[Mr.ラパンのブックレビュー] カテゴリの記事

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• お勧めのミステリー小説

  お勧めのミステリーを２冊ご紹介。「そして誰もいなくなった」（Agatha Christie）「そして誰もいなくなる」（今邑 彩）。１冊目は、言わずと知れたChristieの名作。無人島に招待された10人が童謡の歌詞通りに次々と殺されていくというお話。２冊目は、その話を劇化して上演した女子校の演劇部での連続殺人のお話。特に２冊目は、何回もどんでん返しが楽しめる。

  2011/01/12

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• 高村薫「マークスの山」

  今更かもしれないが、古本屋で高村薫「マークスの山」を見つけて読んでみた。ストーリーそのものももちろん面白いのだが、警察内部の描き方が他のミステリーと異なる。(もっとも、単なるミステリーと分類されたら、著者は心外かもしれないが。)出てくる警察関係者が、どいつもこいつも癖のある連中なのだ。幹部は、永田町や検察の方ばかり気にしているくせに隙あらば警察の手柄にしようしている。現場は現場で、本庁と所轄が、さらには同じ本庁の中でさえ情報の隠しあいして手柄争いをしている。中間管理職の課長・主任クラスは、上を気にしつつ、現場にも気を使って、結果、胃を壊している。とにかく誰一人同じ方向を見ているように見えないのだ。「踊る大捜査線」でも、本庁と所轄の確執は出てきたが、これほどひどくはなかった。これが警察の実態なら、秋田の連続殺人事件がなかなか解決しなかったのも仕方ないか、と思えてしまう。しかし、そんな中でも、現場の刑事(デカ)たちは、「ホシを必ず挙げる」という最後の一線ではしぶしぶながらも協力しあう。そんな男同士の渋い関係が、くせになりそうな小説だ。同じ著者の「地を這う虫」は、退職した刑事ばかりを主人公にした短篇集だ。退職しているだけに、さらに屈折した男ばかりで、これもなかなか面白い。

  2006/11/22

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  「伝わる、WEBテキストのつくりかた」［実用書］

  「伝わる、WEBテキストのつくりかた」（1600円）画像、Flashなどの動画によるWebデザインの本はたくさんありますが、テキスト（つまり普通の文）に関する本は、唯一ではないかと思います。一見目立つ、画像、動画よりも、普通のテキストを見直す方が、Webサイトのアクセス件数アップに役立つといいます。判りやすい文章を書くためのノウハウを紹介しており、Webサイトだけでなく、一般の文章を書く際にも有効なので、一冊持っていて損は無いと思います。

  2006/01/27

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  「頭がいい人、悪い人のパソコンの使い方」［実用書］

  「頭がいい人、悪い人のパソコンの使い方」という本を買った。「頭がいい人」に見せるための裏ワザがいろいろ紹介されている。読んでみると、中級者以上ならすでに使っているワザもけっこうある。しかし、意外と知らないこともあって、なかなか面白い本だと思う。たとえば、「すべてのウィンドウを一挙に最小化する方法」がある。私なら、「クイック起動」にある「デスクトップの表示」をクリックするが、本書では、「Windowsキー」＋「Ｄ」キーという方法を紹介している。

  2005/12/16

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  「誘拐の果実」［推理小説］

  「誘拐の果実」（真保裕一著、集英社、2005年11月、680円）大手病院院長の孫娘が誘拐された。犯人の要求は、未公開株疑惑で病院に身を隠す財界の大物の命。病院側と警視庁は、対応に苦慮する。一方、神奈川では、第二の誘拐事件が発生した。こちらの犯人の要求は…。★Ｄｒ．ラパンの解説（ネタバレ有り、注意！）推理小説の中での誘拐事件のハイライトは、なんといっても身代金の受け渡しをめぐる犯人と警察の駆け引きにつきる。だが、さすが、真保裕一だ！作中で起こる二件の誘拐事件は、どちらも単純な身代金要求ではない。特に、第二の誘拐事件での要求は秀逸だと思う。ここからネタバレです。第二の事件の犯人は、なんとある会社の株券を購入させることを要求してきたのだ。株券にした場合、犯人側のメリットは、現金に比べて分量が圧倒的に小さくなることがある。たとえば、額面1000円で単位株が1000株なら、100万円の札束が、たった１枚の株券になってしまうのだ。ただ、これだけでは、1000ドル紙幣に替えさせる手口と近い。しかし、ここからが驚くべき手口なのだ。身代金に当たる株券を受け取りに来るのが「善意の第三者」であった場合を想定した点が新しい。その「善意の第三者」が、ぜんぜん別の場所で犯人に代金を支払えば、犯人は警察の前に一度も姿を見せずに、結果的に身代金を手に入れることになる。（この場合の「善意の第三者」とは、手形のパクリなどで手形を割り引く業者のように、犯罪にからむ株券であることをうすうす気づいている場合も含んでいる。）心配になるのは、これを実際に実行する人間が出てこないか、ということだ。株券でなくても、たとえば手形を介した身代金要求に対して、現在の警察力は対抗できるのだろうか。いずれにしても面白さは抜群！読み始めると、なかなか止められないのが玉にキズ（笑）新幹線の車内で読もうとキオスクで買って、けっこうな厚さの文庫2冊だが、3日間の出張で読破してしまった。

