カテゴリ:第二章 123 ~ 187 話
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こちらは病院内の階段を下りるゆうすけ。 踊り場の折り返し地点の中央部分で、しゃがみながら階段の手すりが取り付けられている 所から、目から上をちょんと出しては屈み、一段降りては顔を出しと、慎重に先へ進む。 降りた階の真前は少し開けた廊下があった。 右手にはイスとテーブルが置いてあるスペース、奥には本棚も見える。が、だれも居ない。 左手には、ナースステーションの文字がガラス張りの正面上に貼り付けられている。 ゆうすけ ( 昼間なのに、人の動きが無いな・・・ ウイルスの関係で、用足し以外は病室から出られないのかなぁ・・・・ ) 左右をこまめに確認。 しゃがみながらナースステーションの正面ガラス張りの下、カウンターになっている部分 まで進み、そ~っと顔を出して覗いてみる。 二人の看護婦がイスに座り、何か書きものをしている。 他に看護婦らしき人影は見当たらない。 と、今降りてきた階段の昇路から人の足音が聞こえた! 慌ててナースステーション斜め前のトイレに駆け込むゆうすけ。 そのまま手すりが備えられている大便用の一室に入り、扉を閉めた。 足音を耳で追うゆうすけ。 どうやら二人が連れ添っているようだ。 『おれ、ちょっと用足ししてくるよ。』 『あ、おれも。』 どうやら男性が二人らしい。 一番奥に当たるところに入り込んだゆうすけ、 二人は入り口とゆうすけいる奥の一室との中間辺りの小便器に立ったようだ。 ショボショボ、ジョーーー 『この状態はいつまで続くんだろうな・・・・』 『さぁな。 政府から OK 出るまでらしいが、早く普段に戻ってほしいな。』 『 OK 出るまでか・・・・、患者の動きが無いから暇で暇で・・・・』 ジョーーー ジョーーー 『まっ、給料はいつも通り出るらしいから、骨休みになっていいじゃないか。』 『まぁな。』 ジョボ ジョボ ジョーーー 『おまえはこの時間までか。』 『あぁ、明日が遅番なんでな。』 『そうか、帰りは防菌防護服着て出るのを忘れるなよ。』 『分ってるって。。。あれ着ないと出入り出来ないらしいからな。』 ジョボ ジョボ ジャーーー、 キュ コツコツコツ・・・・ 二人は手を洗い、そのまま出て行った。 息を潜めていたゆうすけ、 ゆうすけ ( なんだ~? やけにのんきな会話してやがるな・・・・。 それに 『防菌防護服着て出るの忘れるな』 だと??? 問題の大元のこの病院内は、まるでウイルスの対策をしていないじゃないか・・・。 ゾルダとか言ったな、あいつの服装もそのままだったし・・・・。 今の二人が戦闘員ではなく、病院関係者ってことは会話から読み取れた。 だが、病院内には戦闘員なんてまだ見当たらないじゃないか・・・・ 窓から出ていたら、何か起きていたのかな・・・? ) 二人が遠のいたころを見計らい、扉を開けて出てきたゆうすけ。 そのままナースステーションの看護婦の動きを注意しながら、奥の病室の方に 足を向けて、スタスタ、ペタ。 スタスタ、ペタっと、 小走りに走っては柱の影に、再び小走りに走ってはと、壁や通路の凸凹を うまく利用しながら移動する。 ゆうすけ ( くそ、病室は全て扉が閉まっていやがる・・・・ ) 浴室の入り口に隠れて立つゆうすけ、見回す全ての部屋の扉がしっかりと閉まっていた。 ゆうすけ ( 昨日までここに入院していた人達だっているはずなんだが・・・・ ) と、その時、今進んで来た方向のひとつの病室の扉が開いた。 中から誰かが出て来る様子。 角の壁をギリギリまで利用して、顔を斜に構えてそっと覗うゆうすけ。 開いた扉からゆっくりと出てきたのは、パジャマを着てスリッパを引きずるように歩く 白髪頭の一人の老女。 手すりにつかまりながら、ゆっくりゆっくりとナースステーションに向かって進み出した。 老女が歩く姿を見つめながらゆうすけ。 ゆうすけ ( なんだ、患者さんはいるじゃないか。。。 ) ゆっくりと歩を進める老女は、ナースステーション手前のお手洗いに入っていった。 ゆうすけ ( よし、あのお婆さんに聞いてみよう。 ) ゆうすけは辺りを見回し、再びゆっくりと前後の動きに注意をしながらお手洗いに向かい、 女子用入り口付近で老女が出て来るのを待った。 ナースステーションの中は、新たな動きはないようだ。 