カテゴリ:第二章 123 ~ 187 話
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震える手で連射した男の標的となった和恵、 発射された弾がスローモーションのように和恵に向かって飛んでいくっ! (ドックン、ドックン、ドックン)心臓の鼓動が聞こえる 一発目は右手で横に払うようにして、 二発目は再び返す右手で顔の少し右上で、 三発目は左手で少し伸ばすように上で、 四発目はちょっとジャンプして同じく左手で、 五発目は・・・・ そのまま目で軌道を追いながら見逃したのだった。 チューーン 一発だけ、和恵の立つ後方左上の壁に当たった。 店内にいた人には、和恵のジャンプして着地した姿だけが目に映っただけかもしれない。 カチン カチン カチン ・・・・ 無我夢中で、弾装が空になってもまだ引き金を引く黒服の男。 和恵ちゃん 「・・・・ おっさん、もう弾はないよ。」 和恵の声に、やっと気づいて引き金を引く指を止めた黒服の男。 例の如くすっと胸を張り、右足体重で左足を少し横に出し、腕組みをした和恵。 そして、 和恵ちゃん 「ちゃんと狙いなさいよ。 私はご覧の通りまだピンピンしているわよ。 まったく・・・簡単に引き金を引いたりして・・・ あのねぇ、あんた達! 人の命を何だと思ってるのっ! いいこと、良く聞いて。 この壁掛けになった男のように、戦いに身を投じてきた者はそれなりに 覚悟しているから、万が一命を落としても仕方ないのよ。 でもね 他様の命、自分勝手に殺(あや)めていいはずがないでしょ。 動物でも、昆虫でも植物でも。。。 この世に生を受けたものには生きる権利があるの。 そしてそれぞれに 持って生まれた使命により、それが 別の生き物の血肉になったりして他の 生き物の生きる糧になったり この地球に 生き物に酸素を供給したり、また はその生物が生き続けることで この地球上の何かに役に立つことをしてい るの。 さまざまな形で。 そこに居るあんた達もそう、 子供のころ、足元に居た小さい虫を「踏まれちゃうぞっ」って横に移動させたり、 庭先の花にお水をあげたりしたこと、一度はあるでしょ? その行為が この地球の何かのためになっていたりしているのよ。 助けた虫が その後鳥に食べられ、その鳥をなんだかの動物が食したとすると、そ の連鎖の一部分に関与して、この生物体系に一役かっているってことになるの。 まだ話そうか。 たとえば飲んだ暮れのオヤジ。 こんなやつだってそう。 お酒を飲むために たとえば道路工事の日雇いで働いたとする。 その人の労力のお陰で その後その道路をみんなが使えるってことになるの。 争いごとだって否定しないわ。 それは自分の子孫を守るため、今を生き抜くためだったりだけど、 増えすぎた種の数を調整する大自然の抑制だったりするの。 そんないつかは自分に形を変えて返ってくる、 そしてこの生物共同体のいわば宇宙船『地球号』の共に生活する生き物を・・・ それを人間の、一人の身勝手で無駄に殺めていいはずがないでしょっ!」 それを聞き、手にした銃をフロアーに落とす黒服の男。 和恵ちゃん 「今度この人達に手を出したら、壁掛けの人ぐらいじゃ済まないからねっ!」 組んでいた両手を目の前に差し出し 握っていた拳を上に向けて、ゆっくりと 両手のひらを開いて見せた和恵。 和恵ちゃん 「全部を取る事ないでしょ。 一発はマジックじゃなくちゃんと機能しているところを示すためにも 見逃したわ。」 そして手のひらを斜めにして、四発全てをフロアに落としたのだった。 ボト ボト ボト ボト 和恵ちゃん 「さてっと、あんた達。 これでも、まだ私と遣りたいのかしら。。。」 店内に控えていた黒服の男達、お互いに顔を見合わせてから、 『う、うわぁぁぁぁぁぁ~』 一目散に慌てて逃げ去ったのだった。 和恵ちゃん 「割腹(かっぷく)のいい白服のおっちゃん、 葉巻・・・・」 見ると、先程とは反対の足の太ももの上で煙を吹いていた。 白服のボス 『うわっ あちちっ!』 パンパン パンパン あわてて立ち上がり、その太ももを両手で叩く。 白服のボス 「み、水っ!」 和恵ちゃん 「渡さなくていいわ。 白服のおっちゃん 今私が言ったこと、判ったの?」 再び腕組みの姿勢をとる和恵。 ボスは直立不動で立ち上がり、 白服のボス 「あつつ・・・・わ、分りまし・・・・あちち・・・・たっ!」 和恵ちゃん 「分ったのなら、そこの壁掛けも連れてってちょうだい。」 白服のボス 「は、はいっ!」 とても素直に従うボス。 入口付近にいた黒服の取り巻きに指示を出し壁掛けの男を 担いで慌てて出行く。ボスは両方の太ももに穴を開けたままズボンから湧いて出る煙 を残しながら店の階段を上がっていったのだった。 