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カテゴリ:ダンシング・オン・ザ・ウォーター
「美味しい!結婚していた時には、料理作ってもらったの、一度もなかったけど料理上手だったんだね」白雅が作ってくれたのは、葱としょうがと、鶏肉がたっぷり入ったうどんだった。
「美味いだろ?これ、お袋直伝、風邪引いた時のうどんなんだ。教えてくれた相手は、当時のエリザの恋人だった、医者の卵だったらしいぜ!」(。-∀-) ニヒ♪ 「風邪引いた時、義母さんに作ってくれたのかな、その恋人だった人。なんだか素敵かも」 「親父には言えない恋をさ、たまに酔っぱらうと言うんだよ!そんな時、エリザも女なんだなって想ったりする。今は、アメリカで外科医している、奏 将弘っていう名前なんだってさ!何度も聞いたから、名前憶えちまったよ!」 「その人の名前、聞いたことあるかも!えっと確か、シンディ妃のお姉さんの、手術を担当した日本人医師よ!すごーい!エリザさん、有能な人と交際していたのね!」 「なんだ、お前知ってるの?奏先生?何気に染姫って、博識だよな」よかった、少し気持ちが落ちついたみたいだ。「なぁ、この際だから、お前が不安に思っていることとか俺に話せ。お前の本心が解らないと、こっちだって対応できないよ!」 「私の本心?」「そう!包み隠さず話せよ。紅緒に言えなかった部分とか、あるんじゃないのか?」少し思案顔、やがてゆっくり話し出す。 「白雅には、言ってなかったね、私、産後欝って診断されちゃったんだよ。彼は知らないの。お薬はもらっていないんだけど、感情の起伏が激しくなったり、急に悲しくなったり。自分でもどうしていいのか解らない。頑張れば頑張ろうとするほど、空回りする感じ」 「ねえ、母親になるってこんなに大変なんだね。なってみて初めて解ったよ。私って弱いのかな・・・」 「それは違うと想うぜ?産後欝って最近増えているんだってさ!女性の場合、ホルモンバランスの変化とかで、メンタルが安定しなくなるからな。これでも俺、お前の出産にあたって、育児書みて勉強したんだぜ!」 「お前の場合、紅緒が育児に協力的だったから、その分あいつが日本に行って、余計しんどいんじゃないのか?俺はさ、愛美の父親でもある。だけど精神的な部分を支えるのは、俺の役割じゃない。十分理解しているだろ?」 「うん、解ってる。白雅、私はね、もっと強くなりたいの。だから此処に留まっているんだよ。彼と離れていても、一人で愛美をちゃんと育てたいから。そうしないと、他人に対して無関心になった、日本に行けない気がするから」 「いずれかは彼のところに行きたい。でもその為にはもっと自分が、そんな環境でも負けないだけの、精神力をつけなきゃならないって想ってる。身勝手かもしれないけど、その為に貴方に協力して欲しい。これが今の本音かな」 染姫の言葉に思案する。確かに、今彼女を日本に行かせても、きっと苦しめるだけ。紅緒も仕事と彼女の間に挟まれて、にっちもさっちもいかなくなるかもしれない。それならば現状維持だろう。 「解ったよ、お前が残りたいって言うなら、それを最優先にするさ!いっそ、ベビールーム作るかっ!!丹花も結婚したばかりだし、俺のところの従業員には育児中でも、安心して仕事してほしいからさ」 「白雅」「無理なんてしてないぜ。前から考えていたんだ。社員だけじゃなく、アルバイトの子達も見ながら。うちは社員は男ばかりだけど、それ以外は女ばかりだからさ。企業は女に優しくないと伸びないというのが、俺の持論だからな!うどん、のびちまうぞ、早く食え」 泣きそうになるくらい嬉しかった。白雅は言った事は必ず実現させる。貴方もそうだね?紅緒。私頑張るよ!一番強くならなきゃいけない自分が、ここで立ち止まっちゃいけない!だって、支えてくれた貴方を、今度は自分が精一杯支えたいんだから。 素直に頷いて、少し冷めてしまったうどんを食べ始める。「美味しい」小さく呟いて。 くったくたに疲れた身体を、ベットに横たえる。支えたい存在が側にいないのは、こんなにも苦しいなんてね。「染姫・・・」今君どうしてる?名前を呟くだけで切ないんだ。 慣れない日本での一人暮らし。自分にとっては初めての海外生活。ストレスから持病の喘息が発症して、酷く疲弊していた。君が側にいたなら、苦しさも半減するような気がするよ。彼女と離れる選択は、想像以上に過酷で、自身の体調をも、心すら不安定にさせる。 でも、同じ想いを君も味わってる。「男の俺が、根を上げるわけにはいかないさ!」空港で渡されたお守りを、強く握り締めた。 ダンシング・オン・ザ・ウォーター番外編 絆へ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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