しばらく待つと、水洗の水の流れる音が聞こえ、個室の扉が開いて老女が出てきた。 ゆっくりと入り口付近の手洗い場に歩を進め、蛇口をひねって手を差し出した。 ゆうすけ 「お婆さん、お婆さん・・・・」 小声で呼びかけるゆうすけ。 しかし、老女は聞こえないのか、まったくの無反応・・・・。 ゆうすけ 「ねぇねぇ、お婆さん、お婆さんってば・・・・」 先程よりは少し声を大きくして再び呼びかける。 老女はまったく気が付かない様子。 ゆうすけは思い切って入口通路の真ん中に身体を移し、老女の視界に入るように立って みた。 すると、 老女 「あら、なんだね坊や。 ここは女の人の入るところだよ。」 掛かっていたタオルで手を拭き取りながら、老女が口を開いてくれた。 ゆうすけ 「うん、ちょっと通りがかっただけだよ。 お婆さん、なんだか皆さん静かにしてますね。」 老女 「えっ、あんだって・・・?」 ゆうすけ、この老女の耳がかなり遠いことを悟り、老女の耳元に顔を寄せて話しだした。 ゆうすけ 「お婆さん、皆さん静かにしてますね。」 老女 「そりゃそうさ、私語は慎むようにって、今日の朝・・・あれ、昨日だっけかね? 突然看護婦さんから言われてね。 なんでも耳がおかしくなって、良く聞こえすぎてしまう患者さんが入院したらしく ってね、声を出すとその大きな音で気が狂ってしまうとか。 だからみんな静かにしているのさ。 あたしゃ音が聞き取り辛いから、その事に理解できないんだけどね。 坊やの階の看護婦さんも伝えにきたじゃろうに。。。」 ゆうすけ 「そうだったね、ありがとう。」 ゆうすけは老女の手を取り、病室の前まで誘導してあげた。 老女 「やさしいね坊や、ありがとよ。 早く病室に戻りなよ、看護婦さんに怒られるよ。部屋からも用足し以外に出るなって 言われていたろう。」 ゆうすけ 「うん、そうする。」 老女は、ゆうすけの手を離して自分の病室の扉を開く。 そのスキにゆうすけは病室の中にチラっと視線を送った。 目に映ったのは、手前でベッドに横たわり、普通に本を読む老人。 反対のベッドには、TVを点けてビデオの映画をイヤホーンで聴いている老人の姿。 その奥は・・・・カーテンが閉まっていて見えなかった。 視線を送るゆうすけの目の前で病室の扉がゆっくりと閉まっていった。 ゆうすけ ( ・・・・なるほどね。 TV も見れないのか・・・・映像の娯楽はビデオだけなんだ。 患者さんには、ウイルスの事はなにも伝えていないんだな。 別の理由で事を進めているってことは、いつでも平常に戻せるようにってことか。 本当にウイルスの感染があるならば、きちんと伝えてしかりってこと。 つまり・・・・こいつはでっちあげの騒動の匂いがプンプンする! よしっ! ) なにかを決意したゆうすけ、 さっと振り向くと、今度は大胆にも堂々と廊下を歩き始めた。 そしてナース室の前に立ち、 コンコン 正面のガラスを叩く。 二人の看護婦が振り向き、一人がゆうすけの元へと歩いてきた。 看護婦 「キミ、出歩いちゃダメって言われてるでしょ?」 ゆうすけ 「患者じゃないんですよ。 下にいる関係者の親父に無理を言って、友人のお見舞いにきたの。」 看護婦 「お見舞い? 出入りできたのね。 そう。 それで用事ってなに・・・?」 ゆうすけ 「あのさぁ、 ニュースで話してるウイルスで亡くなった方の遺体、直ぐに焼却処分されちゃうの? 中には看護婦さんもって・・・・お友達でしょ・・・?」 看護婦 「なんだ、そんなこと。。。 関係者なんでしょ、聴いてないの? 誰も亡くなっていないわよ。 子供は心配しなくていいの。。。」 ゆうすけ 「なぁ~んだ、そうなのか。。。 お姉さん、ありがとう♪」 そう告げると、横の階段に駆け出したゆうすけ。 ゆうすけ ( よし、裏が取れたっ! ) 看護婦 「へんな子ね。。。」 階段の踊り場までスタスタと降りてきたゆうすけ。 だが、ここからは再び慎重に行動を始めた。 ~~~ ~~~ ~~~ -つづく- (ですってよ、お二人さん♪) ※ このドラマはフィクションです。登場する内容は、実在する人物、団体等とは一切関係がありません。 また、無断で他への転載、使用等を堅く禁じます。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2020年09月15日 11時24分15秒
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