  2005/11/26

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  「落語手帖」［教養書］

  「落語手帖」 （矢野誠一著、講談社、1984年7月、1344円（税込）） 　２７４の演目について、梗概、成立、鑑賞、芸談などを解説した落語のコンパクト事典。 　青菜、あくび指南、明烏、愛宕山、あたま山、居酒屋、居残り佐平次、浮世床、厩火事、火炎太鼓など、有名な演目は、すべて収録している。 ★Ｄｒ．ラパンの解説（ネタバレ有り、注意！） 　「半可通」という言葉がある。いわゆる「知ったかぶり」、つまり、「よく知らないくせに、詳しく知っているような振りをする人」のことである。 　本書を読めば、（「落語通」になれないかもしれないが）「落語半可通」くらいには、なれる。　 　落語をよく知らない人でも演目名くらいは知っている、有名な噺（はなし）２７４作品について、１作品１ページで「梗概（あらすじ）」、「成立」、「鑑賞」、「藝談」、「能書」をまとめてある。 　中でも私が好きなのが「能書」。知らなくてもよいし、知っていてもあまり威張れない薀蓄（うんちく）が書かれている。（たとえば、「目黒のさんま」のページには、「目黒のさんま」発祥の地の史跡説明版が、目黒区三田二丁目にあると記されている。まさに、「トリビア」的な薀蓄である。） 　本書を読んで興味を持った噺があったら、ぜひ本物の落語を聞いてほしい。それも志ん生のような名人級の噺を聞いてほしいものだ。 　本で読むなら、興津要の「古典落語」もよい。「するってぇと何かい？」という噺家の語り口そのままに落語を読むことができる。残念ながら、このシリーズも絶版なので、楽天フリマなどで探してみてほしい。（この書評、絶版や品切れの本ばかり薦めているような気がする（笑））

  2005/06/12

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  「ＦＬＰ完全読本」［実用書］

  「ＦＬＰ完全読本」 （檜山圭一著、四海書房、2002年4月、1500円）　1978年に米国アリゾナ州フェニックスに設立されたFLPは、天然栄養食品のアロエベラジュースを主力製品とするネットワークビジネス会社。FLPの製品の優秀さと魅力ある報酬制度を判りやすくまとめた解説書。 　これからＦＬＰのネットワークビジネスに参加するという初心者はもちろん、すでに認定会に出席してディストリビューターになっている方にとっても、有益な情報が満載の一冊である。 ★Ｄｒ．ラパンの解説（ネタバレ有り、注意！）　巷にネットワークビジネスの本はたくさんあるが、ことＦＬＰに対象を絞った解説書は本書のみである。(実はもう一冊刊行されているのだが、発行が1999年5月と古いため、あまりお薦めできない。)ＦＬＰの理念から始まり、ＦＬＰ栄養食品やＦＬＰ基礎化粧品の特徴、ＦＬＰのビジネスの基礎知識などを網羅している。 　ボーナスの計算方法の例も図を使って説明しているので、なかなか判りやすい。残念ながら、ジョナサンボーナス（グループの下が「マネージャー」という資格に昇格した場合）の例が載っていない。このあたりが実は判りにくい点なので、できれば図を使って実例を説明してほしかった。 　しかし、一番興味深かったのは、トップ・ディストリビューターたちへのインタビューだ。間々田さんや酒井さんなど、ＦＬＰの世界を少しでも知っている人なら誰でも知っているような「有名人」がいっぱい登場する。成功する人は、いい意味で「変人」ばかりだ。逆に、こういう考え方が無理なくできるところが一般人とは異なるのかもしれない。　ただ、誰でも最初から順風満帆だったというわけではない、ということに勇気づけられもする。

