埋もれ火のアンソロジー

乳白色のホテルの中にいた。

菅野美穂という女優とぼくの結婚が決められていた。

ぼくは少し戸惑いながらそこに居たのだが

菅野美穂の嬉しそうな表情を見ると

最早、「結婚は望まない」とは言えなくなりつつあった。

でも

運命に逆らうことができないかのように階下におりていくと

小西真奈美が立っていた。

ぼくを見るなり走ってきて首を両手で抱いて

おもいきり体を預けてきた。

ぼくも小西真奈美の思いに応えるかのように

彼女を力強く抱きしめた。

小西真奈美は目に涙をいっぱいためながら微笑んでいた。

ぼくと小西真奈美の気持ちは太い糸でつながっているようだった。

何も話さなくても目と目で語り合うことができた。

ぼくは真奈美と結婚しようと思った。

そして階上でぼくとの結婚式を待ちわびている菅野美穂に

メールで謝ろうと思った瞬間

真奈美が目の前で貧血のように倒れた。

そして床に倒れた真奈美は硝子細工のようにパリパリと割れて

粉々になりキラキラ輝いていた。

ぼくは「真奈美！」と叫んだが

割れた硝子になった真奈美は静かに目を閉じていた。

小西真奈美は硝子の破片となって砕け散った。

ぼくは悲しかった。

が、再びよみがえると信じる気持ちがあった。


で、

これは夢であるので

突然場所が変わる。


そこは商店街だった。

伊万里のアーケード街のようでもあり

福岡天神の新天町のようでもあった。



商店街の通りの一角のテーブルにぼくはいた。

左に細坪基佳がいた。

正面に山木康世がいた。

右に３０代の知らない男。

ぼくが歌詞を書いていた。

３人がぼくの書く様子を見ている。



歌詞は２行目まで書いたところで

細坪が「いいじゃない、いいじゃない」と言う。

作詞のテーマは

硝子になって砕けた小西真奈美のことを歌にしようとしている。

旋律も歌詞とどうじにわいてくるのを感じた。

でも３行目からの言葉が出てこない。

右の男は音楽関係の人らしく

「コックンさん、できるだけ急いで作ってください」

などとぼくに言う。

ぼくはこころの中で

（山木さん、あとは助けてくださいよ～）と思いながら

山木さんを見る。

山木康世の目が

（自分で最後まで作れよ）

と言っている。



「ちょっとひとりにさせてください」

と言い

席をはなれて集中して歌詞を書こうとしたら

砕けて消えた小西真奈美への想いがあふれだし

歌詞を書くどころか悲しみに包まれてしまった。




階下から「お父さん、ご飯ですよ～」と細君の声がした。



え！夢だったのか！


歌はもうすぐ完成するのに

今起きたら忘れて消えてしまう。

そんな葛藤のなかで再び夢に戻ろうと努める。


歌はできない。



ふたたび階下から「はやく起きてくださ～い！」

と細君の声。



長崎に義母を送ってゆく日だったので

渋々夢での歌つくりをあきらめ起きたのであった。


おしまい。