から採られており、詞は、もともと万葉集巻十八に収められた、「葦原の 瑞穂の国を あまくだり しらしめしける すめろきの」 で始まる、大伴家持の長歌の一節を典拠としている。

 海行かば 水漬く屍
 山行かば 草生す屍
 大君の 辺にこそ死なめ
 かへり見は せじ

 曲のほうは信時潔という人が作ったそうで、ゆっくりと抑え目に演奏すれば、重々しく荘重な鎮魂曲であり、その芸術性はけっして低くはない。のちにGHQの総司令官として日本に着任したマッカーサーは、フィリピン時代にこの歌を聞き、その意味を知って、日本兵の精神と心理について理解したという話もある。

 いじましいほどに思いつめやすく、いったんこうと思いつめると、単にその結果についての合理的な計算を忘れるだけでなく、むしろそのような計算をすること自体を 「卑怯」 だとして排斥し、そのような非合理的な行動を 「覚悟」 として賞賛するような心性。

 それは、たとえば忍耐に忍耐を重ねた最後の最後に、たった一人白刃を抜いて敵地へ乗り込んでいく、高倉健演じる仁侠映画の世界とも通じる、心情の純粋主義とでも呼ぶべきものであり、映画の中などでの美学としてならともかく、現実においては単純に賞賛されるべきものではない。

 振り返ってみると、今月は仕事が忙しかったせいもあって、あまりブログの更新ができなかった。冒頭に書いたように、そもそも日常がなんの変哲もない暮らしの繰り返しであるから、あまり題材にするようなことがない。それに、採り上げたくなるような大事故や大事件などの類は、そもそもあまり起きないほうがよい。

 書くことがなければ、なにも無理に題材を探してまで書くことはない。ネタ切れになれば、いろいろと充電することも必要である。常連のお客さんがつくのはありがたいが、かといって、「あなたのファンになりました」 というようなお客さんの期待に応えるために、無理に自己コピーを重ねたような記事を書いていてもしょうがない。それに、そのようなコピーを重ねていけば、いずれ自家中毒による劣化は避けられないものである。






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Last updated  2008.07.29 02:38:05
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