  2005/06/12

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  「アリバイの唄」［推理小説］

  「アリバイの唄」（笹沢左保著、日本文芸社、1999年11月、550円） 　孫悟空タクシーのドライバー・夜明日出夫（よあけひでお）は元警視庁捜査一課の凄腕刑事。　ある晩、彼は東京駅から一組の男女を乗せるが、客の一人の料亭の女将が三週間後、蒲郡で撲殺されてしまう。殺害現場に残されたメモから夜明の幼馴染みの社長令嬢に容疑がかかる。彼女の無実を証明するため、彼は捜査に協力するのだが…。　タクシードライバー夜明日出夫の事件簿、第１作。★Ｄｒ．ラパンの解説（ネタバレ有り、注意！）　テレビ朝日系全国放送“土曜ワイド劇場”人気シリーズ、渡瀬恒彦主演「タクシードライバーの推理日誌」原案。　推理小説の探偵役には２種類ある。１作きりの探偵役とシリーズものの探偵役である。中でもシリーズものの探偵役は設定が難しい。　警察官でもない主人公が次から次に事件に遭遇するというのは、リアリティーが乏しいからだ。しかも、読者を飽きさせないためには、事件は日本各地で起こってくれなければならない。また、容疑者のアリバイや証拠など、ある程度の警察情報を得られる立場にいる主人公でなければならない。（テレビの２時間ドラマでは、主人公の夫や弟が刑事だったりする設定が多いのは、そのためであろう。）　たとえば、内田康夫は、主人公・浅見光彦の職業を全国各地に行けるルポライターにして、兄を警察官僚という設定にすることで解決している。　この本の解説にも書いてあったが、このシリーズでは、元刑事のタクシードライバーを主人公にすることで、この「難問」を解決している。　タクシードライバーであるから、さまざまな人と合う機会が多いし、客に頼まれれば全国どこへでも行くことができる。しかも、元刑事なので、後輩刑事から情報を得られる。（それどころか、このシリーズでは、後輩刑事が捜査協力を求めてくるので、タクシー料金を払ってくれて、かつ事件に関わることができる（笑））

  2005/06/12

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  「凶鳥〈フッケバイン〉　ヒトラー最終命令」［架空戦記］

  「凶鳥〈フッケバイン〉　ヒトラー最終命令」 （佐藤大輔著、角川文庫、2002年10月、620円） 　１９４５年、敗色濃厚なドイツ。総統官邸地下壕に追いつめられたアドルフ・ヒトラーは、戦局を一気に逆転できる、驚嘆すべき情報を手に入れた。　 　南東ドイツの上空で正体不明機をドイツ空軍が撃墜した。その正体不明機こそが、ドイツでは“フッケバイン＝凶鳥”と恐れられ、アメリカからは幽霊戦闘機と呼ばれ、世界中の科学者が性能に称賛を与えるものだった。　ヒトラーは、親衛隊に正体不明機の回収を命じるが…。　第二次世界大戦の勝敗を左右するヒトラー最後の命令。 　未曾有の構想で描かれた冒険小説。 ★Ｄｒ．ラパンの解説（ネタバレ有り、注意！） 　この小説は、いわゆる「架空戦記」である。しかし、内容を見ると、「ＳＦ小説」でもあり、「ホラー小説」でもある。「ファーストコンタクト」ものとも言える。一方、「パロディ小説」ではないか、とも思える。 　第二次世界大戦末期、ドイツ軍と異星人（と操られた地球人）との凄惨な戦闘を描いた小説である。　しかし、出てくるＵＦＯは、どうやら「アダムスキー型」らしいし、最後に出てくる宇宙人は、今は懐かしき日テレ矢追プロデューサのＵＦＯ特集に出てきそうな「グレー型宇宙人」である。アメリカ軍のＵＦＯ回収作戦の暗号が「ＭＪ－１２」というのも笑える。（「ＭＪ－１２」とは、一部ＵＦＯ研究者が存在を主張する、アメリカ合衆国のＵＦＯ関係秘密組織。） 　登場する兵器もユニークだ。ドイツ軍を現場まで輸送するのはヘリコプターであり、暗視装置や超巨大戦車なども登場する。どれも、まったくの架空ではないが、当時は構想のみで実用化はされていなかったものばかりだ。 　異星人と戦うドイツ部隊も、ジャック・ヒギンズの「鷲は舞い降りた」のパロディかと思える設定だ。プロとしての誇りのために勇敢に任務を遂行しつつも人間としての尊厳を忘れない指揮官、そして、その指揮官を信頼する有能な部下たち。　舞台がドイツ本国であるせいか、さすがにＩＲＡの闘士は出てこないが(笑)　さらに、無能なくせにやたら威張っている親衛隊、強制収容所から連行されてきたユダヤ人科学者、物語に彩りを添えるイギリス人女性捕虜、謎めいたアメリカ人捕虜、実在のドイツ軍特殊部隊指揮官まで登場し、まさに「てんこもり」の小説である。 　と、ここまで書くと否定的な解説に見えるが、この設定と登場人物を破綻なくエンターテインメント小説にまとめあげた作者の筆力は大したものだと思う。　どうせ最後はハッピーエンドだろうと想像できても、最後まで一気に読ませてしまうパワーが感じられる。なによりも、面白い。　いささか主人公のドイツ人将校を美化しすぎている感は否めないが、ドイツ軍ファンの私としては、「連合軍＝善、枢軸軍＝悪」といったステレオタイプよりは、受け入れやすかった。　主な登場人物のその後を最後に記しているのもなかなか余韻があって私の好みに合っていた。

