新しい職場で
私の工事現場談はまた後にするとして、今日は、新しく配属になった部署での仕事について書いてみたい。私が、3年半の現場生活から、今の本社に移ったのがちょうど1年前。それまで、ヘルメットをかぶって、ピックアップトラックに乗って市内を運転し回っていた私は、ひょんなことから 『本社でこんな仕事があるけど、興味ある?』って現場監督さんに声をかけられた。現場の大工さんたちとすごくいい仕事関係ができていたし、果たして今更、一日中コンピューターの前に座る仕事に耐えられるかなという気持ちはあったものの、その時点では、私のキャリアのステップアップになると信じてオファーを承諾した。まず、工事が始まる前から、もちろんビルの設計が始まり、その後は部屋がどのようにレイアウトされるかが決まる。同時進行で、内装のオプションについての話し合いがもたれる。私は日本の住宅分野で働いたことがないので分からないけれど、今まで手がけた3つの分譲住宅は、それぞれかなりの量のアップグレードのオプションがお客さんに提供された。それは、フローリングの色や種類に始まり、キッチンカウンター(御影石が定番)、キャビネット、水道の蛇口のデザインにまで至る。特に、今手がけている分譲マンションのオプションは全部合わせたら何百になるから、本当に気が遠くなりそうなときが多々ある。それを、デベロパー専属のデザイナーさんがお客さんと商談するまでに、下請けさんから価格リストをもらって、うちの会社のoverhead & profitなどなどを計算して、デベロパーに提供するのが初期段階の仕事。さらに、中にはアップグレードにとんでもないぐらいお金をつぎ込むお客さんがいて、そういう人が、デベロパーの用意したアップグレードのリストに載っていないものが欲しい場合は、私たちが下請けさんと連絡を取って特別に価格を提供しなくてはならない、例えば冷蔵庫はKitchenAid社の物じゃなくて、SUBZERO社の物がいいとか、キャビネットをカスタムするとか、ゲスト用のベッドルームの壁を取り除いて、リビングを広くするとか、部屋全体にスピーカーシステムを装備するとかいったような要求まで出てくる。例えば、キャビネット一つ例にとっても、それをカスタマイズするということは、PLUMBING (上下水道), ELECTRICAL(電気設備), HVAC(heating, ventilation, air-conditioning)に始まって、大工仕事を含む様々な要素が絡んでくるから、それぞれの下請け業者さんとの連絡が必要になる。そういった、追加の価格注文の手配をし、レポートを作成するのが次の仕事。それから、お客さんが内装を全部決めて、内装工事の最終調整が行われると、私のところにfinal selection sheetsと呼ばれる物が届く、普通何十ページに及ぶこの発行文書には、部屋の図面を含めた、内装の微々たる物までがリストアップされていて、現場ではこれに沿って工事を始める。デベロパーとお客さんの間で話された、ありとあらゆる情報を、第三者である私たちが、間違いの無いように仕上げるのに必要な物だから、とても綿密な物。私の次の仕事は、その文書にエラーがないかチェックして、最終文書として現場と、下請けさんにコピーを発行すること。エラーが無い事は、残念ながらほとんど無いので、大体デベロパーに連絡をして正しい情報を提供してもらい、最終文書を仕上げる。たった一つの情報を、手違いでその文書に載せないことが、大変な追加の工事費につながることがあるから、もうハラハラものである。こうして現場に送られた情報に基づいて、後は現場の皆さんが間違いの無いように仕上げてくださるのを願うのが私の最後の仕事。毎日、現場の主任さんからの電話の質問に答えるのも最後の仕事。下請けさんからの、質問の電話に答えるのも最後の仕事。こうして、最終的に、部屋の引渡しまでこぎつける。今携わっている28階建て、250室の分譲マンションの仕事を始めたときは、毎日飛び交う情報量と、とめどなくやってくる締切日に圧倒されてしまった。不安になって、ボスに『こんなにフル回転でやっているのに、仕事の量が減らない。これって私のせい?』って聞いたら、『もう何年もこの仕事やってるけど、こんなに要求のきついプロジェクトは初めて』だって。おいおい、そんなプロジェクトを私に任せていいんかいなと思ったけど、まあ、間違いを犯さないと、成功しないっても言うし。 びびったままでも前には進めないよなと、ここで私の特許 『楽天家』の気質が役に立つ。ハハハハ。そういえば、私の好きな連続テレビドラマの役者さんが、マンション買ったらしい。サインもらえるかなーなんてのんきなことを考えながら、待ちに待った週末に突入である。