カテゴリ:理科
拙文は日本化学会 化学教育討論会で私が発表したものを一部抜粋しました。
1.はじめに 「初等中等教育における教育課程の基準等の在り方について」の諮問(平成二十六年 中教審答申)や「新しい時代にふさわしい高大接続の実現に向けた高等学校教育、大学教育、大学入学者選抜の一体的改革について」1)など新しい時代の新しい学力2)について変革を促す動きがある。 ことに児童・生徒が主体性と協働性をもって学ぶ「能動的学修」(アクティブラーニング)が小・中・高・大全ての校種で推奨されている。アクティブラーニングを実施することで思考力・判断力・表現力を向上させることができると期待される。アクティブラーニングの一形態として反転学習(flipped-learning)を活用した実践を述べる。
2.最近の反転学習に関する動き 反転学習はもともとジョナサン・バーグマンらが生徒の遠征試合などで多発する補講の数に根を上げ、もともとの授業を録画して見せたことが始まり3)である。ジョナサン・バーグマンは化学の教師であったことから、反転学習と自然科学の授業は親和性が高いものと思われる。 またアメリカのサルマン・カーンは親戚の遠隔家庭教師をきっかけにYouTubeを活用した反転学習を広め、すでに日本にも導入されている4)。カーン氏の実践も成書5)にまとめられている。 これらをもとに日本でも高大連携授業の一環として帝京大学がAO入試合格者に向けて行った入学前学習などが文部科学省の中央教育審議会でも2013年に取り上げられた6)。アクティブラーニングの一形態として大学を中心に積極的に取り入れられている。 高校では(株)すららネット7)によってアクティブラーニングと反転学習の教材が提供されており、導入した高校では進学実績が向上している。本校でも進路課主導で「スタディサプリ」8)を導入し、反転学習に対する素地は既にあった。 東京大学 山内祐平氏による反転学習イメージ図9)を文献に示す。
このようにこれまでの学習では知識の習得を学校で、知識の応用を自宅などの家庭学習で行っていた。 反転学習ではオンライン動画などを用いて知識の習得は自宅などで、得た知識の応用を学校で行っている。 反転学習を行うことで学習量が増えることが分かっており、発展的な演習に向いた方法であると言える。
3.各種ツールと手法について 先行事例として、「Cornell university」10)、「Kahn academy」、「スタディサプリ」の三種を実際に受講し比較した。
無料で良質な化学の動画はまだ日本語での入手が難しい。Kahn Academyの動画を日本語に翻訳したものは数が少なく使いにくい。スタディサプリは概要を理解するのには良いが、有料でやや難易度が高い。 そこでKahn Academyを参考に自作の動画を72本作成した。 (ア) スケッチブック手書き方式 (イ) ビデオで撮影。基本的に無編集 (ウ) YouTubeで配信。「限定公開」設定とし、生徒以外には非公開 (エ) 撮影時間は15分以内 (オ) 動画のURLはQRコードに変換して授業内で配布するプリントに印刷
4.実践-効果と課題 反転学習は化学発展演習の授業で行った。 生徒集団の特徴 (ア)全員化学基礎・化学を履修ずみ (イ)学力差は大きい。 (ウ)進路は多様で学年も所属部もばらばらである。 全員時間割りがばらばらなので、補習等で学力差を補うのは厳しい。 そこで、プリントに問題と解説動画のQRコードを印刷して配布し、授業内で配布した。
初回の授業で平成27年度の化学基礎のセンター試験を解いた。また最終授業で平成28年度の化学基礎のセンター試験の問題を解いたところ、センター試験を受験した学生を母集団として算出した偏差値平均は16向上した。
反転学習で最も問題になるのは著作権の問題である。今回は事前に教科書会社に、生徒への限定公開である旨伝えて使用許諾を取った。学校によっては問題の解答を配布していないところもあるため、問題の解説動画は、解答がすでに書いてある例題に限定することが望ましい。また教科書会社によっては許諾を事実上拒否するケースもあるため、反転学習可能な教材が限られてくる欠点もある。 著作権法第三十五条の二による著作権の制限は、授業による利用という同時性と同報性をもつ場合のみ有効であり、それ以外の場合には著作権者の許諾が必要である。 反転学習は多くの可能性がある一方で善意の著作権法違反者もおり、適法に進めるには慎重な運用が望まれる.
5.参考文献 1)平成26年12月中央教育審議会答申 「新しい時代にふさわしい高大接続の実現に向けた高等学校教育、大学教育、大学入学者選抜の一体的改革について」 2)「今求められる学力と学びとは」 石井英真著 日本標準ブックレット 2015 3) 反転授業 単行本ジョナサン・バーグマン, アーロン・サムズ他 オデッセイコミュニケーションズ2014 4) Kahn Academy https://www.khanacademy.org/ 5) 「世界はひとつの教室」サルマン・カーン 2013 6) 「高等学校教育と大学教育の連携強化」に関する参考資料2013/12/03 7) すららhttp://surala.jp/school/ 8) スタディサプリ https://studysapuri.jp/ 9) 島根大学教育開発センター 反転授業公開研究会(FLIT共催)基調講演より 2014.2.12 10) https://www.cte.cornell.edu/teaching-ideas/designing-your-course/flipping-the-classroom.html Cornell university center for teaching excellence お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2019.12.22 14:50:04
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