  2005/06/02

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  「さらばロンメル（上、下）」 ［小説］

  「さらばロンメル（上、下）」（ローレンス・ウェルズ著、扶桑社、1988年5月、各550円） 　１９３７年、ドイツ国防軍の将校５人が偽名を使ってニューヨークに到着した。その中に、後に「砂漠の狐」と呼ばれることになる若き日のエルヴィン・ロンメル大佐がいた。この旅の目的は、南北戦争の戦跡見学である。一行はミシシッピー州ゲティスバーグへ向った。 　ドイツ研究を専攻していたアメリカ軍のスパイグナー中尉は、ドイツ語の通訳として、一行に加わった。ロンメルに出会ったスパイグナーは、ユーモアに富み少年のようにナイーブなこの軍人に魅かれ敬愛するようになった。ロンメルも、この軍人らしからぬ青年将校に好意を持つ。 　ロンメルは、南北戦争の英雄的将軍ネイサン・Ｂ・フォレストに強い興味を示す。他のドイツ軍将校たちが古戦場見学に退屈する中で、彼だけは、フォレスト将軍の戦略思想を貪欲に学び続けていく。 　４年の時が流れ、北アフリカ戦線では、「砂漠の狐」率いるロンメル軍団にイギリス軍は翻弄されつづけていた。そこへ、ドイツ軍将校の情報に詳しい、スパイグナー中尉が派遣されてきた。ロンメルが、かつて学んだフォレスト将軍の戦略思想を応用していることに気づいたスパイグナーは… ★Ｄｒ．ラパンの解説（ネタバレ有り、注意！） 　「講釈師、見てきたような嘘をつき」　この小説の発想は、たった１枚の古い新聞記事から生まれたという。それは、「１９３７年、５人のドイツ軍将校が、南北戦争の南軍の作戦を研究するために訪米し、古戦場を見学した」という短い記事だった。 　この５人の将校のうちの一人が、第二次世界大戦の名将「砂漠の狐」エルヴィン・ロンメルだったらどうだろう。そして、その後の彼の作戦がアメリカ訪問で学んだことを応用していたら…という奇抜なアイディアから、この小説は生まれたという。 　もちろん、新聞記事にロンメルの名前はないし、史実では彼がアメリカを訪れたという記録も存在しない。　しかし、１９３７年当時、ロンメルはポツダムの陸軍士官学校の教官をしており、当然南北戦争などの戦史に少なからぬ興味を持っていたことは容易に想像できる。また、常に部下の先頭に立って戦い、合衆国史上最高の騎兵隊指揮官と呼ばれたフォレスト将軍に強い関心を持つことも、十分に考えられる。 　「真っ赤な嘘」なのだが「あってもおかしくない嘘」。という点で実にうまくできた小説だと思う。 　しかし、私がこの小説で一番なのは、アメリカについたばかりのロンメルが、この見知らぬ国アメリカをひとり歩き回っている場面だ。野球を見物して「変な競技だ」と不思議がったり、ニューヨークのストリートガールとトンチンカンな会話をしたり、夜のセントラルパークで強盗にあい見事な陽動作戦で無事に切り抜けたりするシーンが、ロンメルファンとしては、実に楽しい。　戦記にはけして表れない、人間ロンメルの姿が、生き生きと描かれていて、「きっとこんな人だったのだろうなぁ」と思ってしまう。ここでも、「講釈師」は、見事に「見てきたような嘘」をついている。

  2005/06/01

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  「密告（Secret Information）」 ［警察小説］