ボスが階段を登り終えたころ、上では。。。 白服のボス 『うわぁぁぁぁっ!』 悲惨な光景に驚くボスの声。 見ると、辺り一面黒服男の山。 ある者は白のリムジンのガラスに突き刺さり、ある者は、反対側の電柱にぶら下がり。 通行人の野次馬達がその外周を覆っていたのだった。 徳江ママ 「何か・・・未だに良く分らなくて気が動転しているのだけど・・・・ お嬢さん、まずはお礼申し上げます。 通りすがりとは言え、わたくしのこの命を救っていただき、ありがとう ございました。」 和恵ちゃん 「気にしないで下さい。 本当に通りすがりの出来事なので。。。」 テーブルの上においてある保険申込書を手にして引き裂く和恵。 ビリビリ 徳江ママ 「本当になんとお礼申し上げれば良いのか・・・・」 和恵ちゃん 「いいんですってば。。。 でも命は粗末にしないで下さいね♪ じゃ、私はこれで。」 すっと振り向く和恵を引き止める徳江ママ。 徳江ママ 「お待ち下さい。 このままお帰りになられてはわたくしが困ります。 せめて夕食でもここで召し上がっては頂けないかしら・・・・」 うまいタイミングで、和恵のお腹が鳴る。 くぅ~ 和恵ちゃん 「あはは・・・・^ ^;;; 」 徳江ママ 「決まりですわね。 この有様では今日は営業できませんから。」 _/ ̄_/ ̄_/ ̄_/ ̄_/ ̄_/ ̄_/ ̄_/ ̄_/ ̄_/ ̄_/ ̄_/ ̄_/ ̄_/ ̄_/ ̄_/ ̄_/ ̄_/ ̄_/ ̄_/ ̄_/ ̄_/ とくさん 「この出来事がありましてからのお付き合いをさせて頂いております。」 美咲先生 「拳銃の弾も掴んでしまうの !? あの女(ひと)・・・・」 とくさん 「私は出会った時にそんな光景を目にしましたから、今では驚くことがありません。」 美咲先生 「そうですよね・・・・私もまだまだなんだなぁ・・・・・。 それで、そのホステスさんの借金って・・・・」 とくさん 「そのお店、権利書を親しい代議士の方に相談しまして。 お店は五月ちゃんがママになる条件ですが喜んで買って下さいました。 少し予定より多く手元に入りましたので、千紗ちゃんに利子の分まで添えて渡しま した。 かたはしっかりと付けることができました。」 美咲先生 「とくさんもしっかりものの強い方なんですね。 でも、突きつけられた選択肢では選ぶことがなかったお店の・・・・ よくそちらでけりをつけることが出来ましたね?」 とくさん、 「あのとき。。。 一度は亡くした命ですから。 死んだ気になると、なんでもできるんですね (^ ^ 」 笑顔で返すとくさん。 とくさん 「あとは売却した残りの現金と、蓄えの全財産を持参して、 和恵さんのところに私が押しかけたんですの。 当時まだ中学生で、まともに働くことが出来なかった和恵さん、 小さいアパートに一人住まい。 手元の費用は親から予めもらっていた僅かな残りだけでしたから。 そこでこの居酒屋を自宅と抱き合わせで建てて、最初は私がおかみとして 始めたんです。」 美咲先生 「そうだったんですか。。。二人にそんな経緯(いきさつ)が。」 とくさん 「わたくしは、今申し上げた通り、一度亡くした命です。 これからの人生とこのわたくし自身の全てを和恵さんに捧げるつもりでおります。 ご本人には荷が重くなると思いましたので、はっきりとは申し上げておりませんが。 言葉よりも行動で示す所存です。 それに命を救われた以上に、和恵さんの考え方に感銘を受けた次第でして。」 美咲先生 「そういえばこの間、こういち君も中学生らしからぬ同じようなことを口に していたわ。」 とくさん 「和恵さんの教えが活きているのか、ご両親からの・・・なのか。 お二人共、素敵なお考えをお持ちです。」 美咲先生 「こういち君といい ゆうすけ君といい、子供じゃなく大人にすら見えることが あるんです。一方ではまだ子供だったり・・・・。 変な子たちの担任になったものだわ。 教え甲斐があるのかなんだか分らないわよね ^ ^; 」 とくさん 「ひねくれていない、純粋な心をお持ちのところが何よりだと思いますよ。。。」 美咲先生 「そうですよね。」 -つづく- (ここに来るときに、一匹の猫に逢いました) ※ このドラマはフィクションです。登場する内容は、実在する人物、団体等とは一切関係がありません。 また、無断で他への転載、使用等を堅く禁じます。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2021年07月13日 15時03分23秒
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