  「密告（Secret Information）」 （真保裕一著、講談社、2001年7月、859円） 　川崎中央署・生活安全課総務係の萱野巡査部長は、ある日、課長の矢木沢から面罵された。八木沢の接待疑惑を密告したと疑われたのだ。二人の間には、射撃競技選手時代のオリンピック出場権をめぐる確執があったため、矢木沢は、密告者は萱野と決めつけていた。　　 　周囲の冷たい視線の中、真の密告者を探し出し自らの汚名を晴らすため、孤独な単独捜査を始める萱野。真実に迫るにつれて執拗な妨害工作が始まる。知らず知らずのうちに、茅野は、警察機構内部に潜む巨大な闇に踏み込んでしまったのか？ ★Ｄｒ．ラパンの解説（ネタバレ有り、注意！） 　警察小説である。　ただ、主人公の萱野は、捜査一課のような刑事捜査の専門家ではない。生活安全課という地味な部署の中の、さらに地味な総務係の事務職の警察官である。書類仕事に明け暮れている平凡な毎日のいわば「小役人」である。 　しかし、萱野には、もうひとつの顔があった。以前、オリンピック選手候補になったこともある射撃選手だったのだ。警察では、そういう警察官を「特別訓練員」と呼んで特別扱いしているそうだ。仕事はほとんどせずに、それぞれの特殊技能の訓練をしている特殊な集団だ。その特別訓練員時代に、オリンピック出場をめぐって確執のあった上司が密告されたため、上司本人はもちろん、周囲も萱野の「犯行」であると信じたのだ。 　この特別訓練生時代の確執や人間関係が、伏線となっていて、最後の最後で意外な「真の密告者」が明らかになる。 　警察官ということで、我々のような民間人に比べれば、捜査も簡単にできるように思える。しかし、警察官だけに、縄張り意識や組織の壁に阻まれることも多い。このあたりのバランスが絶妙である。

  2005/06/01

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  「兵法三十六計」［教養書］

  「兵法三十六計」 （守屋洋著、三笠書房、1985年9月、520円） 　有名な「孫子」を筆頭に、中国の兵法書は、「戦わずして勝つ」ことをもっとも望ましい勝ち方と位置付けてきた。武力でなく、知力で勝つということである。武力で戦えば、少なからず味方に損害が出る。しかし、知力を使って戦えば、損害を最小にすることができる。また、勝利をより確実にすることもできる。 　古来、中国人は、このような戦い方を上策として心がけ、膨大なノウハウをたくわえてきた。本書は、言わばそういう知略の集大成である。 　本書が、いつの時代に、誰の手によって書かれたのか、定かではない。いろいろな知将・名将が実践してきた戦略を後世の人たちがまとめたものと言えよう。物語に出てくるような派手な戦略はひとつもない。しかし、そのような歴史の試練を乗り越えてきた戦略ばかりであるからこそ、どれも役に立つものばかりとも言えるのである。 　合理性に富み、無理のない考え方は、単に戦争の策略としてだけでなく、ビジネスや日常生活にも十分に活用できるはずである。 ★Ｄｒ．ラパンの解説（ネタバレ有り、注意！） 　「三十六計、逃げるに如かず（＝が勝ち）」　この兵法書を知らなくても、このことわざは知っていると思う。 　実際、本書の最後の策「第三十六計」は、「走(に)ぐるを上と為す」（戦いを避けるのが最良の戦略である）となっといる。　状況が不利な時は、迷わず逃げる。当たり前のことだが、無茶な戦いをしかけて、致命的な敗北をしてしまった例は、古今の戦史にやまほどある。特に、「潔さ」を尊ぶ日本人には、「当たって砕けろ」式の思考が多い。この違いを本書では、「国土の広さの違い」ではないかと推理している。狭い日本では、逃げるにも限界があるが、広大な中国大陸においては、その気になればいくらでも逃げることができる。逃げ切ることができれば、戦力を温存し、好機を捉えて大逆転もできる。そこで、逃げるのも有効な戦略となったという。 　凡将ほど、進むことは知っていても退くことを知らない。なぜなら、退却戦ほど難しい戦いはないからだ。命からがら逃げている中で部下の戦意を維持し、整然と統率していくのは、並大抵なことではない。「精鋭」も退却しはじめれば「烏合の衆」になりがちである。 　もちろん、逃げることばかりを薦めているわけではない。しかし、すべての戦略の基本に、「不利なときは逃げるのも有効な選択肢」という思想があるように思える。だから、柔軟な発想をできるのかもしれない。 　第二次世界大戦末期のヒトラーのように、「１ミリも退却するな！」「勝利か死か！」などと、命令されたら、どんな名将が戦っていようと勝利は難しい。（公平を期するため書くと、緒戦のころのヒトラーは、なかなかの戦略家である。本書の事例にもいくつか登場する。）

  2005/06/01

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